レースゲームにおける“本物”の音作りとは? 『Forza Motorsport』オーディオディレクターに聞く

 10月10日、「Forza」シリーズの最新作となる『Forza Motorsport』(PC/Xbox Series X|S)が発売された。すでにお気に入りの車を見つけて、本格的なレースを楽しんでいるというプレイヤーも多いかと思うが、今回はそんな同作の大きな魅力の一つでもある「音」について、長らくXboxのレースゲームに関わってきたオーディオディレクターのNick Wiswell氏に話を伺うことができた。

 以前のハンズオンプレビューでも書いた通り、本作はコアなモータースポーツファンだけではなく、筆者のようなカジュアルなプレイヤーでもつい夢中になってしまう奥深い魅力を持つレースゲームだ。その要因のひとつが、リアルで迫力のあるサウンドであることは間違いないだろう。今回のインタビューでは「そもそもレースゲームの音ってどうやって作っているんだろう?」という初歩的な質問から、本作の音作りにおけるこだわり、テクノロジーの進化による影響まで幅広く話を伺うことができた。(ノイ村)

最大12本のマイクで行われる収録

――そもそもの質問になってしまうのですが、『Forza Motorsport』のようなレースゲームの車の音は、どのようにして作られているのでしょうか?

Nick Wiswell氏:それでは、まずエンジン音からお話ししましょう。私たちはXboxのローンチタイトルとして発売された『Project Gotham Racing』(2001年)から20年以上に渡って録音を続け、Xboxのレーシング・プロジェクト向けのサウンド・ライブラリを構築してきました。このライブラリを幅広く活用することで、可能な限り正確な音を作り上げています。

 実際に車の音を録音する際には、最大で12本ほどのマイクを車のいろいろなところに設置して収録を行います。たとえば、エンジン音を収録する場合であれば、エンジンベイや排気口、コックピットまで、さまざまな場所からその音を捉えるようにしています。また、エンジンベイ自体においても、当然、メカニカルな部分や空気の動き、トランスミッションなどいろいろな音がありますから、それぞれにマイクを用意して、実際に車を走らせながらそれらの音を収録しています。

 また、タイヤの音については、レーシングカーと電気自動車の両方の音を収録するようにしています。(電気自動車の方が)音が静かですからね。そのうえで、レース用のトラックや駐車場などさまざまな場所を走らせていきます。それも直線を走ったり、カーブを曲がったり、ブレーキを踏んだり、スピンしたりと、さまざまな場面でのタイヤの音を捉えるようにしています。私たちは30種類以上の異なる路面に応じた、さまざまな場面に対応したデータを持っているのです。そのため、例えばゲームプレイ中に車がスリップするときにも、小さなキュキュっとした音から大きなスリップ音までスムーズに変化させることができるんですね。

――なるほど。

Nick氏:あと、レコーディングをしていて一番楽しいのは、衝突やクラッシュの音を収録することですね(笑)。基本的には廃車置き場で何日もかけて実施するのですが、大きなハンマーを使ってひたすら壊し続けたり、車をクレーンで引っ張り上げて落としたり、それもただ落とすだけではなくて、ルーフからだったり、横向きだったり、いろいろな角度から落とすんですよ。そういった音をすべて録音していくことで、大きな衝突が起きたときの音を捉えるようにしています。あと、ハンマーはもちろんですが、他の装置なども使い、より小さな音や、細かなディテールまで再現できるようにしていますね。

――個人的にもプレイしていて、特に衝突するときの音は、聴いていてどこか「良い音だなぁ」と感じていたのですが、そうしたこだわりのおかげなのですね。「Forza」はXboxの中でも特に長く続いてきたシリーズだと思うのですが、やはり録音におけるテクノロジーも進化してきたのでしょうか?

Nick氏:もちろん、年月を経てテクノロジーは格段に進化しています。20年くらい前には48kHz/16bit(サンプリングレート/ビットレート)で録音していましたが、今ではそれが192kHz/24bitでできてしまうわけですからね。

 また、以前は「ダイノ(Dyno)」と呼ばれるランニングマシンのようなものを使って、車を一定の位置で走らせながら録音をしていました。これはとても良くできたものだったのですが、基本的に屋内で実施することになるので、反響が大きいのと、(ダイノの)ローラー音自体も結構大きかったんですよね。

Mazda 787B Dyno Recording -- Forza Motorsport 4 / 参考:『Forza Motorsport 4』(2011年)のダイノによるレコーディング風景

 でも、いまでは実際に滑走路やレーストラック上で録音することができます。車が実際に路上を走っているので、これまでよりもずっと正確に音を捉えることができるようになりました。それが一番の変化かもしれませんね。

 現在の最も大きな課題は、風の音が入らないようにすることですね。そのため、車体に設置するマイクはなるべく車の後ろの方につけるようにしています。また、タイヤからのロードノイズもどうしても発生してしまうのですが、屋内で録音していた時よりは容易に対処できます。

――そうして録音された音源は、ゲームという仮想空間の中でどのようにシミュレートされているのでしょうか?

Nick氏:すべての音がゲームエンジンの3D空間に配置されていきます。ただ、それぞれの車ごとに、エンジンの位置は前なのか後ろなのかを考慮したり、あとは排気口というのは現実にはプレイヤーの後ろにあるわけですが、もしカメラが車の後ろに移動したら、その音は(ゲームでは)前方から聴こえてくることになりますよね。つまり、すべての音が正しく動く必要があるわけです。ただ、今回はモータースポーツのゲームとして初めてDolby AtmosやDTS:Xといった空間オーディオを採用しており、音がどこから聴こえてくるのかといった位置情報を、以前よりも遥かに正確に再現することができます。

 また、私たちは非常に詳細な音響モデルを作っており、空間における音の反響をシミュレートすることができます。たとえば、ピットビルのような建物に音が反射しているのを聴くことができますし、コース上を走っているときにも、コース端のバリアに近付いていくと、音が反射して聴こえてきます。私が個人的に気に入っているのはトンネルやオーバーパス(高架)の下を通り抜けるときに、実際にモデル化しているので音が上や横からしっかり反射して聴こえてくるところですね。

――たしかに、トンネルを通るときの音響は、実際にプレイしていても強く印象に残っています。ちなみに、Dolby AtmosやDTS:Xといった空間オーディオを使うことによって、プレイヤーは具体的にどのような違いを感じられるのでしょうか?

Nick氏:大きく二つのポイントがあると思います。まずは、ホームシアターのように多くのスピーカーのある環境を使うことで、より没入感のある空間を作り出せるということですね。従来のように、プレイヤーに対してフラットに音量が固定されてしまうということがなくなります。また、ハイトスピーカーなどを加えることによって、実際にヘリコプターが上空を飛んでいるような感覚であったり、トンネルの中を走るときに音が上から聴こえてくるような感覚を得ることができます。これにより、プレイヤーは今までよりもさらに深くその世界に没入することができるようになります。

 二つ目はヘッドホンについてです。誰もが自宅にDolby Atmosの素晴らしい環境を持っているわけではありませんが、テクノロジーのおかげで、そういった体験をヘッドホンの中でも再現することができます。プレイヤーは特に追加でコストをかけなくても、普段使っているヘッドホンのプラグを挿すだけで、従来よりもさらに没入感のあるリアルな体験を味わうことができるのです(※)。

※XboxとPCでは、通常のヘッドホンで空間オーディオオプションを楽しめる。Dolby Atmos for HeadphonesとDTS Headphone:Xのオプションはどちらも有料のアドオンだが、1回の購入で両方のプラットフォームで使用できる。

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