“手段”を作る設計から感じた、ゲームとアクセシビリティが持つ可能性 PS5・Accessコントローラー先行体験会レポート

 2023年12月6日、ソニー・インタラクティブエンタテインメントはPlayStation 5向けのアクセシビリティコントローラーキット「Access コントローラー」を発売する。本稿では、先日実施された本商品のメディア先行体験会のレポートをお届けする。

Access™ コントローラー 機能紹介映像 | PS5®

 今回の体験会は、開発者や有識者、当事者の方々による講演と、Access コントローラーの試遊体験、登壇者へのインタビューという3つのパートに分かれて実施された。本稿ではその内容をまとめていくが、筆者個人として、実際に登壇者の方々の話を伺い、Access コントローラーを触りながら感じていたのは、あらためて実感するビデオゲームにおけるアクセシビリティの重要性と、「ここからさらにビデオゲームの可能性が広がっていくかもしれない」という大きな希望だった。

 また、予め書いておきたいのは、Access コントローラーがこれまでにはない極めてユニークなプロダクトであり、その背景にあるアクセシビリティという分野自体も、まだまだ認知度の低い状態にあるのが実情であるということ。だからこそ、この日の体験会は「ただ新しいコントローラーを試す」だけではなく、アクセシビリティそのものを学ぶような場にもなっていた。

 本稿では、その内容をなるべく再現するために「ビデオゲームにおけるアクセシビリティの重要性」、「Access コントローラーの開発背景と、その機能について」、「Access コントローラーの試遊インプレッション」、「Access コントローラーの登場による、今後のビデオゲーム業界に対する展望」という流れで進めていくが、それに伴い、非常にボリュームの大きな記事になっている。一気に読むのは大変かもしれないので、無理せず、少しずつ読んでいただけると幸いだ。

1. ビデオゲームにおけるアクセシビリティの重要性

「障がい」とは何か? なぜビデオゲームにおけるアクセシビリティが重要なのか?

 まずは日本支援技術協会理事の田代洋章氏が講演で語った次の言葉から本編を始めたい。

左から田代洋章氏、干場慎也氏

 「『障がい』って何なのでしょう? 日本では、いまだに障がいは『その人自身の特性』だけを指していると捉えられていることが多いのではないでしょうか。国際的には、WHOが定義した国際機能分類において、障がいとは『個人の特性と環境の相互作用によって生じる動的な状態』であるとされています。たとえば、日本語しか話せない人が非日本語圏の国へ出かけた場合、それは一種のコミュニケーション障がいというわけです。個人としては困っていなかったとしても、環境によって障がいを感じることになるのです。個人の特性を支援する、多様な方法を受け入れる環境があれば、障がいを感じることは少なくなるのではないでしょうか」

 アクセシビリティという分野は、「自分には関係ない」という考えのもとにどうしても見逃されてしまったり、優先順位が下がってしまうことがある。だが、いまは関係ないと思っていたとしても、環境の変化や身体の変化、不慮の事故などによって、いつ状況が変わるかは分からない(たとえば、年齢を重ねるにつれて、以前よりもゲームを楽しむことが難しくなったと感じている人は決して珍しくないだろう)。何より、そうした“環境”によってビデオゲームを楽しむことができずにいる人々の存在を忘れてはならない。

 肢体不自由のある方々のためのアシスティブ・テクノロジーの提供を行っているテクノツール株式会社で広報を担当し、自身も脊髄性筋萎縮症の当事者である干場慎也氏は、ビデオゲームにおけるアクセシビリティの重要性について次のように語った。

 「アクセシビリティの発展は、ただ何かを便利にするだけではないと思います。現在までにさまざまなゲームが生まれ、プレイヤーは主人公や、競技の選手となり、その物語を体験してきました。その経験が自分や他の誰かに与える影響というのは計り知れないものであり、それを元にして新しいクリエイティブが生まれていくと思っています。これはゲームに限らず、音楽や映画や小説といったさまざまなアートもすべて、何かの影響を受け継ぎ、後に誰かに影響を与えるという循環によって継承されていくものではないでしょうか。ですが、その入口の部分で躓いて、そういったたくさんの物語や、感動や興奮を知ることなく過ごしてきた方々もいらっしゃると思うのです」

 ビデオゲームが好きな人であれば、きっとこの言葉に深く共感するのではないだろうか。バリアフリーeスポーツを推進・支援する活動を実施している、株式会社ePARAの畠山駿也氏は、自身の体験を交えながらゲームの影響力の大きさを次のように語る。

畠山駿也氏

 「身体的な制限がある方や特別なリスクを持つ方にとって、ゲームはエンターテインメントの一環であり、コミュニケーションの手段でもあります。私は筋ジストロフィー症という難病に生まれ、子どものころから車椅子に乗り、外で友だちと遊ぶことがあまりできませんでした。そのような生活のなかで、ゲームだけが唯一、友だちとつながりをつくり、コミュニケーションを取ることができる手段でした」

 アクセシビリティの発展は、(自分自身を含めた)誰もが快適で生きやすい環境や社会へとつながるだけではなく、より多くの人々に“新たな体験”を与え、新たなクリエイティブの瞬間を生み出すきっかけになる。ビデオゲームの持つ力は大きく、だからこそAccess コントローラーのような商品の登場や普及が重要となる。

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