yukishiroが解説する、最弱予想から世界3位に登りつめた「ZETA DIVISION」の強さ【後編】

ルーキーの個性とベテランのフォローが際立った新生ZETA DIVISION

――TENNN選手もラストワンで持っていくシーンが目立ちましたよね。ほかにもSugarZ3ro選手、Dep選手の3人は、ZETA DIVISIONの新人として強烈な活躍を見せました。彼らの活躍をどう見ていますか?

yukishiro:もちろんチーム全員が活躍しているので特にこれとは言いづらいんですが、強いて言えば、彼らを含めて各選手の個性を尊重するようにチーム全体が動けていたと思います。

2021年12月に新加入したTENNN選手、SugarZ3ro選手、Dep選手

――個性とチームプレイという、一般的には矛盾しそうなことがZETAの中では両立しうると。

yukishiro:たとえばSugarZ3ro選手でいうと、今回の大会では弱体化を受けてほかチームがあまり使わなくなったエージェント「アストラ」をよく使いました。アストラは素早くスターを設置し、それぞれ適切に使い分ける必要があり、特に操作量が多いエージェントとして知られています。そんなエージェントを恐らく日本国内で一番得意とするSugarZ3ro選手ですから、仮に弱かったとしても彼にアストラを使わせたチームの判断はまさに個性の尊重だと思います。実際、Paper Rex戦の「スプリット」では相手の逃げる先を予測して「グラビティウェル」を使って逃げ道を封じる、SugarZ3ro選手の操作だからこそできる作戦を成功させていました。ほかには、TENNN選手がエージェント「レイズ」の機動力を活かしてキルを取りに行ったり、あるいは「ジェット」使いとして有名なDep選手は実はとても器用なプレイヤーで、(ジェットと対照的な)「セージ」や「ヴァイパー」を使ってマップをコントロールしたりと、各選手の強みをチームが信頼し、うまく尊重した上で勝利を収めたシーンはよく見られたと思います。

国内最強のアストラ使いとの呼び声高いSugarZ3ro選手

――一方でLaz選手、crow選手といった、これまでAbsoluteの時代からシーンを支えてきた2人のプレイヤーはどうでしょうか。

yukishiro:Laz選手といえば「ヴァイパー」のような守りが得意なエージェントを得意とする一方、「チェンバー」のような攻撃的なプレイでチームを支えましたよね。crow選手は一貫してサポート役としてチームの要になっていました。ただ、あくまで僕の予想ですが、この2人は大会経験も豊富なベテランなので、試合中のみならず試合前や後における味方へのアドバイスも大きかったのではないかと思います。特にキャプテンであるLaz選手は、特に3人がいきいきと戦えるようにフォローしつつ、しっかりまとめ上げていたのかなと。

チームキャプテンとして選手を引っ張るLaz選手

――ここまで新生ZETA DIVISIONの魅力や強さについて解説いただきましたが、yukishiroさんが特に印象に残った試合などありますか?

yukishiro:新生ZETA DIVISIONの強さが特に印象的だったシーンは2つあると思います。1つはDRXとのリベンジマッチとなったLower Bracket、特に「アイスボックス」でSugarZ3ro選手とcrow選手が連携しながらDRXのAへの設置を2連続で止めた時です。この時、2人の「ショックダーツ」と「スネークバイト」というアビリティだけで設置を防いだんですよ。撃ち合いになる前にアビリティで有利を取る理想的な展開を、2人の的確な連携で実現できた。これは一朝一夕では実現できないことで、新生ZETAの強さが出た瞬間だなと記憶してます。

(48:34〜)「ショックダーツ」と「スネークバイト」の合わせ技でスパイク設置を防ぐ

――敗北の記憶を一瞬で吹き飛ばすような、きれいな勝ち方でしたよね。yukishiroさんの言う「撃ち合わずに勝つ」という。

yukishiro:もう1つ、Group AにおけるNinjas in Pyjamas戦の「フラクチャー」での逆転。NiPが先に12ラウンドを取って王手をかけた時、ZETAはまだ8ラウンドしか取れておらず、あと1ラウンドを落とすだけで日本敗退という絶望的な状況かつ、Laz選手とcrow選手が早々に落とされてしまい、新人3人を残して相手が4人生き残っているという瞬間です。それでも3人が徹底した射線とアビリティの連携によってNiPのプレイヤーを1人、また1人と削って逆転したラウンドですね。そしてZETAがついに勝ったという。

(06:13:01〜)グループステージ突破をかけた一戦 12-08からの逆転劇

――いやもう、言葉が出なかったですよ。誰もが敗北の2文字を覚悟した瞬間に、あんな逆転を見せられたら。

yukishiro:攻撃側なのに人数不利、しかもスパイク(爆弾)の設置すらできていなかった。応援している僕ですら「これはキツいな」と思っちゃうシーンでした。でも、そこを新しいメンバー3人は落ち着いて的確なプレイで逆転できた。ここに限らず、ZETAはいくつも敗北しそうになった瞬間はありますが、そういう時にひっくり返せたのはやはりこの3人の力が大きかったんですよね。

――まさにチームで個性を尊重した結果の勝利なわけですね。ただ、ちょっと性格の悪い質問ですが、これほど強いZETAでも最後、北米のOpTic Gamingには惜しくも敗れてしまったわけですよね。それはZETAのなにが課題だったのか、あるいはOpTicのなにがZETAを上回ったのでしょうか。

yukishiro:意地悪ですね(笑)。すでにOpTicの選手が話されていることかもしれませんが、OpTicのZETAへの対策が徹底していたことが勝因だと思います。

――対策、ですか。

yukishiro:特にOpTicのIGL(※)であるFNS選手が、柔軟な発想から大胆な作戦を通してくるんですよね。日本ではあまり見ない、リスクのある動きを積極的に行い、それを通すことがOpTicの強みだと思います。たとえば、これはマップ「フラクチャー」で顕著でしたが、ZETAは攻める時も時間を使ってじっくり攻める動きを見せますが、そのなかでOpTicでトップレベルに撃ち合いが強いyay選手が一人で中央を詰めて、「相手はもうここを攻めてこないよ」という情報を手に入れて有利に立つシーンが度々ありました。やはりここまでZETAの試合をしっかり研究して、この時間にここから攻めるという戦術をしっかり読んだ上での動きですよね。

OpTic Gamingの司令塔 FNS選手

 それと、OpTicのMarved選手が終盤で「ジャッジ」という近距離に特化した武器を使って、「ここでジャッジ?」と観客を驚かせたものの、実際にZETAの動きに見事に刺さったんですよね。これもZETAの動きを警戒しつつ、自分たちの戦い方を見せたOpTicが上回った印象です。実際ここまでZETAは敗者復活戦(Lower bracket)を含め多くの試合をこなし、その中で多くの情報を出してしまうのは仕方なかったといえ、そこを読んで対策してきたOpTicは強いなと僕も思いました。

※:IGL=In Game Leader。作戦の指示を主にこなす。

(01:38:12〜)OpTic・Marved選手の「ジャッジ」による2キル

――対策もさることながら、その対策となる戦術を立案するFNS選手、また実行できるyay選手やMarved選手らの能力、そしてチームの連携と尊重ですよね。まさにチームの地力がOpTicも素晴らしかったと。

yukishiro:魅せられましたねぇ。本当にあの試合はOpTicの強さが表れていました。

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