日本の戦国時代を舞台にした傑作アクション『SEKIRO』 その血生臭い世界を表現する珠玉のフレーバーテキストたちを紹介

 『DARK SOULS』シリーズや『Bloodborne』を始め、フロム・ソフトウェアが手がけるゲーム作品は戦闘の難易度が非常に高いことで有名だ。特に敵の攻撃力の高さがで、ほとんどのプレイヤーが物語の序盤に登場するボスに苦戦し、何度もコンティニューを繰り返すことになる。何度も死にながら敵の攻撃パターンを憶えていくことが求められることから「死にゲー」と呼ばれ、同社のファンからは「フロムゲー」と呼ばれ親しまれている。

 そんな同社が2019年に発売した『SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE』(以下、SEKIRO)は、相手の攻撃を見てから対処する後出しじゃんけんが基本の「死にゲー」とは異なる、いわば「攻める死にゲー」だ。

 刀を何度も交えて体幹にダメージをつぎつぎと与えていきながら、相手が見せた一瞬の隙を突いて必殺の一撃をくり出す。そうした自分から攻めるメリットを作り出した『SEKIRO』は、これから生まれてくる高難度のアクションゲームにとって、ひとつのひな型になり得ると感じさせる傑作だった。

『SEKIRO』

 フロム・ソフトウェアの作品は、その難易度だけでなく作中のフレーバーテキスト(雰囲気作りのためのテキスト)のクオリティが高いことでも知られており、それは『SEKIRO』でも健在だ。『DARK SOULS』シリーズや『Bloodborne』でフレーバーテキストを執筆した宮崎英高氏は、本作では監修側に回っており、テキスト周りに直接関わっているわけではない。とはいえ、代わりに担当したスタッフによって書かれた文章には、宮崎氏の作風とは異なる良さがある。

『SEKIRO』

 本稿では、『SEKIRO』のそんなテキストのなかでもとくに印象深いものを3つピックアップして紹介しよう。

秘伝・葦名無心流

秘伝・葦名無心流の伝書
「秘伝」のスキルを習得できる

若き一心は、留まることを知らぬ男であった
貪欲に、より強さを、より高みを目指し続け
その果てに国を盗ったのだ

無心に、あらゆる流派を飲み込み続ける
その心持ちこそが、元来の一心である
ゆえにこの伝書、生涯未完なり

 秘伝・葦名無心流は、「奥義・大忍び刺し」、「奥義・葦名十文字」、「奥義・纏い斬り」、「奥義・仙峯寺菩薩脚」のうち、どれかひとつのスキルを習得した状態で天狗に話しかけると手に入るアイテムだ。

 あらゆる流派を飲み込むという剣士「葦名一心」の気迫が表れた内容だが、これがゲーム内における彼の戦いぶりとよく噛み合っている。とくに注目したいのは3段落目。ボスとしてプレイヤーに立ちはだかる剣聖 葦名一心は、状況に応じて刀と槍、銃を使い分けるという、極めて合理的な戦法を使うのだ。勝利より名誉を重んじるような、よくある武士像にはほど遠い。だが一心からすれば、戦うためにあるのならそれは学ぶべき流派であり、扱う武器は関係なかったのだろう。

 厳密に言うと、葦名一心が刀と槍と銃を使うのは戦闘の第2段階からで、それまで受け身だった姿勢から一転、怒涛の連続攻撃でプレイヤーを追い詰めてくる。その戦いぶりからは、画面を越えてこちらの戦い方すら飲み込み、成長の糧とするかのような貪欲さが見え隠れしていた。一心の強さや秘訣が書かれたテキストと、それを裏付けするような戦い方には、言行一致という表現がふさわしい。

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