ゲーム音楽家活動36周年 『スーパードンキーコング』を手がけたデビッド・ワイズの足跡

1989年~1992年 レア社とデビッド・ワイズの成長期

 初期の音楽制作は挑戦の連続であった。さらにレア社は創立から数年間、非常にタイトなスケジュールで開発を行っており、それに伴ってデビッドの作曲・編曲スキルもどんどん磨き上げられていく。1つのタイトルの音楽制作にかけられる時間は、多くが1~2週間(非常に運がよければ4週間)だったというのだから、察するに余りある。下記の一覧は、1989年から1992年の4年間でレア社が開発・移植・元請けで関わったゲームである。いくつかピックアップしていきたい。

【注記1】発売年月はmobygamesのデータを参照(発売月が不明なものは発売年のみ表記)
https://www.mobygames.com/

【注記2】スタッフロールでデビッド・ワイズのクレジットが確認できるものには★をつけ、レア社が移植を担当した作品、Zippo Gamesの開発作品は※で補足した。

【1989年】
NES『Sesame Street 123』(1989年1月)※開発:Zippo Games
★NES『WWF WrestleMania』(1989年2月)
NES『John Elway's Quarterbac』(1989年3月)※移植
NES『Marble Madness』(1989年4月)※移植
NES『Taboo: The Sixth Sense』(1989年5月)
NES『California Games』(1989年6月)※移植
NES『Sesame Street ABC』(1989年9月)※開発:Zippo Games
NES『World Games』(1989年6月) ※移植
★NES『Cobra Triangle』(1989年7月)
NES『Jordan vs. Bird: One on One』(1989年8月)
NES『Hollywood Squares』(1989年9月)
NES『Who Framed Roger Rabbit』(1989年9月)
NES『Jeopardy!: Junior Edition』(1989年10月)
NES『Wheel of Fortune: Junior Edition』(1989年10月)
NES『Ironsword: Wizards & Warriors II』(1989年12月)※開発:Zippo Games
NES『Silent Service』(1989年12月)※移植

 Acclaim Entertainmentから発売された『WWF WrestleMania』は、プロレスラーのテーマアレンジを中心とした内容。バンバン・ビガロの初期のテーマ(作曲者不詳)や、ホンキー・トンク・マンのテーマ「Honky Tonk Man」(作曲:ジョン・ホートン)、ハルク・ホーガンのテーマ「Real American」(作曲:リック・デリンジャー)、ランディ・サベージのテーマ「威風堂々」(作曲:エドワード・エルガー)などを、勘所を押さえたアレンジで聴かせる。なお、アンドレ・ザ・ジャイアントとテッド・デビアスは本来のテーマとは別の曲に置き換えられており、前者は「Stand Back」(作曲:ジム・ジョンストン)、後者は「Girls in Cars」(作曲:ロビー・デュプリー)となっている。

 Minton Bradleyから発売されたNES移植版『Marble Madness』も、デビッドの秀逸なアレンジワークが堪能できる一作だ。ブラッド・フラーとハル・キャノンが手がけたアーケード版の原曲を可能な限りNESで再現しようとしたデビッドの意気込みが伝わってくる(1991年にはゲームボーイ移植版も発売された)。Tradewestから発売されたタロットカード・リーディングゲーム『Taboo: The Sixth Sense』は、ミステリアスなタイトルBGMを筆頭にクラシカルな楽曲が充実している。各タロットカードのテーマBGMはわずか数フレーズだがどれもキャラクターが立っている。「Strength(力)」のカードのテーマが「ロッキー」風なのは御愛嬌だろう。『Ironsword: Wizards & Warriors II』は第1作の哀愁の雰囲気はそのままにメロディアスな度合いをいっそう強め、フォーキーなメロディを配したメインテーマはノイズを効果的に交えて重厚な響きを聴かせる。

【1990年】
★NES『Double Dare』(1990年)
NES『Ivan 'Ironman' Stewart's Super Off Road』(1990年)※移植
NES『NARC』(1990年)※移植
NES『Snake Rattle 'n' Roll』(1990年)
GB『Wizards & Warriors X: The Fortress of Fear』(1990年1月)
NES『Wheel of Fortune: Family Edition』(1990年3月)
★NES『Pin-Bot』(1990年4月)
NES『Captain Skyhawk』(1990年6月)
NES『Jeopardy! 25th Anniversary Edition』(1990年6月)
GB『The Amazing Spider-Man』(1990年7月)
NES『Cabal』(1990年7月)※移植/開発:Zippo Games
★NES『Solar Jetman: Hunt for the Golden Warship』(1990年9月)※開発:Zippo Games
NES『Time Lord』(1990年9月)
NES『A Nightmare on Elm Street』(1990年10月)
NES『Super Glove Ball』(1990年10月)
NES『Arch Rivals: A Bascket Brawl!』(1990年11月)※移植
NES『WWFレッスルマニアチャレンジ』(1990年11月/日本版はホット・ビィから1992年3月発売)

NES『Digger T. Rock: Legend of the Lost City』(1990年12月)

 1990年の前後に、レア社ではゲーム開発に用いていたサウンドドライバーに改良が加えられ、音の響きにも若干の変化がみられるようになった。Acclaim Entertainmentから発売された『Wizards & Warriors X: The Fortress of Fear』は、『Ironsword: Wizards & Warriors II』の後日談として制作されたゲームボーイ用ソフト。メロディとノイズが織りなす美しいハーモニーがアップテンポなリズムにマッチしたメインテーマはシリーズ楽曲でも指折りの存在感を放っている。

 Nintendo of Americaから発売された『Snake Rattle 'n' Roll』は、アイソメトリック・ビューのアクションゲーム。ゲームタイトルは、ビッグ・ジョー・ターナーが歌い、ビル・ヘイリーやエルヴィス・プレスリーによるカバーでも著名な楽曲「Shake, Rattle and Roll」のもじりである。1950年代のロックンロールのようなサウンドがほしいというティム・スタンパーの要望に応えるべく、デビッドはレコードショップでロックンロールのアルバムを買い漁り、ジャンル研究に明け暮れた。1993年にはメガドライブ移植版がセガから発売。2020年にはNES版とメガドライブ版の楽曲を収録したサウンドトラックレコードがFangamerから発売され、デビッドが制作当時を振り返ったライナーノーツが収録されたこともトピックとなった。

 そこには、NES版のステージ6・9・10のBGM「Lethal Ledge Leaps」(メガドライブ版では「Ice Cube Cliffs」としてステージ10・12のBGMに使用された)にまつわる、ちょっとした裏話が綴られている。タイトスケジュールのなかで一通り楽曲制作を終えたデビッドは土曜の夜に飲みに出かけて日曜の朝に自宅に戻ったが、数時間後にティムから突然電話がかかってきた。「金曜の夜にステージを新たに追加したから、今日中にもう1曲ほしい」という要請を受け、デビッドは自宅に迎えに来たスタッフとともに社に戻り、その日の夜になんとか曲を完成させた。二日酔いで本調子ではない状態で急いでつくった楽曲であることをデビッドは申し訳なく思っていたが、スタッフからは「ゲームにピッタリだ」と好評で、そのまま実装され、ゲームも無事に発売された。焦燥感を煽るアルペジオのフレーズが非常に印象的な「Lethal Ledge Leaps」には、制作当時のデビッドの切羽詰まった状況がストレートに投影されていたのだ。

 Tradewestから発売された『Solar Jetman: Hunt for the Golden Warship』と、Milton Bradleyから発売された『Time Lord』は、NES時代のデビッドの脂ののった仕事が存分に堪能できるタイトルだ。『Solar Jetman: Hunt for the Golden Warship』は、Ultimate Play the Gameから1983年~1984年にかけて発売された『Jetpac』『Lunar Jetman』の精神的後継作であり、異なる重力下の惑星で慣性のついた自機を操作するという挑戦的なゲームデザインの全方位アクション・シューティング。BGMはメロディよりも世界観や雰囲気の演出に特化しており、ポストロックやミニマルテクノのような趣を感じさせる楽曲がプレイヤーにディープなトリップ感をもたらしている。『Time Lord』はエイリアンの脅威が迫る2999年の地球の危機的状況を打開するべく、プレイヤーはタイムトラベル技術を駆使して西暦1250年のイングランド、西暦1860年のアメリカ西部、西暦1650年のカリブ海地域、西暦1943年のフランスといった異なるタイムゾーンに赴いて歴史を改変していく時間制限つきのSFアクション。巧みにディレイを効かせ、フォーク/中世音楽、カントリーウエスタン、ワルツ、ミリタリーマーチのエッセンスをキャッチーに昇華した楽曲が大きな特徴で、とりわけ、めまぐるしく変化する曲調でドラマティックな聴き心地を生みだす中世ステージBGMが絶品だ。

【1991年・1992年】
NES『Danny Sullivan's Indy Heat』(1991年)※移植
NES『Sesame Street ABC & 123』(1991年)※開発:Zippo Games
GB『WWFスーパースターズ』(1991年/日本版はホット・ビィから1992年2月に発売)
NES『Beetlejuice』(1991年5月)
GB『Marble Madness』(1991年5月)
NES『バトルトード』(1991年6月/日本版は日本コンピュータシステム/メサイヤから1991年12月発売)
GB『Sneaky Snakes』(1991年6月)
NES『High Speed』(1991年7月)
NES『Sid Meier's Pirates!』(1991年10月)※移植
GB『Super R.C. Pro-Am』(1991年10月)
GB『バトルトード』(1991年11月/日本版は日本コンピュータシステム/メサイヤから1994年1月発売)
MD『Championship Pro-Am』(1992年)
NES『R.C. Pro-Am II』(1992年)
AC『X the Ball』(1992年)
GB『Beetlejuice』(1992年1月)
NES『Wheel of Fortune featuring Vanna White』(1992年1月)
NES『Wizards & Warriors III Kuros: Visions of Power』(1992年3月)※開発:Zippo Games

『バトルトード』については後述するが、この時期は旧作の続編、あるいはリニューアル/バージョンアップが多くを占めている。LJNから発売された『Beetlejuice』は、ティム・バートン監督のホラーコメディ映画『ビートルジュース』のゲーム化。映画の劇伴はダニー・エルフマンが手がけたが、ゲーム版はすべてデビッドのオリジナル曲で構成されている。おどろおどろしさとコミカルで楽しげな雰囲気を併せ持った楽曲は、いずれも1ループが長めな点も特徴的だ。「Penalty Room」(木星)のBGMでは「騎士たちの踊り」(プロコフィエフ作曲のバレエ音楽「ロメオとジュリエット」より)のフレーズがノイズと絶妙に混じりあい、中毒性が高い。『Wizards & Warriors III Kuros: Visions of Power』は、アイリッシュ・ミュージックの要素も感じさせるオープニングテーマを皮切りに奥行きを感じさせる凝った構成の楽曲群が並び、騎士ギルドのショップBGMが第1作メインテーマのリメイクである点も心憎い。開発終盤でZippo Gamesが解散したためシリーズ最終作となってしまったが、音楽的には集大成と呼ぶにふさわしい内容である。

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