コロナ流行が分岐点となった『E3』の栄枯盛衰 完全復活のために「ゲームショウ」に求められるものとは
『E3』、さらには「ゲームショウ」が他の文化から学ぶべきもの
ESAの代表取締役兼CEOを務めるStanley Pierre-Louis氏は、ReedPop傘下のメディア・GamesIndustry.bizが中止発表後におこなったインタビューのなかでこう語っている。
「私たちは好調なスタートを切り、出展者や業界関係者、メディア、ファンからの関心を集めることができました。しかし最終的には、乗り越えるにはあまりにも大きな課題が明らかとなったのです。ひとつは、コロナの流行以降、いくつかの企業からゲーム開発におけるスケジュールが変更になったという報告があったこと。2つ目は、コロナ禍がもたらした経済的な逆風により、いくつかの企業がマーケティングイベントへの投資方法を見直すようになったこと。3つ目は、対面式のイベントとデジタルマーケティングの適切なバランスを、企業が試行錯誤し始めていることです」
〈出典:https://www.gamesindustry.biz/e3-2023-is-cancelled-esa-tells-us-why〉
つまり、コロナの流行を契機に、プラットフォーマー・ディベロッパーの考えるリアルイベントの価値、出展の意義が再確認されているというわけなのだろう。『E3』への参加と同等の役割を持つ“別のなにか”があれば、出展コストを割かずに業界関係者・消費者と接点を持てるのではないか。もしそうであるならば、その手法がマーケティングとしてのファーストチョイスになる。彼らの理屈はこうである。
ゲーム業界では昨今、プラットフォーマーやディベロッパーによる公式の新作情報番組が注目を集めている。おそらく『E3 2023』が開催される予定だった6月ごろには、任天堂が『Nintendo Direct』を、SIEが『State of Play』を別途放送するのではないだろうか。また、Microsoft、Ubisoftは直近、独自のショーケースを『E3 2023』と同時期に開催する動きを見せている。これらはすべて、出展コストのかからないプロモーションの場だ。プラットフォーマー・ディベロッパーが独自に発信する機会を持てるようになったことで、第三者を介しての業界関係者・消費者との接点は、価値が薄まりつつあるというわけだ。ここにはコロナの流行によって打撃を受けたリアルイベント開催者、巣ごもり消費によって市場が拡大し、力をつけたプラットフォーマー・ディベロッパーという構図もある。もはや従来の「ゲームショウ」は、彼ら、特に大手にとって必要な場となっていない実情もある。
「ゲームショウ」の文化の存続にあたっては、第三者であるからこその価値を業界関係者・消費者に提示できるかがカギとなっていくのかもしれない。たとえば、音楽の分野では、ストリーミングサービスによって誰もが大きな第三者の力を借りることなくコンテンツを発信し、一般ユーザーもまた受け取ることができるようになったが、ライブやサーキット、フェスに出演したいと考えるミュージシャン、足を運ぶフリークが少なくない。同市場も「ゲームショウ」同様、コロナ禍のあおりを受けたが、2021年度以降は順調に回復の気配を見せているという。そこには、現地でしか受け取れないリアルイベントならではの価値があるはずだ。
昨年私が執筆した『E3』『東京ゲームショウ』関連の記事に対する一般ユーザーの反応を見ていると、「リアル開催に価値を感じない」「オンライン開催であれば、公式配信と変わらない」といった声が少なからずあった。従来の「ゲームショウ」には、イベントに企業を招致することでマネタイズするという性質があるため、他の文化とまったくおなじ方法論が取れるとは思わない。しかし、それらから「ゲームショウ」が学ぶこともあるのではないだろうか。
『E3 2023』において、ESAがパートナーに選んだReedPopは、コミュニティに寄り添ったイベントの制作経験が豊富な企業だという。その意味において、同社が舵を切った方向は間違っていないようにも思う。プラットフォーマー・ディベロッパーに再度振り向いてもらうためには、新しい形での、第三者が提供する場の価値の提示が必要となるのかもしれない。時代に合った進化を盛り込み、来年以降、『E3』が完全復活することを期待したい。