ポケモンが工芸に? 人間国宝から若手まで20名の作家が挑んだ“美とわざ”の魅力とは

ーー72点もの新作が展示されているなかで、とくに今井さんが注目する作品は?

今井:もちろん、すべての作品がオススメなのですが、個人的にひとつ挙げるとしたら、染色家・小宮康義さんの〈江戸小紋 着尺 「ゲンガー・ゴースト」〉です。

小宮康義
個人蔵 撮影:斎城卓
江戸小紋 着尺 「ゲンガー・ゴースト」

今井:〈江戸小紋 着尺 「ゲンガー・ゴースト」〉は、全展示作品のなかでいちばん最初に拝見したものなので、忘れがたい1点です。

 江戸小紋は、型紙を使用した型染めと呼ばれる文様染めの技法です。その構成要素は極小の点・線・面のみと、ものすごくミニマムです。

 今回の作品では、整列したゴーストたちの輪郭線を辿っていくと、離れたり近づいたりする曲線が浮かび上がると思います。

 このような曲線は、日本の伝統文様のひとつで“立涌(たてわく)”と言います。対向する曲線2本で構成し、水蒸気が涌き立ちのぼるさまに見立てられ、縁起の良い文様とされています。

 ちなみに、ゴーストは“ガスじょうポケモン”ですから、“水蒸気×ガス”といった浮遊するイメージとぴったりです。

 一方、ゲンガーは、とある部分のみ、文様のどこかに隠れています。隠れ上手なゲンガーの姿をすべて表さなかったのは、ちょっと洒落た感じもありますよね。

 江戸小紋と呼ばれる染めが生まれた江戸時代は、庶民のあいだで洒落た文化が流行った時代です。「そんな遊びの文化を、現代にも呼び起こしたいですね」と、小宮さんと少しお話ししていたのですが、そんな会話の記憶も作品に落とし込んでくださいました。

 見た目は平らな生地ですが、これにドレープ(たるみ・ひだ)ができると、ゴーストたちがすごくゆらゆらするんですよね。

 ドレープの場所によっては、生地に浮かぶ陰影のなかでゴーストが、隠れたり現れたりします。ポケモン(ゴースト)のパーソナリティと文様の特質が絶妙に作用しあった、作品だと感じています。

ーー最後にひとこと

今井:来館者のみなさまがSNSで投稿してくださったコメントや写真を見ると、本当に作品の魅力に正面から向き合ってくださっているんだな、と感じます。

 「ポケモンが好き!」だけで終わらず、そのポケモンの魅力とともに、それと同じくらい工芸の魅力、そしてそれを作ったアーティストの方々への想い、というのも熱く語られていて、それが非常に嬉しく、また本展を開催して良かったなと思っています。

 もし、作品に関心をお持ちいただけたのなら、それがどんな背景から作られたのかなど、その先にある工芸の魅力にも触れていただければ幸いです。

 たとえば、家にあるお皿のすべすべ感をあらためて味わったり、“この模様にも何か意味があるのだろうか”といった、工芸のことをちょっと考えるきっかけが生まれたらいいな、と感じています。

 たくさん魅力的な作品が揃っていますので、まだの方は、ぜひ会期中にご来館いただければ嬉しいです。

■『ポケモン×工芸展-美とわざの大発見-』

会期:3月21日~6月11日
会場:国立工芸館(石川県金沢市出羽町3-2)
開館時間:9:30~17:30(最終入館17:00)
休館日:月曜日(5月1日は開館)、5月14日
※より詳しい情報については公式サイトを参照

〈メイン写真クレジット〉
吉田泰一郎
個人蔵 撮影:斎城卓
サンダース

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