コロナ禍の“逆風”でリリースした『ピクミン ブルーム』はその後どうなった? 1周年を機に開発陣と振り返る

――発表、リリース、1周年と段階が進むにつれ、ユーザーの声を目にする機会も増えてきたと思います。それぞれのタイミングでどのような感触を受け取っていましたか?

中島:リリース時点ではコロナのこともあったので、ユーザーさんのネガティブな反応も覚悟していました。けれど実際は、驚くほど優しい世界が広がっていて。「ピクミンかわいい」「ゲームで歩けるなら健康にいいかも」「いっしょにお散歩できるんだ、楽しそう」のように、素直にサービスのコンセプトを受け止めてもらえました。私たちの意図が伝わるかをずっと心配していたので、良い意味で裏切られましたね。

小山:と同時に、私たちの自信や確信は間違いじゃなかったとも感じました。社内で歩数の統計をモニタリングしているのですが、リリース当初にくらべると、少しその数が増えてきているんです。『ピクミン ブルーム』上で見える化された歩数に対し、ユーザーさんが興味をもち、楽しみながら歩いてくれている。私たちが目指してきたことが、少しずつ実現されつつあります。当初の想像以上に素晴らしい手応えを感じていますね。

――Twitterで「ピクミン ブルーム」と検索すると、世界中のプレイヤーが世代や性別、国籍を問わず、フレンドの輪を広げようとしています。この点も『ピクミン ブルーム』ならではの特徴ですよね。

中島:時間や場所、言葉に縛られず、「歩く」という行動でコミュニケーションを図れる点がそうした動きにつながっています。シンプルにピクミン自体のかわいさをアピールしたり、撮った写真をポストカードにして送り合ったり、生活環境の異なるフレンドさんともいろんな楽しみ方ができる。その点が『ピクミン ブルーム』の強みでもあります。

小山:ある人にとっては日常のなんでもない写真も、別の人にとっては特別な1枚になる。住んでいる国が違えば、そのギャップはより大きくなります。社会がコロナに適応してきたことで、今後は日本の人が海外旅行に出かけたり、海外の人が旅行で日本に訪れたりすることも増えてくるはずです。そんなとき、その国ならではの写真を撮影したり、フレンドさんのポストカードで見た風景を探しに行ったりすれば、旅の楽しみ方も広がりますよね。『ピクミン ブルーム』には、まだまだいろんなポテンシャルが眠っていると感じています。

――歩くことでつながるSNSのようにも感じました。

小山:そうなんですよね。でも実はそこが重要なポイントで。広い意味ではSNSのようなつながりを形成するものなんですが、“映え”ありきの投稿があふれる世界からは、意識的に遠ざけようとしています。というのも、私たちが「ライフログ」で実現しようとしているのは、絵日記のようなものなんですよね。日常の何気ないシーンこそ特別だともっと感じてほしいんです。私たちのいう「日常に寄り添う」は、そんな意味でもあります。

――場所に根ざしたピクミンを得られる仕様も、そうした観点が根底に?

中島:そうですね。『ピクミン ブルーム』内に行動がデータとして残ることで、日常生活を見直すきっかけになったり、普段行くことのない場所に出かける動機になったり、理想はそういうゆるやかなモチベーションを生んでいくことです。外に出ていろんな人といっしょに歩き、探検しながら小さな発見をする。ユーザーさんの暮らしをちょっとだけ豊かにするお手伝いができればいいと思っています。

プライベートでは家族とプレイすることも。ユーザー目線の環境から得てきたもの

――お二人はプライベートでも『ピクミン ブルーム』をプレイすることがありますか?

中島:もちろんです。私は母といっしょに遊んでいます。以前は近所を少し歩くくらいだった母も、最近では苗やピクミンを育てるために、積極的に散歩に出かけるようになりました。もっとも身近なところから、私たちが目指した形でサービスを楽しむユーザーの反応を見ることができています。開発・リリースして良かったと思える瞬間ですね。

小山:私は妻と3人の息子の5人家族なので、毎週みんなでウィークリーチャレンジに挑戦しています。私の場合、出社しない日は歩数が2,000歩に満たないこともざらにあるんですが、子どもたちは学校に行き、普段どおりの生活をして、放課後に友達と遊ぶだけで、何万歩という歩数になっているんです。「お父さん全然歩けてないね」と、子どもたちに笑われることもよくあります(笑)。

――身近な人とコミュニケーションを取るきっかけにもなりますね。

小山:10月中旬からリリース1周年の記念企画で、ユーザーさんの体験談を募集しているんです。すでにたくさんの応募をいただいていて。その中身を覗いてみると、「遠くに暮らしている家族といっしょに遊んでいます」「家族と共通の話題ができました」といった声が、私たちの想像以上にたくさんありました。小さなことかもしれませんが、私たちの作ったサービスがユーザーさんの暮らしを変えられていると思うと、ほんとうに作り手冥利に尽きる思いですね。

――プライベートのゲームプレイから受け取った体験が、開発や運営に生きることはありますか?

中島:日々、その連続です。機能的なところでは、UIの改善や端末ごとの挙動のチェックに役立っています。私たちの世代と親の世代、子どもの世代では、使っている端末も違えば、デジタルに対する理解度も違います。社内では問題ないと判断されて実装された機能が、ユーザーさんにとっては使いにくいこともある。改善点を見つけたときには、社内にフィードバックしています。

小山:プッシュ通知を表示しすぎない仕様も、実際のプレイを通して得たインプレッションから実装されました。先ほどお話したとおり、『ピクミン ブルーム』では、ユーザーさんの余暇に干渉しすぎない設計を目指しています。通知が多すぎると、その分ユーザーさんを『ピクミン ブルーム』に縛りつけてしまうことになる。「邪魔しないけど、忘れられない」という適度な距離感は、日常的に遊んでみないと気づけないんですよね。

――そうやってリリースから1年、ブラッシュアップを続けてこられたんですね。

中島:そうですね。ほかにもユーザーさんの遊び方やSNSでの声を改善に活かすこともあります。みなさんがそれぞれのコンテンツを思い思いに楽しんでくれている姿が、作り手としてとても励みになっていますし、さらに良いサービスにするためのモチベーションにもなっていますね。

こんな時代だから、外出し、歩くことの理由になりたい

――『ピクミン ブルーム』は今後どのような進化を遂げていくのでしょうか?

小山:短期的なところでは、シーズナルイベントやデコピクミンの充実、ライフログの機能拡張などを目指していくつもりです。これらのコンテンツは、すでにユーザーさんからも好意的な反応をいただけています。2年目を迎え、今後はより細かな場所・イベントにもフォーカスしていきたいですね。

また、長期的なところでは、リリースからの1年で蓄積できた資産をどのように生かしていくかを考えています。たとえば、現時点では重複してしまったピクミンの活用方法があまりないんですね。でも、それらはユーザーさんが一生懸命集めたピクミンです。だからこそ重複しても新しい価値が生まれるような仕様を盛り込みたいと思っていて。これまでは全種類集めたらそこで終わりになっていた体験を、同じ種類を持っていることにも価値があり、たくさん集めることに楽しさを感じられるものへと変えていきたい。そこに『ピクミン ブルーム』の可能性がまだ眠っているような気がしています。

中島:あとは、それぞれが必要な機能を取捨選択しながらカスタマイズして利用できるようにしたり、といった点も実現したいですね。万歩計として使っている人もいれば、積極的にピクミンを集めている人もいるなかで、すべてのユーザーさんにとって使いやすい・遊びやすいアプリであるためには、ときに気付きを与えられたり、いらない機能を外せたりといった役割も求められるはずです。「日常に寄り添う」をテーマにしているからこそ、そうしたユーザーさんごとの楽しみ方にも深くアプローチできるような設計を目指していきたいですね。

――1年前にくらべると、よりはっきりとコロナと共存する社会の形も見えてきました。今後、ユーザーがアクティブになるにしたがって、コミュニティも大きく広がりを見せるかもしれませんね。

中島:そうですね。『ピクミン ブルーム』では月に一度、コミュニティ・デイというイベントを開催しています。時間や場所に縛られず、外出時にも細かく操作する必要がない『ピクミン ブルーム』は、基本的にオンラインでしかユーザー同士のつながりをもてません。だからこそ、コミュニティを広げていくためには、意図的にそういう場を作っていかなければならないと感じています。

――最後に、「歩くこと」を軸に据えたモバイルゲームの作り手として、コロナ禍を経て、歩くことの価値はどう変わっていくと考えていますか?

中島:コロナが登場したことで、外出には理由が必要な時代となってしまいました。いくら収束しつつあるとはいえ、共存が前提である以上、以前のように、なんとなく出かける機会はきっと減ってくると思います。実際に私たちの暮らしは、デジタルさえあれば足を使わなくても完結できるものとなりつつありますよね。

でも本来歩くことそのものは、人間にとって意味のある行動であるはずなんです。歩くことなしでは、健康的に生きるのも難しい。私はコロナ禍があったからこそ、歩くことの価値はより認められていくと考えています。ただそこに理由がないと、なかなか取り組みづらい行動にはなっていくでしょうね。

小山:『ピクミン ブルーム』がその理由のひとつになれたらいいと思います。ゲームを通じて、みなさんに目的を提供していくことが私たちの使命ではないかと。『ピクミン ブルーム』では、ユーザーのみなさんに魅力的と感じてもらえるようなアップデートを、今後も続けていく予定です。こんな時代だからこそ、歩くことを通じて、何気ない日常にある楽しみを見つけてください。きっと少しだけ豊かな暮らしが待っているはずです。

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