日本語版発売10周年。高度なパロディという名の”救い”と完成度に唸る良作『ガンマンストーリー』

 3月28日の『ニンテンドー3DS』(以下、3DS)、『Wii U』向けオンラインストア「ニンテンドーeショップ」(以下、eショップ)のサービス終了から1ヶ月以上が経った。

 あらためて思うが、同ストアでは意欲的なダウンロード専用の完全新作が多く配信された。

 とくに3DSは、パッケージで販売された完全新作が既存のシリーズ作品に偏りがちだったことから、相対的に完全新作の多い「eショップ」のダウンロード専用タイトルは輝きやすかった。とりわけ、10年前の2013年は、その傾向が大きく現れた時期であったように思う。

 そんな2013年に発売されたダウンロード専用タイトルの中で、日本国内で10万ダウンロードを超えるヒットを記録したのが『ガンマンストーリー』なる西部劇を題材にした横スクロールアクションゲームである。

【3DS】 ガンマンストーリーPV 【eShop】

 ちょうどいまから10年前の5月22日、3DSの「eショップ」で本作の日本語版は配信された。原題は『Gunman Clive』。スウェーデンの個人開発者・Bertil Hörberg氏が開発したゲームで、元々は2012年に買い切り型のスマートフォンアプリとしてリリースされたものだった。後に、欧州先行で3DSへと移植されると、2013年を迎えてから北米、日本の順にローカライズされ、3DSの「eショップ」に登場した。

 スムーズに進めば1時間以内でクリア可能と、アクションゲームとしては短編に該当する本作。だが、その完成度の高さから、前述の通り大きな好評を博すに至った。

 筆者自身も発売日当日に購入し、遊んだ身だ。いま振り返っても、本作には短編アクションゲームとして良作であると評価できる。同時に、後ほど後述する“あの当時の『ロックマン』シリーズを巡る出来事”で負った心の傷を癒してくれた作品という印象も浮かび上がってくる。

お値段ビックリ200円という、ド直球の横スクロールアクションゲーム

 『ガンマンストーリー』のゲーム内容とストーリーはびっくりするほど単純明快だ。悪党にさらわれた愛しの人を助けるため、ガンマンの「クライブ」が冒険を繰り広げていくというものである。

 本編は各ステージを順番に攻略していく形で進行する。ステージのクリア条件はゴールに到達するだけと、アクションゲームの基本に忠実な作品となっている。一部、ボスが登場するステージはその撃破がクリア条件になる。

 プレイヤーが操作する「クライブ」の主要アクションは少なめ。移動、ジャンプ、梯子を登る、しゃがむ、そして拳銃を撃つ……それぐらいである。また、拳銃に弾数制限といったリソース管理の要素はない。なので、好き放題撃ちまくれる。ただし、発射方向は直線で固定、一度に連射できる弾数は最大3発までとの制約が課せられている。さらに倒した敵はまれにアイテムをドロップし、それを取得すると、ランダムで弾丸が変化、それぞれの特徴に沿った攻撃が可能になる。

 ほかに、本作ではダメージ制が採用されており、体力ゲージは画面左上に表示される。ゲージが空になる、穴に落下する、もしくは危険なトラップに接触すればクライブはやられてしまう。残機の概念はなく、いくらでもリトライ可能となっているが、ミスした回数は記録されるため、ノーミスクリアを目指すとなれば全体的な難しさが跳ね上がる。また、難易度はゲーム開始の時点で3段階から選択可能で、一番簡単な「EASY」であれば体力の最大値が増える一方、最も難しい「HARD」では大幅に減少するという違いが現れるようになっている。

 このように、アクションゲームとしては“ド直球”の王道といえる。悪く言えば、真新しさはない。唯一、グラフィックは全編セピア調の3DCGという点で現代風だが、遊び自体はまるで80~90年代のゲーム作品そのもの。まさに新しさと懐かしさが混在したかのごとき作りとなっている。

 そんな、“ある意味で旧世代”なこのゲームが好評を博した最も大きな要因は、その価格設定だろう。なんと、たったの200円(税込)である。コンビニでペットボトルの飲料1本を買う程度のお金で買えてしまう。それもあってか、数多くの作品が並ぶ「eショップ」において、お買い得感が際立っていた。

 その価格の手頃さとは裏腹に、充実したゲーム内容もヒットの一因として考えられる。前述の通り、クリアに要する時間は短いが、ステージはどこも山あり谷ありの構成で、敵や仕掛けの配置が巧妙に練られているのもあって、物足りなさを感じさせないのだ。

 また、クリア済みのプレイヤー向けに「クライブ」以外のキャラクターでステージ攻略に挑める、周回用のやり込み要素が用意されている。そのキャラクターたちも一風変わった特徴づけがされていて、とりわけ“攻撃が一切できない”という枷を課される「Duck(アヒル)」は、ゲームの様相が一変する刺激的な展開が楽しめる。その手ごわさたるや、アクションゲーム熟練者ですら唸るほどだ。

 キャラクターに限らず、ミス回数0の完全クリア、そしてステージごとのノーダメージクリアといったやり込み要素もあり、極めようとすればわりと長く遊べる設計である。そんな特色もあり、短編ながらも侮りがたい見どころを持つ作品に仕上がっている。先行したスマートフォン版とは異なり、物理ボタンとスライドパッド(&十字キー)を基本とする操作性が良好で、プラットフォームとジャンルの相性の良さが発揮されているのも特筆すべき部分だろう。

 これが功を奏したのか、3DS版は最終的にスマートフォン版を超える売上を達成した。2013年12月末にHörberg氏がTwitterで明かしたところによれば、その時点での全世界25万ダウンロードのうち、3DS用「eショップ」での売上が大半を占める結果になったとのことだ。くわえて、日本での売上がとても良かったこともコメントしている。

 2013年当時は低価格ながら、遊び応えのあるダウンロード専用の完全新作タイトルがいくつか発売され、好評を博していた。本作は元がスマートフォンアプリであるため、3DS独自の完全新作とは言いがたい。ただ、最終的な売上とその完成度の高さなどから、2013年に発売された3DSのダウンロードソフトの中でも、とりわけ輝きを放った作品のひとつと評しても大げさではないだろう。

 同時に横スクロールアクションゲームは、「物理ボタンとスライドパッド(&十字キー)のあるプラットフォームでこそ、ジャンルとしての真価を発揮する」というひとつの事実を証明した作品とも言えるかもしれない。

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