エンタメを支えるメーカーの裏側(第2回)

ソニーが加速させる「おうちエンタメ」の拡充とは 家で味わえる映画館のような音響体験の秘密

ワイヤレス接続のHT-A9。ホームシアターの最上位機種

折原:続いては、HT-A9について教えてください。HT-A9は4基のスピーカーでワイヤレスによるホームシアターというこれまでにない製品ですよね。登場までの経緯を教えていただけますか。

HT-A9

鈴木真樹(以下、鈴木):サウンドバーは「簡単に設置できる」という利便性を突き詰めてHT-A7000を提案しました。HT-A9はもう一歩進めて、まったく新しい技術でまったく新しい音場体験を届けようというコンセプトから企画しました。

 これまでのホームシアターシステムはいい音を体験するにはいいけれど、設置や配線が難しいということで、手軽に設置できるサウンドバーが生まれました。昨今、テレビが大画面・高画質になり、音もより良いものにしたいというお客様の要望がある一方で「でも普段生活するリビングは、あまりごちゃごちゃさせたくない」「設定も難しいのはイヤだ」というニーズもあり、これらを合わせたときに、いま提供できるものは何かと考えた結果がHT-A9になりました。

折原:HT-A9では、独自の立体音響技術「360 Spatial Sound Mapping」を採用しています。これは従来のサラウンド技術とは何が違うのでしょうか。スピーカーがなぜ4本なのかというところもおしえていただければ。

ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品技術部 酒井芳将

酒井芳将(以下、酒井):「360 Spatial Sound Mapping」は二つの機能を組み合わせています。一つは物理音場再現技術です。4体のスピーカーの外側に存在すると仮定した12体の仮想スピーカーが作り出す音の波面を、4体のスピーカーから出される音の波面で再現します。

 もう一つは音場最適化技術です。スピーカーに搭載されている二つのマイクを使ってスピーカー同士の位置関係と天井間距離を測定しています。従来のサウンドバーで使われているバーチャル技術は頭部伝達関数を用いた心理音響に分類される技術で、聞いている音を立体的に錯覚させるものですが、HT-A9は物理的に音の波面を再現するという点が大きな違いです。

折原:一般的なサウンドバーの技術は、バーチャルサラウンドという人の音の認知を錯覚させるような仕組みですよね。この「360 Spatial Sound Mapping」はそうではなく、スピーカーの存在をシミュレートしたような音の広がりの波面自体を合成していて、本当の音として再現しているとなると、似て非なるものですね。

鈴木:サウンドバーとは異なるアプローチで音場体験を目指していったということです。

折原:波面合成をするためには、システム全体、スピーカーも専用の設計のものになりますよね。

ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品設計部 堀内雅彦(課長)

堀内雅彦(以下、堀内):はい。メインユニットのなかには、ドルビーアトモスの信号のデコードやSpotifyのようなWi-Fiストリーミングの受信などを一つに統合したプロセッサが入っています。こちらで「360 Spatial Sound Mapping」で演算したものを各々のスピーカーに飛ばしていく。4本のスピーカーはウーファー、トゥイーター、イネーブルドスピーカーの3WAY構造なのです。

HT-A9の内部スピーカー

 コントロールボックスからはそれぞれのスピーカーに対して、イネーブルドスピーカーとウーファー/トゥイタースピーカーの2チャンネル分の信号を送っています。ウーファーとトゥイーターはスピーカー内部のDSPで帯域を分割し、独立したアンプでそれぞれ駆動しています。このようなスピーカー4体から波面合成としての音を出していて、かなり凝った作りに加えて、スピーカーとしても普通に鳴らして音の良いものを作っていて、特に音の指向性の広げるような設計をしています。また、無線だと「遅延が起こる」というイメージがあると思いますが、ワンチップ化することで処理を効率化し、遅延を無くす工夫をして設計しました。

折原:実際に音を聞かせていただいたのですが、サラウンドの広がりがすごいですね。根本的にチャンネルベースのサラウンドとは違い、スピーカーの存在が消えているようで、劇場のようなスピーカー環境のドルビーアトモスの音の配置がしっかりと感じられます。

酒井:ありがとうございます。それを目指して音響設計に努めました。

折原:ちなみに「360 Reality Audio」と「360 Spatial Sound Mapping」はどう違うのでしょうか。

鈴木:「360 Reality Audio」は、立体的な音場を実現する新しい音楽体験で、360 Reality Audioによる音楽コンテンツも多数リリースされています。もちろんHT-A9で「360 Reality Audio」のコンテンツを楽しむことはできます。「360 Spatial Sound Mapping」はドルビーアトモスのような立体音響コンテンツ等をスピーカーで再生する為に開発された技術です。

折原:4体のスピーカーを使って音場を作るというのは、置き場所の自由度は高まりますが、設置する空間の広さがなくても使えるのでしょうか。

ホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ事業本部 ホームプロダクト事業部 ホーム商品企画部 鈴木真樹

鈴木:狭いか広いかではなく、なかなか部屋にスピーカーを置けないお客様をターゲットに開発してきました。広いリビングルームでも狭くてもどちらでも使えるように設計していますが、仮想的に置いたスピーカーによって「本当にそこにスピーカーを置いたら、こういう風に聞こえる」というシミュレーションを行っています。

堀内:4体のスピーカーにマイクが内蔵されていて、スピーカー同士の位置関係を出しています。左右の距離、高さなどが揃っていなくても、本来あるべきスピーカーの位置に聞こえるような音場を作るので、置き場所もきっちり計算しなくても大丈夫です。

折原:視聴に向くのは5.1chの映画やドルビーアトモスなどのコンテンツでしょうか。NetflixやAmazonプライムビデオでサラウンドを体験できるコンテンツがあれば教えてください。

酒井:音響性能を極限までお楽しみいただくという意味では、ドルビーアトモスのコンテンツが音場の広さを体感しやすいと思います。一方、HT-A7000同様マルチチャンネル化する技術を入れているので、通常の2chのコンテンツも映画館にいるような臨場感でお楽しみいただけます。

 歓声の音や環境音が豊富に含まれているコンテンツですと、音場の広さやその場にいるような感覚を存分にお楽しみいただけます。例えば、スタジアムの人々の歓声に取り囲まれる『ボヘミアン・ラプソディー』などは楽しんでいただけるのでは。

鈴木:ライブ以外にもミュージカル映画の『グレイテスト・ショーマン』のような、画面の中で動きがあり、登場人物が飛び回っているようなソフトがサラウンドを体験しやすいと思います。移動する感じと歌のクオリティを感じていただけます。

――音楽リスナー向けの機能や取り組みはいかがですか。

堀内:4体のスピーカーの基本性能はクオリティの高いものを目指して作っています。単体としての音質もこだわっています。音楽リスナー向けにもおすすめできる音質です。

 YouTubeでは、多くのアーティストがミュージックビデオを提供していますので、それをテレビで流すだけでも相当な満足感があります。全部のスピーカーで鳴らし環境音のようにする楽しみ方もできるかなと。

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