ゲーム『Tell Me Why』とコミック『違国日記』、“近しい人の死”にどう折り合いをつけるか? にまつわる物語
埋まることのない空白を通して“心の中で折り合いをつける”ことを描く
生前は分かり合えなかった相手の、これまで見えなかった一面に死後気づく。それに対する折り合いのつけ方がストーリーの骨子のひとつになっている、という点で両作は共通している。
だが、当たり前のことではあるが、同じようなテーマを扱っている作品であっても、登場人物が置かれた状況や、彼らひとりひとりの性質の違いによって、導き出される物語は違ってくる。
ゲームと漫画という、メディアの違いによってアプローチが異なっていることも興味深い。『Tell Me Why』では当時を知る人物に対して能動的に働きかけ、事実を調べ上げ、タイラーとアリソンの「どちらの記憶が正しいと思われるか」という選択肢を選び取ることで、メリーアンという“死者の痕跡”を解き明かすことが作品の主目的となっている。
『違国日記』での“実里の日記”などの“死者の痕跡”はあくまでサブプロットのひとつと言える。現時点では未完の作品なのでこれからの展開は分からないが、槙生と朝の交流によって生まれるふたりの感情の機微こそが物語の背骨であろう。しかし、槙生が憎んだ“姉としての実里”と、朝が理不尽にも失った“血の繋がった母親としての実里”の齟齬は、ふたりが関わり合う中で、永遠に埋まることのない空白として存在し続ける。
『Tell Me Why』と『違国日記』にはもうひとつ共通点がある。“近しい人の死”以外にもセンシティブな心の問題をいくつも取り扱っている点だ。
『Tell Me Why』ではタイラーがトランスジェンダー男性であり、このことが物語に大きく関わってくるし、心的外傷といった問題にも踏み込んでいる。『違国日記』では槙生が発達障害であることを示唆する発言が作者から出ているし、ほかにsも過去にうつ病を患った経験のある人物が登場している。
両作ともセンシティブなテーマの中心に、決して本人から答えを聞くことができない“空白”が存在するのは、“自分の心の中で折り合いをつける”ということを必然的なものとして描く上で、自然とそうなっていったのかもしれない、と想像する。
そして“正解”が用意されていないことのほうが多い世の中で、“自分の心の中で折り合いをつける”という作業は、事の大小はあれど、誰にとっても必要なことだ。近いテーマを扱いながらアプローチが異なるこの2作は、いずれもそんな作業の負担を、少しだけ軽くしてくれるかもしれない。
『Tell Me Why』と『違国日記』。どちらかの作品に触れて心を動かされた方は、もう一方にも触れてみてはいかがだろう。
■小林白菜
ゲームやアニメーション、漫画などを中心に、作品の魅力について紹介する記事を複数のメディアに寄稿。アニメーションでは『プリキュア』シリーズや『アイカツ!』シリーズなど、女児向けの作品を特に好んでいる。
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