『VRChat』の最新ファッション事情を読み解く 進む「クリエイターと企業の共創」

 24億円。この数字は『VRChat』ユーザーがアバターをカスタマイズする際に購入しているサイト「BOOTH」での3Dモデルカテゴリの取引高を指している。2018年から2022年までの短い期間でここまで数字が伸びていることを考えると、バーチャルファッションは目下成長している市場と言えるだろう。

〈出典:BOOTH 3Dモデルカテゴリ取引白書

 急速に発展しつつあるアバター市場において、企業や有名ブランドの参入も珍しいことではなくなってきた。2020年から「バーチャルマーケット」(以下、Vket)に出展しているビームスは、2022年夏には男女それぞれに対応したコーデ一式を販売していた。

 そして2022年には、衣料品大手のアダストリアもアバターのプロデュースを始めた。

 アダストリアは、VRChatで人気アバターを数多く制作しているひゅうがなつをはじめとしたクリエイターと協力体制を築いてプロデュースしている。これまでに2つのアバターを発売しており、アダストリアの持つブランド「RAGE BLUE」「HARE」それぞれのアイテムを着用したものとなっている。

 こうした流れのなかで興味深いのは、アバター市場に参入する企業も『VRChat』ユーザーのニーズに合わせて“最適化”しつつあることだ。前述した2社のように、企業やアパレルブランドがアバターを販売するケースはこれまでにもみられたが、既存のアバターに対応する形で服の単体販売をおこなうケースも増えてきているのだ。

 ファッションに敏感な『VRChat』ユーザーは、大きく2つに分類されるアイテムを購入することで着せ替えやカスタマイズをおこなう。ざっくり分けると「アバター(素体)」と「服」だ。これを簡単にたとえると、ゲーム機とソフトの関係が近いだろう。ユーザーは、アバターというゲーム機を購入したあとに、服というソフトを差し替えながら使用する、ということだ。

 現在BOOTHでもっとも「スキ数」を集めているアバターである「桔梗」。その人気の要因の一つは、対応している服の数が多いことだ。そして、アバターに対応した服が多ければユーザーも増え、さらに服が増える好循環が生まれている。

 逆に言えば新たにアバターを販売するとしても、豊富な種類の衣装がないと太刀打ちが難しいのが現状だ。そのため、最近の新作アバターでは同制作者のアバターと互換性を持たせたり、事前に複数の衣装を制作をしてもらったりと、着用可能な衣装を増やす工夫が積極的に取り入れられている。

 衣装を販売する企業が増えたということは、アバターを販売するよりも、衣装を販売したほうがより多くの人に届けられるというニーズへの理解が広まってきた証拠といえるだろう。『VRChat』では、服を軸としたコミュニティ、イベントも成熟している。そして企業とクリエイターの距離感も非常に近いのも特徴だ。

 バーチャルファッションモール『Carat』は、服の制作者と直接交流しながら回れるショッピング施設だ。実際に服の制作者がオーナーとして店頭に立ち、BOOTH上で販売中の衣装が展示されており、試着することもできる。服のサイズもその場で調整が可能なので、アバターの体格を気にすることなく着用可能な点は『VRChat』ならではの利点だ。それから、バーチャルではテナント代も必要なく、実店舗で服を販売することに比べればハードルが低い。イベントとして簡単に店を出店することが実現できるのである。

 たとえば『Carat』では、過去にアダストリアがポップアップショップを出店したことがある。実際にアダストリアの社員が店内に立ち、接客を行った。ポップアップショップの中では、先程紹介したひゅうがなつプロデュースのアバター2人が着用している衣装を展示している。

 ほかにも企業とクリエイターが手を組んでファッションショーをおこなうなど、服を披露する場は数多く開催されており、その中からオフィスチェアなどを手がけるメーカー「オカムラ」が主催した「バーチャル出荷工場ツアー」を紹介したい。

オカムラ コンテッサⅡ20thアニバーサリーモデル発売前夜祭「バーチャル出荷工場ツアー in VRChat」

 こちらのショーは同社のオフィスチェア「コンテッサ」20周年アニバーサリーモデルの発売とECサイト「OKAMURA LIFESTYLESTORE」のグランドオープンを記念して催されたもの。「オカムラ」の工場を舞台に、犬の耳を持ったかわいらしいデザインのアバター「まめひなた」が登場。次々に衣装を変えながらダンスなどのパフォーマンスを披露した。

 こちらのファッションショーは、アバターの衣服制作をおこなうクリエイターや「まめひなた」制作者のかめ山など、多くのクリエイターに衣装制作を依頼し、ダンサーにはYoikamiも登場。『VRChat』で活躍する豪華なクリエイターの面々と積極的に連携を取っているのが特徴だ。さまざまな格好をして出てくる「まめひなた」によるショーは、動画を見ているだけでも現場の楽しさが伝わってくる。衣装の仕上がりも素晴らしいので、ぜひとも見てもらいたい。

 ここまで挙げた一例のように『VRChat』では、クリエイターと企業の連携が見られたり、ユーザーの実態に即した販売方法を企業が積極的に取り入れる流れが出来上がりつつある。高い自由度を持つ『VRChat』には、今後も表現力を武器にする、あるいは重視する企業が多数参入するであろう。

 一方で、自由度の高さ故にユーザーが服の着せ替えに苦戦するなど、トラブルも今後出てくるかもしれない。ユーザーが制作しているツールによって緩和されつつあるが、これから多くの人に届けるためにはそのハードルをどのようにして下げるかが、今後の課題となるだろう。

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