ウメハラこと梅原大吾が語る「ウメ散歩」挑戦の裏側 「昔みたいにバカなことができるのか」

 格闘ゲーム業界のレジェンド・梅原大吾のライブ配信が面白い。ライブ配信プラットフォーム『Twitch』への復帰第一弾となった大型企画「ウメ散歩」は、「仙台から青森まで約300kmを歩く」という、まさかのアナログすぎる内容だった。しかし、言ってしまえば「おじさんたちが歩いているだけ」の企画を1万人以上が同時視聴し、関連キーワードがSNSのトレンドに入るなど、大きな話題になった。

 6月2日に発売が迫っている『ストリートファイター6』でも、梅原はトッププレイヤーとして活躍するだろう。そのなかで、プレイヤー同士のドラマを作り、有名無名、プロか初心者かすら問わず、対戦/観戦が広く楽しまれる環境を生み出すため、梅原は配信企画を構想し続けているという。

 プロゲーマーのパイオニアにして、現在もシーンのトップを走る梅原大吾は、ますます人気を高めている「ライブ配信」にどんな意味を見出し、どんな思いで取り組んでいるのか。じっくり話を聞いた。(編集部)

「これ(ウメ散歩)ができたら、自分の本質は変わっていないと思えるんじゃないか」

梅原大吾

――今回、Twitchでの配信を再開した経緯から教えてください。

梅原大吾(以下、梅原):もともと大型イベントはリーチの広いTwitchで配信することが多かったんです。海外の視聴者の方も簡単に見られるのがいいですよね。今回、6月2日に『ストリートファイター6』が発売されるんですが、これは国内だけでなく海外の人たちも注目しているタイトルなので、今まで以上に海外も視野に入れたい。Twitchで配信することでそういった方々にも配信を届けたいという思いがあります。

――ゲームを中心とするライブ配信プラットフォームであり、おっしゃるようにグローバルな広がりのある『Twitch』へ復帰後初の大型企画が「仙台から弘前まで約300キロを歩く」という、アナログ&ローカルな内容だったのが面白かったです。

梅原:いくつかのパーツがあってできた企画でした。まずひとつが、プロシーズンが終わって、かつ『スト6』の発売まで時間があり、長期の企画に挑戦できるようになったこと。もうひとつは、僕は青森で生まれたんですが、東京に引っ越してから自分の意思で青森に帰ったことが一度もなかったんですよね。そんななかで企画を検討していたときに、「24時間歩く配信はどう?」という企画が上がって、そこに肉付けして「それなら弘前まで歩いていくか」と。

――最初は東京から歩くくらいの勢いでしたよね。

梅原:できることならそうしたかったんですが、仲間が取れる休みの限界を越えてしまうので、現実的ではないだろうと。それで仙台から弘前になりました。

――わりと突発的にスタートした印象で、大々的な告知はありませんでしたが、最終日は配信の同時接続者数が1万人を超えるなど、大きな反響がありました。

梅原:想像以上でしたね。どこかで注目してもらえるかもしれない、という未知のワクワクはありましたが、長時間歩いているだけだし、面白くないと思われるかもしれない。ただ、注目されなかったとしても、それが失敗だと思うかというと、まったくそんなことはない。ゲーム以外にもやらなければいけないことが年々増えるなか、好きなゲームをやっているけれど、どうしてもどこかに「仕事」という感覚がある。そんななかで、「まだ自分は昔みたいにバカなことができるのか」というのもテーマのひとつだったんです。これができたら、自分の本質は変わっていないと思えるんじゃないかと。

――eスポーツキャスターとして活躍するアールさんを始めとする長い付き合いの格ゲーマーに、Shutoさんやえいたさんのような若手・中堅を交えたメンバーでした。それぞれに立場もあるなかで、「俺たちは変わっていない」ということを確認できましたか?

梅原:口にしなくても僕の意図は伝わっていましたね。特に年長者はそれなりの立場がある人たちですが、仕事を突き詰めてガンガン上っていこうというより、「生き方」を大事にしている人たちなんですよ。だから、僕が説明しなくても企画の裏テーマを察してくれていて、もっというと、彼らは配信がなくても参加してくれたと思いますし、僕も「バカなことをやる」ことがメインにあって、「せっかくだから配信しよう」という感じでした。

【300kmウメ散歩その1】ついに始まった仙台→弘前を歩く無謀すぎる散歩配信まとめ・出発前編【ウメハラ】

――「いまでもバカができるか」という楽しいコンセプトと裏腹に、日に日に頬がこけていく様子もわかり、過酷さが伝わってきました。

梅原:4日目に応援に来てくれたふ~どにも、「みんな顔が違った」と言われましたね。やっぱり気を張って歩いているから、どうしても「戦いの顔」になっていたみたいで、ふ〜どは「これは長居しちゃいけない」と空気を読んで早めに帰ったようです。

――漫画『ウメハラ FIGHTING GAMERS!』の“元”原作者で、配信シーンの人気者でもあるハンサム折笠さんのリタイアは、Twitterのトレンドにもなりました。普段はいじられるタイプだと思いますが、素直に感動している視聴者が多かった。

梅原:そうですね。やっぱり彼の歩き方が少しずつおかしくなったり、スピードが落ちているのは配信にも映りますし、それでもなんとか目標を達成したい、という気持ちは伝わってきましたからね。

ーー煽り合いながら、それでも結束していく様子が格ゲーマーらしいな、と思いました。最後はチームの戦いだったというか。

梅原:ああ、たしかにそうかもしれませんね。

――元々格闘ゲーマーにはタレント性が高い方が多いと感じていましたが、ライブ配信の増加でその面白さが周知されてきたのが、この数年間だったと思います。梅原さんは、プレイヤーのライブ配信活動がどんな意味を持っていると考えていますか?

梅原:(配信を積極的に行うようになったのは)すごくいいことだなと思っているんです。理由は大きく分けて2つあります。ひとつは選択肢が広がること。日本のゲーム界に格闘ゲームのプロの世界ができて結構経ちますが、本当に不安なくプロとして活動できている人は一握り。ほかの仕事しながらやっていたりする人がほとんどで、まだまだ多くの人がプロ格闘ゲーマー1本で安心して活動できるような業界ではないんですよね。そんななかで、配信を通じてファンを獲得して、競技以外でも生活が成り立つようになれば、選択肢が広がる。大会で思うように結果が出なくても、「プレーはこうだけど人間性はこうなんだな、じゃあ配信は見ようかな」みたいなことになるかもしれない。競技1本に集中するのが合ってる人がいてもいいし、逆に配信と両立して自分のキャラクターを見せながらやっていく人がいてもいい。そうやって選択肢が増えるのはいいことだなと思います。

 もうひとつは、格闘ゲームがよく分からない人たちにもストーリーを感じさせることができる。配信でゲーム以外の姿を見せることで、「普段はこういう人だけど、大会のときのこの動きはすごいよかったな」とか「あの2人は仲いいけどこの試合はバチバチしてた」とか分かるじゃないですか。これまではゲームの強さと、せいぜい外見くらいでしか判断できなかったものが、普段の配信でその人のキャラを見せられることで大会の楽しみ方が広がって、ライト層でも試合を楽しみやすくなったのかなと思います。

――配信によって、競技のエンターテイメント性も高まっていると。

梅原:そうです。選択肢も広げてくれるし本業の大舞台も盛り上がりやすくなる。一石二鳥といえるのかもしれません。

――若手の選択肢を広げることを考えると、梅原さんのBeasTVやこくじん(こく兄)さんの格ゲーマー人狼など、“顔見せ”ができる大きな場があることが重要だと思います。それはキャリアのある人にしかできない役割ですが、梅原さん自身、面白いプレイヤーがいたら配信で引っ張り上げて、別の選択肢も与えてあげたいという意識もありますか?

梅原:そうですね、ゲームの実力以外の面で才能をもつ人たちを発掘していくことは自分の役割だと思っています。

梅原大吾

――そして『ストリートファイター6』についても伺いたいと思います。正式リリースに向けて、配信の頻度や内容はどうなっていく予定ですか?

梅原:リリースされたら『スト6』一本になるのはわかりきっているので、それまではほかのことをしたいと思っています。元々BeasTVチャンネルを立ちげた当初は、ただゲームをプレイするだけなのはすごく嫌で、企画ありきじゃないと配信をしなかったんですよ。配信を頻繁にやるというよりは企画を考えてからやるということが僕の理想とする形なので、いまはそれを満喫してますね。

――その中でも、CPU戦も含めて配信で本当に楽しそうに新作をプレイしているのが印象的でした。

梅原:特にカプコンに対しては思い入れが強いので、新作が面白いのが嬉しいんですよ。多少の支障は土台がしっかりしていればどうにでもなる。その土台の部分がしっかりしてると感じたので、それはいちユーザーとして嬉しいですよね。

――『スト4』や『スト5』で結果を残しながらも改善点を訴え続けて、本作の仕上がりに「その影響が少しもなかったとは言わせない」という趣旨のことを語っていましたね。その意味でも、ただ「面白い新作が出てきた」以上の感慨があるのではと。

梅原:そうですね、メーカーにしてみれば色々言われてうるさいかもしれない。煙たがられるかもしれない。でも、いいゲームが出てこなければ結局のところ、未来はない。僕が意見を言ってきたことだけが理由ではないだろうけれど、言い続けてきてよかったなとは思います。

――そんな『スト6』ですが、あらためて、現状でどういった部分が面白いと感じているのでしょうか。

梅原:まずひとつは、格闘ゲームをやる上で新規ユーザの門前払いにもなっていた「コマンド」の問題が解消されて、モダンモードを使えば必殺技が簡単に出せるようになったこと。その代わり通常技が少し出しづらくなるんですが、すごくハードルは下がったと感じます。これは一番大きい点だと思いますね。

 もうひとつは、没頭できる工夫がされていること。格闘ゲームに限らず、いかに没頭できるかがそのゲームの出来だと思うんです。『スト6』はロード時間が改善されて、待たずにすぐ次の試合ができるということをはじめ、没頭できるようにいくつも工夫がされています。ロード時間が少しあるだけで人間って冷めちゃうんですよね。

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