連載:声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”(第五回)

ゼロ年代から市場を作り上げ、会員数200万人突破ーー『audiobook.jp』久保田裕也に聞く「音声コンテンツの過去・現在・未来」

音声だけにとどまらず、コンテンツ業界を支えるインフラになっていきたい

ーーコロナ禍で人々のライフスタイルが大きく変わりましたが、なにか影響はありましたか。

久保田:音声コンテンツに関しては、コロナ禍となったこの1、2年でradikoやRadiotalk、Voicyといった無料で聴けるサービスが大きく伸びました。私たちは、音声コンテンツが広がるためには、「聴くという体験」がもっと身近なものであるべきだと考えています。その基礎部分をこれらのサービスが作ってくれたと感じています。

 音声コンテンツを聴いたことのない方が、いきなり長尺のオーディオブックを聴くのはハードルが高いんです。まずは短尺の音声コンテンツに慣れ、もっと聴きたいとなったときに私たちのサービスを使ってもらうのが自然な流れだと思っていますし、実際にそういう方も増えています。そのような意味で、コロナ禍が間接的に追い風になっている側面はあるかもしれません。

ーー公共図書館システムや他社プラットフォームとも幅広く連携しています。いちサービスにとどまらず、プラットフォームやインフラであろうとする姿勢が伺えるのですが、その背景にある考え方とは。

久保田:「聴く習慣を持つ人を増やしたい」「権利者にきちんとお金が流れる世界にしたい」という2つの思いがあります。あらゆる人が、あらゆる場所で音声コンテンツを楽しめる世界を提供して、そこにきちんとお金が流れてビジネスとして成立していること。この2つを実現することが市場の拡大にもつながると思っています。

 私は独占契約のような形が好きではなくて、「この本はうちでしか出しません」と言ってしまうと、たとえばうちのサービスは信用できないけれど、別の図書館プラットフォームなら信用できるという人が利用できなくなってしまう。それなら、独占せずにその図書館で聴いてもらえるほうが、その人にとって幸せです。そのためにも、自社以外のプラットフォームや、公共図書館へのオーディオブック提供などにも取り組んでいます。

 成熟している市場ならパイの取り合いになりますが、音声コンテンツは未成熟な市場なので、仲間が多いほうが市場も大きくなります。そのための連携は積極的に進めていきたいと考えています。

 また、現在は音声コンテンツのプレイヤーがすごく増えていますが、多くの場合でマネタイズに悩んでいます。実際に相談いただくこともあるのですが、サービスの認知が拡大してきた後、どうやってビジネスとして成立させていくかという点は大きな課題なので、私たちがインフラ的な部分を支えられるようになれたらと思っています。

ーー音声コンテンツのマネタイズ支援として、地方ラジオ局のコンテンツを取り扱うという動きもありますが、この辺りの反響はいかがでしょうか?

久保田:地方のラジオ局が制作した音源も一部配信しています。私たちのサービスは課金ユーザーの数が結構多いので、そのプラットフォームで配信することによって、再生数に応じた権利収入として放送局のコンテンツを収益化し、利益としてきちんと戻すことができるという点で、満足いただけていると感じます。

ーー会員数200万人を突破したとのことですが、次に目指すビジョンは?

久保田:短期的な目標としては、よりカジュアルに楽しめる、尺が短くて速報性が求められるコンテンツを増やしたいと考えています。市場が成熟してくると「もっと早くコンテンツがほしい」というニーズが出てくると思うので、それを満たせるようにするのがまず第一ですね。

 「もっと早く」の次は、よりクオリティの高いコンテンツが求められるようになっていくと思いますが、こちらは力をかければ良いものが作れることはすでに分かっていますし、クオリティラインはある程度定めているので、大きく外れることはないでしょう。

ーー会社としての長期的な展望についても聞かせてください。

久保田:コンテンツ産業の中で、インフラとして機能する会社になっていきたいと思っています。もちろん、オーディオブックのサービスは今後も続けますが、現在の日本のコンテンツ業界にはできていないことがたくさんあると感じているので、音声以外の分野も含めたインフラとしての機能を担えたらいいなと思っています。

 私たちが叶えたいのは、「あらゆる人たちが、あらゆる場所でコンテンツを楽しめる世界をつくる」ということです。できることはたくさんあるので、それを愚直に進めていきたいです。

■サービス情報
『audiobook.jp(オーディオブックドットジェイピー)』
株式会社オトバンクが運営する、日本最大級のオーディオブック配信サービス。2007年より配信を開始した「FeBe」からリニューアルし、2018年3月よりサービスを開始している。 HP:https://audiobook.jp/

■関連リンク
株式会社オトバンク公式HP

関連記事