『プレバト!!』『林先生の初耳学!』生み出したMBSプロデューサー・水野雅之に聞く「テレビとYouTubeの関係性」
地上波コンテンツで「SNSで話題になる」ことを目的にするのはダメ
――YouTubeと地上波のコンテンツは、制作者の視点で見て具体的にどんな違いがあるのでしょうか。
水野:まず「大衆的」かどうかが違います。去年オンエアした『プレバト!!』の3時間スペシャルは、1分以上見た視聴者が3100万人もいたんです。しかもこれは、出たり入ったりした視聴者は1人としてカウントしています。でもYouTubeの10万再生の方が熱狂的なファンがたくさんいたりしますよね。あれはターゲットの視聴者層を絞り込んでいるのが大きな要因だと思います。地上波のゴールデンタイムはマスだから、メインの視聴者層を定めつつも、他の層の視聴者を弾かない配慮が必要です。ってなると、流行に敏感な若い女性をメインの視聴者層に設定しても、化粧品のトレンドネタは扱いづらいし、オシャレな画像加工やテロップワークもやりにくい。オシャレってちょっと攻撃的だから、どうしても敬遠する視聴者がいるんです。
個人的な感覚ですけど、例えるならYouTubeの熱狂的コンテンツはミシュランで星を取るラーメン屋さんで、僕が目指しているのはカップヌードル。前衛的なミシュラン店はカッコいいし、語りたがる常連客もいる。でも、大衆的な展開は難しい。地上波は前衛的ではないけれど、皆に嫌われないものを目指している。同じ映像コンテンツだけど、まったくの別物として考えたほうがいいと思います。
――まったくの別物だとして、制作において具体的にはどのような意識で作られているのでしょうか。
水野:結果的にバズるのはいいんだけど、SNSで話題になることを“目的”にすると地上波の番組はスベるっていうのが実感です。Twitterのトレンド入りって時間帯にもよるけど、1時間で3〜4000ツイート(※リツイート込み)って言われてます。ってことは、数千万人に見てもらえている地上波ゴールデンの番組がトレンド入りを“目的”にしちゃいけないんです。
――日曜劇場『半沢直樹』(TBS)がトレンド世界1位になったことが話題になりましたが。
水野:『半沢直樹』も、『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(日本テレビ)も中身が面白いからSNSでも話題になったってことですよね。「今、これがバズるらしいですよ」なんてことを企画出しの段階で話し合うのは意味がないし、僕が担当してる番組の会議でそんな話題は出たことがないです。
――結果的にSNSで話題になるほどのコンテンツに成長するのはいいけれど、そこを狙いすぎるのは良くないと。
水野:そうですね。以前、バズを意識して番組を作ったこともあるんですが、実感として視聴率とトレンド入りに相関はありません。あくまでSNS上での影響力は指標のひとつでしかないので、企画のゼロイチを考える時は、多くの人に見てもらうことだけを目的にする。企画が育ってきて、新たな展開が見えてきたら、そこからSNSやYouTubeに広げていくっていうイメージです。他局ですが、『有吉の壁』(日本テレビ)って、深夜の特番でスタートしたときの企画のゼロイチは“YouTubeの再生回数を稼げるもの”ではないはずなんです。面白い番組ができて、さらにSNSやYouTubeでもバズるという新たな展開が生まれたっていう理想の形ですよね。