オーディオ評論家・野村ケンジがオススメする 

これからの旅シーズンに使いたい「美音&ノイキャン」最強イヤホン

 旅といえば、目的地は当然のこと、移動時間も存分に楽しみたいもの。時に流れゆく風景を、時に音楽や映像コンテンツなどを楽しむのもいい。しかしながら、電車や飛行機での移動時は騒音がつきもの。そういった環境で音楽を存分に楽しむためには、高性能なANC(アクティブノイズキャンセリング)機能は必須。また、装着感がよく、持ち運びにも邪魔にならない小型サイズのTWS(完全ワイヤレスイヤホン)であることもマストな条件といえる。ということで、今回は旅にピッタリのANC機能を搭載したTWS、もちろん音質的にも魅力ある製品をいくつかピックアップして紹介しよう。

機能も音も万能、特にクラシック好きにオススメ
Technics『EAH-AZ80』

 ANC機能も音も妥協したくないという人には、先日Technicsから発売されたばかりの最新モデル『EAH-AZ80』はいかがだろう。

 こちら、TechnicsブランドTWSの新フラッグシップモデル。これまで最上位だった『AZ60』はMk2モデルとして同タイミングでリニューアルされているが、こと音質面で差別化されたフラッグシップモデル、という位置づけとなる。そもそもTechnicsには『AZ70』というフラッグシップモデルが存在しており、発売時期の違いによって“数字の小さいモデルの方が高機能”となってしまっていたが、この夏、2つの新モデルが登場することで、フラッグシップモデルと上級モデル、それぞれのポジションが明確になった印象だ。

 基本的な部分の採用技術は両者ともに同じ。たとえば、独自システムを採用するハイブリッドANCやLDACに対応するコーデック、Panasonic「おたっくす」などデジタルホンの技術を活かしたマイク性能などは変わらない。対して音質に関しては、上級クラスの有線イヤホン『EAH-TZ700』の技術を踏襲したアルミ振動板採用10mmダイナミック型ドライバーや、小型化と音質向上を両立させる独自デザインのアコースティック・コントロールチャンバーなど、『EAH-AZ80』ならではの技術が投入されている。

 そのほか、発売時に大いに話題となった「3台マルチポイント接続」(3台のBluetooth機器と同時接続)はとても便利。バッテリー持続時間も、NCオン時でイヤホン本体が約7時間(AAC)、専用ケースからの充電を含めると約24時間使用可能となっている。

◎注目ポイント

 『EAH-AZ80』の魅力は幾つもあるが、旅をテーマとした利用の場合に大きなメリットとなるのが、ANC機能とマイク性能、そして音質だろう。

 ANC機能はデジタル演算処理を行うフィードフォワード方式と、遅延の少ないアナログ制御を採用したフィードバック方式を組み合わせたハイブリッドタイプを採用。これによって、騒音を充分に押さえ込みつつ、自然な音色のサウンドを実現している。実際に聴いてみると、ANC機能を搭載する低価格TWSにありがちな音のざらつき感が皆無で、素直に音楽に集中できる。

 いっぽう、マイク性能も自慢のひとつ。独自の通話音声処理技術を搭載し、通話中の周囲のノイズと発話者の声を判別しているので、声が明瞭で聴き取りやすい。また、風の音や周りの騒音なども巧みに抑えられており、会話がし易くなっている。

 そして肝心の音質はというと、ヴォーカルやアコースティック楽器がとても自然な音に聴こえる。空間表現も巧みで、オーケストラの演奏などは迫力のよさとともに雄大な広がりを感じさせてくれる。音色的な相性も含めてクラシック好きにオススメしたい製品だが、同時に、J-POPやロックなども楽しめる万能選手でもある。小型化された専用ケースも含め、旅にひったりの、完成度の高い製品だ。

すべてがちょうどいい、そして音も魅力
ag『UZURA』

 finalが全面監修するオーディオブランド、agの小型軽量モデル。こちら、2021年発売のロングセラーモデル『COTSUBU』のANC機能搭載バージョンといえる存在だが、小型軽量という基本コンセプトは変わらず、イヤホン本体や専用ケースのデザインを変更することで個性的で可愛らしいデザインに纏め上げられている。カラーもシックな色合いから淡いくすみ系まで7色ものバリエーションが用意されている。

 まさに名前の通りウズラの卵っぽいデザインの小型で可愛らしいイヤホン本体は、片側約5.7g(イヤーピース付)とANC機能モデルとしては比較的軽量。加えて、独自の「3Dフィット設計」を採用することで、幅広いユーザーに対して快適な装着感を実現しているという。さらに、イヤーピースは音質と装着性の両面で定評をもつfinal製「TYPE E」を5サイズ同梱。SSサイズも用意されているので、小さな耳の方にもしっかりフィットさせることが可能だ。

 さて、肝心のANC機能については、フィードフォワード(イヤホン外側マイク)によるシングルタイプを採用。もちろん、コストを重要視したチョイスであるのは確かだが、逆にその特徴を活用し、原理的に音質と圧迫感のない心地よさを優先したANCを作り上げているという。また、外音取り込み機能については「まるでイヤホンを着けていないような自然な外音」を実現したとアピールしている。このほかにも片耳モードやIPx4の防滴性能など、日常使いに重宝しそうな機能性も持ち合わせている。

◎注目ポイント!

 可愛らしさやカラフルさに目を奪われがちな『UZURA』だが、実はよく考えられた、しっかりした造りの製品となっている。たとえばデザイン。耳からの飛び出しはさほどなく、「3Dフィット設計」も相まって、なかなかに快適な装着感を持ち合わせている。また、気になるANC機能については、効きの強さとしてはこれで充分なのでは、と思えるレベルを持ち合わせている。ハイブリッド構成ANC搭載の他社上級モデルには効き具合や万能さで劣るものの、ファンノイズなど耳障りな騒音をしっかり押さえ込んでくれるため、移動中に充分役立ってくれるだろう。

 音質についても、充分な魅力を持ち合わせている。基本的にはナチュラルテイストなサウンドキャラクターで、ジャンルを問わないオールラウンダーに仕上がっている。アコースティック楽器は自然な音色だし、いっぽうでJポップも迫力がよく楽しい。そもそも、高域は刺激が少なくそれでいて伸びやかな、低域もフォーカスを重視しつつ必要充分な量感を確保していたりと、絶妙なバランスをもつサウンドチューニングが施されているので、長時間聴き続けてもあまり疲れない。音質面でお気に入りとなる人もいると思うので、まずは試聴してみることをオススメする。

ANC効果抜群の高コストパフォーマンスモデル
EarFun『Air Pro 3』

 キレの良い迫力サウンドが魅力の中華ブランド、EarFunの最上級モデルが第3世代へと進化した。最上級モデルとはいえ、実際の価格は8990円前後とかなりリーズナブル。それでいてハイブリッド構成のANC機能が搭載されている、コストパフォーマンスのよい製品に仕上がっている。

 ちなみに、ANC機能についてはフィードフォワード+フィードバックによるハイブリッド構成のANCシステムを搭載。さらに、SoCに組み込むソフトウェアに自社エンジニアが開発した独自技術「QuietSmart 2.0」を組み合わせることで、-43dBもの高性能さを実現している。近年は、Bluetooth SoCに用意された“つるし”のANC機能をそのまま使うだけの製品も多いが、EarFunでは独自のソフト、独自のチューニングによって高度なANC機能を実現している。正直、この価格でここまで高性能なANC機能を持ち合わせている製品はほとんど存在しない。ANC機能を重視したい人にとっては、これだけでも十分に魅力的といえる。いっぽうで、Qualcomm社の最新Bluetoothチップ「QCC3071」を採用している点もメリットといえる。BluetoothコーデックがaptX adaptiveまで対応しているほか、新世代コーデックのLE AUDIOにも対応予定となっているので、将来的にも遜色なく楽しめるはずだ。

◎注目ポイント

 なんといってもコストパフォーマンスの高さが魅力の製品。それでいて、ANC機能に関してもかなりの実力派というのだから驚いてしまう。実際、ハイブリッド構成のANC機能を搭載しているのは2万円前後が主流、安くても1万円台前半だから、『Air Pro 3』の価格設定は群を抜いているといってもよい。それでいて、安かろう悪かろうにはならず、独自技術によってかなり高性能なANCともなっている。実際に試してみると、効き具合はなかなかのものだった。強すぎるのを嫌う人がいるかもしれないが、飛行機内などでは大いに重宝してくれそう。もうひとつ、風切り音対策も行われているようで、屋外で外音取り込みをした状態でも全くといっていいほど気にならなかった。このあたりにも、自社調整のメリットが現れている部分だろう。

 いっぽうで、音質に関しても(同ブランドのフラッグシップモデルだけあって)手抜かりはない。基本的にはメリハリ重視、低域強めのサウンドバランスだが、日本からのリクエストに応えたサウンドチューニングを行っているとのことで、単なるドンシャリ、単なる重低音にならず、音色がなかなかに自然。ANC機能にはこだわりたいけどコストを抑えたいという人には、最有力候補となるだろう。

デザインがすべて? いえいえ機能も魅力的
HUAWEI『FreeBuds 5』

 まるでイヤリングか何かのような、ユニークなデザインをもつインナーイヤー型イヤホン。あえて分類すればスティック付のインナーイヤー型となるが、イヤホン本体が全体的に曲線構成となっているためイヤホンらしからぬ、まるでアクセサリー製品のような、これまでのTWSとは全く異なる印象を持ち合わせている。

 また、機能面でも充実した内容。インナーイヤー型でありながらも、ANC機能を搭載。外耳道の構造や装着状態、環境音などを片側3つずつのマイクで自動検知し調整することで、インナーイヤー型であっても効果的なノイズ低減を実現しているという。また、トリプルマイクと独自アルゴリズムによる効果で、通話時は声を強調しつつも周囲の騒音を低減、騒がしい環境にいても自然でクリアな音声を伝えることができる。

 音質面でも、ドライバーにデュアルマグネット機構や音圧強化技術を採用したφ11mm口径のダイナミック型ドライバーを搭載することで、16Hz~40kHzのワイドレンジ再生を実現。さらに、LDACコーデックに対応しているなど、随所にこだわりが垣間見られる。

 このほか、バッテリー持続時間はイヤホン単体で最大5時間、充電ケースと組み合わせると最大30時間の音楽再生が可能。さらに、約5分間の充電で最大2時間の音楽再生が楽しめる急速充電にも対応している。マルチポイント接続や、IP54の防塵防滴機能など、最新モデルならではの充実した機能性を持ち合わせている。

◎注目ポイント!

 はたして、インナーイヤー型でANC機能がしっかり効くのかと不安に思ったが、なかなかどうして。暗騒音と呼ばれることのある低域をメインに、しっかり騒音を低減してくれるので、移動中は大いに役立ってくれそう。また、音質の自動調整もなかなかインテリジェンスで、イヤホン本体を両手で押さえて聴いてみたところ、最初かなりボリューミーだった低域がスッと控えめになり、バランスのよいサウンドとなってくれた。装着状態にリアルタイム対応してくれ、常に最適なサウンドへと調整してくれるのだ。これはいい。

 実際のサウンドも中域を重視したバランスながら、高域は少しだけキラキラした表現、低域はフォーカスと量感のバランスがよいなど、絶妙なサウンドチューニング。ヌケはよいのに鋭すぎず、クリアで広がり感のよいサウンドが楽しめる。女性ヴォーカルはちょっとだけハスキー寄りだが、それぞれの声の魅力がしっかりと伝わってくる。カナル型が苦手、もしくは長時間付け続けたくない、という人にはとても魅力的な製品だ。

ANC機能だけでなく音質も魅力!
BOSE『QuietComfort Earbuds II』

 ANC(アクティブノイズキャンセリング)機能を最優先するのであれば、いちばんのオススメはやはりBOSE『QuietComfort Earbuds II』だろう。ANC機能に関しては老舗中の老舗であり、一日の長を持つBOSEの完全ワイヤレスイヤホンの第3世代モデルは、小型軽量化を実現。使い勝手も大きく向上している。というのも、Bose製TWSはこれまでかなり大型な筐体サイズで、耳穴の小さい人や女性が使うには少々厳しいところがあった。しかし『QuietComfort Earbuds II』では先代の約1/3という驚くほどの小型化を実現することで、軽快な装着感をもたらしてくれるようになった。

 それでいて、ANC機能については先代以上に秀でている。ANC効果を最大にすると辺りの音が全く感じられない。静粛な空間を実現しつつ、ANC特有の圧迫感はそれほど感じさせない絶妙な調整具合となっている。いっぽう、効き具合を緩めると、人の声はなんとなく伝わってくるけどファンノイズや暗騒音など耳障りな音はしっかりマスクしてくれるのでありがたい。好みや場所によって積極的に使い分けしたい、インテリジェントなANCだ。また、アプリも秀逸で、先代から継承したANCと外音取り込みがシームレスに10段階調整できる操作はとても分かりやすく扱い易い。

 このほかにも、連続再生時間が最大6時間に伸びていたり、IPX4の防滴性能を確保していたり、Qualcommの最新コーデック「aptXロスレス」対応を予定していたりと、上級モデルならでは、多彩で使い勝手のよい機能性を持ち合わせている。

◎注目ポイント!

 小柄なイヤホン本体は、デザインが秀逸だ。耳穴のホールドが弱いセミカナル型のため、長時間の装着時にもあまり負担に感じないが、それでいて、耳からこぼれ落ちることがほとんどない。また、『QuietComfort Earbuds II』にはセミカナル型のイヤーチップに加えスタビリティバンドと呼ぶ小柄なイヤーフックが付属しているため、ユーザーそれぞれにマッチした装着を行うこともできる。このあたりは、セミカナル型イヤホンを長らく作り続けているBOSEならではのアドバンテージだろう。

 いっぽう、機能性や装着性だけでなく、そのサウンドもなかなかに魅力的。個人パーソナライズ機能「CustomTuneテクノロジー」の効果も大きいが、BOSEらしい、迫力のよさと自然な音色が巧みに両立した、旧きよきボストンサウンドを彷彿とさせてくれる絶妙なサウンドチューニングに仕立てられている。おかげで、歌声や演奏が活き活きとした印象的な、それでいて聴き心地のよいサウンドを楽しませてくれる。ヴォーカルは男性も女性も自然な歌声で、リアリティを感じる。また、自然な音色傾向によってクラシックからJポップまで、様々な音楽にマッチしてくれるのもいい。高級モデルに相応しい機能性と音質を持ち合わせた、良質な製品だ。

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