Apple「フォートナイト公判」地裁判決の意義とは? 〈フォートナイトの乱〉勃発からの1年を振り返る

 2021年9月10日、〈フォートナイトの乱〉を発端としたApp Store運営をめぐる裁判において、Appleに同ストア規約を緩和することを命じる第一審が下された。もっとも、命令の内容を吟味すると、同社はそれほど痛手を負ったわけではないことがわかる。以下では、〈フォートナイトの乱〉勃発からの約1年を振り返ったうえで、今回の判決の意義を明らかにする。

発端は〈フォートナイトの乱〉だった

 現在App StoreをはじめとするデジタルプラットフォームひいてはGAFAの市場支配に関して、さまざまな訴訟と調査が進行している。「反GAFA」とも言える一連の動向のなかで、もっともセンセーショナルなのが世界的人気のバトロワゲーム『フォートナイト』を開発・運営するEpic Gamesが起こした〈フォートナイトの乱〉である。

 約1年前の2020年8月13日、Epicはフォートナイトに独自決済システムを実装し、ゲーム内アイテムの購入価格を最大20%恒久的に割引く「フォートナイト メガプライスダウン」を実施した。こうした割引が可能だったのは、同システムがApp Storeのプラットフォーム使用料(通称「Apple税」)を回避するものだったからだ。

 翌日の14日、フォートナイトはApp Storeから削除される。独自決済システムの実装が、同ストアの規約に違反していたからだ。Epicはアプリ削除から間髪入れずにAppleと徹底抗戦する意思をツイートすると同時に、「Free Fortnite」と題された声明文を公開した(以下のツイート参照)。この事件は、後に日本では〈フォートナイトの乱〉と呼び習わされるようになった。

 Epicが公開した声明文には、App Store運営の問題と同社の要求が書かれている。同ストアの問題として指摘されたのが、AppleがApp Store運営における独占的な立場を利用して、同ストア内での自由競争を阻害している点である。自由競争が阻害された結果、アプリ開発業者はApple税を支払う決済システムのみを使わざるを得ず、ユーザーにとってより安価な独自決済システムを実装できないのだ。

 以上のように問題を指摘したうえで、EpicはAppleを独占禁止法違反で訴えると同時にiOSアプリに独自決済システムを実装できる自由を求めた。この訴えに同調するように、複数のアプリ開発業者が類似した内容でAppleを訴えたのだった。

独占禁止法はメタレベルの法

 フォートナイトの乱が勃発した当時、各種コメント欄やSNSでEpicを「家賃を支払わない悪ガキ」と揶揄した表現が散見された。この表現は、おそらく独占禁止法の誤解にもとづくものと考えられる。というのも、独占禁止法が取り締まるのは市場で交わされる個々の契約ではないからだ。

 日本やアメリカをはじめとした自由主義経済の国々では、商品の価格は企業間の自由競争のなかで決定される。安くて高品質なものは消費者に支持され、反対に価格に見合わない品質のものは市場から消えていく。それゆえ、企業はより多くの利益を上げるために、より安くより高品質の商品を販売するべく競合他社と競争する。こうした競争のおかげで、消費者はより良い商品を購入できる。

 自由競争が進んだ結果、特定の市場で1社あるいは数社しか商品を販売していないという状況が生じることがある。この状況を利用すれば、生き残った企業(群)は競争を回避して独占的に商品価格を決定できるようになる。そして、商品価格が支配されるようになると、選択肢がなくなった消費者は企業(群)の言い値で買わざるを得なくなる。このように自由競争が阻害されると競争から生まれるイノベーションも死滅してしまい、長期的には市場が成長しなくなる。ゆえに、自由主義的経済の国々は、市場の私的コントロールを取り締まる独占禁止法を定めている。

 以上のように、独占禁止法は個々の契約が交わされる土台となる市場の在り方を取り締まる言わば(個々の契約に対して)メタレベルの法となる。こうした認識をふまえるとEpicがAppleを訴えたのは、プラットフォーム使用料の値下げ交渉のためではないことがわかる。プラットフォーム使用料が独占的に徴収されることを問題としているのだ。前述したEpicに対する揶揄に戻ると「家賃が高い」と文句を言っているのではなく、賃貸契約が交わされた市場そのものに問題があると主張しているのだ。

 なお、独占禁止法のさらなる詳細については、公正取引委員会が作成したウェブページを参照のこと。

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