ソニーのニューノーマル社会に向けたチャレンジ 「3R Technology」で次世代の映像・音響を牽引

 今年はコロナ禍により、オンライン開催となった『CEATEC 2020』。本稿ではCEATEC実施協議会の会長でもある、ソニーの石塚茂樹氏(代表執行役副会長)が登壇したキーノート1「ニューノーマル社会にソニーが提供する新たな価値」から一部を記す。

価値の創出と多様性 3R Technologyで新たな感動を

ソニーの石塚茂樹氏(代表執行役副会長)。

 石塚はスライドとムービーを交えながら話を進めた。ソニーのPurpose(存在意義)は、クリエイティビティーとテクノロジーの力で、世界を感動で満たすこと。ユーザーとクリエイターを軸とした、長期視点での事業を通じて、人々が存在する社会、地球環境に貢献することを目指している。

 まず社会と地球を軸とした価値創出活動。人々が感動で繋がり続けるためには、人・社会・地球が健全であることを前提としている。今年は東京大学、JAXAと共同で、ソニーのカメラを搭載した人工衛星の開発発表を行った。

 そして多様性を守る環境への取り組み。海の美しさを未来につなげるため、昨年からプラスチックの使用を減らす生活を目指し、One Blue Ocean Projectを開始した。海の生態系の多様性を守ることが究極の目的だが、多様性はソニーが持続的に社会的価値を創出し、大切にしている当社の価値観の1つとなっている。

VISION-S(CES2020で発表した電気自動車)

 それから人を支える事業を通じた社会価値創出。今年1月にラスベガスで開催された『CES 2020』(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー)では電気自動車・VISION-Sを公開。ソニーのイメージングとセンシング技術を活用したモビリティ領域での技術を紹介した。そして今年5月には、AI処理機能を搭載したチップ・Intelligent Vision Sensorを発表。一方、メディカル事業として、組織や細胞の特徴を分析するために使用する蛍光色素・KIRAVIA Dyesを用いた試薬の開発も行っている。

 なかでも本キーノートのメインとして語られたのは、3R Technologyであった。新型コロナウイルスの感染拡大は、多くの人が集まることを困難とし、高品質な映像や音の制作、そしてライブやスポーツ観戦を楽しむことに制約をもたらしている。その一方でエンターテイメントを楽しみたい、感動したいという人の欲求は変わらない。

3R Technology(Reality、Real time、Remote)。

 それらの課題を、テクノロジーの力で解決していきたい時に考える軸になるとして、これまでソニーが注力してきたリアリティー(Reality)、リアルタイム(Real time)に、リモート(Remote)を加えて3R Technologyと銘打った。高画質・高音質を極める、リアリティーに関するテクノロジーは、ソニーが創業から現在まで得意としてきた分野である。

 またITの普及に伴い、入力側の状態を把握し、出力側に情報として届けるという全体の流れを、リアルタイムで実現することでも新しい価値を生み出している。こうしたリアリティーやリアルタイムのテクノロジーに、さらにリモートでも実現できる提供価値は大きく、リアリティーが増すコンテンツを、リアルタイムにリモートで楽しむことを実現するだけでなく、テクノロジーによってリモートならではの新しい感動を生み出すことにも挑戦している。

ソニーの存在意義 新たな価値を生み出すためには

Volumetric Capture(全天球映像技術で臨場感のあるコンテンツを制作)。

 具体的な事例としては、まず今年8月に、グループ会社のソニーPCLにおいて「VIRTUAL PRODUCTION LAB」を立ち上げている。撮影所のセットや実在する場所の映像と3Dデータを収録し、その映像をデータをスタジオに背景として設置したCrystal LEDディスプレイシステムの中で、合成映像として忠実に再現する。役者の演技や小道具を使った演出・ライティングと合わせて、本物のセットやロケ地での撮影と見分けがつかない、リアリティーのある映像表現が可能になった。現実や現物を必要としないデジタル空間で、リアリティーあふれるコンテンツをリモートで制作できるのは、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントなどの映像制作現場を持つソニーならではの試みだ。

 次に紹介された自由視点映像技術は、既に映像コンテンツを制作する現場で活用され始めている。特に360度をぐるりと見渡すことができる全天球映像技術は、各社が提供するオンラインサービスを介し、様々なクリエイターによって臨場感のある新しいコンテンツが世に送り出されている。ソニーでは自由視点映像技術の進化において、視点自由度とリアリティーの両面が重要な要素になると考え、全天球映像技術の先を見据えたボリュメトリックキャプチャー技術の開発に取り組んでいる。将来的には、遠隔地にいる人々と、視点を変えながらリアルタイムに見たり話したりすることを実現し、ユーザー同士がリモートで同じ空間を共有しながら意思疎通できる映像体験の提供を目指している。

360 Virtual Miximg Environment(劇場などの音響空間向けの音をリモートで制作)

 音響では、映画制作に必要なシアター形式によるスタジオ制作環境の整備に努めている。例えばミキシングエンジニアの自宅など、特別な設備がない場所に再現する「バーチャルミキシングエンバイラメント」という技術を開発中だ。ヘッドフォン用バーチャルサラウンド技術や環境最適化、個人最適化といった立体音響技術を活用し、映画館など対象となる音響空間での制作を、サウンドエンジニアが自宅からリモートで行うことが可能となった。先述の映像の「VIRTUAL PRODUCTION LAB」と同様に、コロナ禍の影響でスタジオ制作に影響が出ている現在、1つのソリューションとなっている(この技術は来年、ソニー・ピクチャーズエンタテインメントが公開予定の映画『ゴーストバスターズ/アフターライフ』の音響制作にも活用され、同作品やその他のプロのサウンドクリエイターからも高い評価を得ている)。

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