ゲームプレイヤーは「シナリオ」を遊ぶだけの存在なのか? 『サイバーパンク2077』が取り払った“バイアス”
「マップ中に広がる大量のサイドジョブ」が、本作の魅力を覆い隠している
ここまで本作を絶賛してきたが、決して問題点がないわけではない。やはりどうしても無理なスケジュールに間に合わせようとして一部の要素をカットして完成させたことを感じさせる瞬間が訪れることがあり、その一つひとつがロールプレイを阻害する要素となっている。ファースト・インプレッションの際にも書いたので多くは語らないが、改めて本作の開発体制に対する怒りを感じざるを得ない。
ただ、クリア後に振り返った際、特に筆者個人として惜しいと感じるのは、クエスト全体のバランスを考えた際に、明らかに「依頼」系のクエストとより小規模な依頼イベントであるNCPDスキャナーの数が多すぎるように思えることだ。
恐らく、本作において想定されているプレイスタイルは、「メインジョブを進行し、気になる人物のサイドジョブを追いかけつつ、時には散策している中で奇妙な出来事に遭遇し、お金を稼ぎたい時やジョブの合間に暇を潰したい時には『依頼』系のクエストやNCPDスキャナーに取り組む」というものだろう。だが、メインジョブと人物関係のサイドジョブについては明確かつ見事にストーリーテリングが成立しているが故に、どうしてもそのクエストラインを集中的に追いかけてしまう。結果として、メインジョブは早々に「折り返し不能地点」に到達し、人物関係のサイドジョブも次々と結末を迎え、奇妙な出来事の数がそれほど多くないことから、マップには大量の「依頼」系クエストとNCPDスキャナーが残されることになる。
これが、「小規模なサイドジョブの制作が間に合わなかった」のか、「単に数が多すぎた」のかは定かではないが、少なくともこの問題自体は、今後追加されるダウンロード・コンテンツによってある程度解決されていくだろう。だが、現時点では「マップ中に残る大量のサイドジョブ」が却って本作の魅力を覆い隠しているようにも思えてしまうため、(開発者が無理のない範囲で)早期に状況が改善されることを望みたい。
それでも、『サイバーパンク2077』は、狂気的な作り込みによってプレイヤーをナイトシティの住人へと変貌させ、膨大な選択肢とジョニー・シルヴァーハントという「強大な他者」を通してプレイヤー自らのアイデンティティを研ぎ澄まし、本気でゲームという壁を超えてプレイヤー自身の価値観をゲームプレイに反映させることに挑んだ驚異的な作品である。「サイバーパンク」というテーマの「オープンワールド・ロールプレイングゲーム」だからこそ実現することができた前代未聞の産物だ。正直なところ、本作をプレイした後では、もはや多くのオープンワールド作品に対して物足りなさを感じてしまう。
いまや、『サイバーパンク2077』の中には、少なくとも一つの街と、そして自分自身と徹底的に対峙したことで生まれた、もう一人の自分としての「V」が存在している。そして、ナイトシティに住む人々と共に人生の一部を共有し、自分で選んだ、V≒自分自身が迎えた運命がそこにある。紛れもなくここには、自分にとっての、もう一つの人生が存在していたのだ。
■ノイ村
92年生まれ。普段は一般企業に務めつつ、主に海外のポップ/ダンスミュージックについてnoteやSNSで発信中。 シーン全体を俯瞰する視点などが評価され、2019年よりライターとしての活動を開始
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Twitter : @neu_mura