『Apex Legends』人気の要因は「設定の緻密さ」と「二次創作文化」にもあった?
『Apex Legends』を支え、一層に盛り上がるファンアート文化
『Apex Legends』の国内での盛り上がりを示す上で、配信人気の拡大と合わせてもう一つ大きな動きとして挙げたいのが、本作の世界観に影響を受けた二次創作活動、即ちファンアートの活発化である。元々、本作のファンアート文化自体は存在していたものの、2020年2月のシーズン4開始以降、様々な(いわゆる)絵師による本作のファンアートが頻繁にSNSに投稿されては、拡散されていくという現象が急増しているように見受けられていたのだが、その勢いがシーズン5を経てさらに加速しており、今では数千リツイート、数万いいねを獲得する投稿も数多く見られるようになっているのである。内容も、キャラクター単体のイラストから、(創作も含めた)キャラクター同士の交流の様子を描いたもの、あるいはゲーム中の台詞を踏まえたギャグ系など非常に多岐に渡っている。
このようなファンアート文化については本国の運営側も歓迎しており、公式twitterアカウントではいくつかの作品をリツイートで紹介するなど、さらにこの動きを加速させるような取り組みが行われている。
その背景には、前述したような国内でのブレイクも勿論あるだろうが、筆者としては、これまでRespawn Entertainmentが『Apex Legends』の中で創り上げてきた世界観や物語の奥深さ、個性豊かなキャラクター(通称「レジェンド」)の作り込みが実ってきた結果ではないかと考えている。開発側も2020年以降は、よりストーリーテリングに力を入れていくという姿勢を明らかにしており、後編にて紹介するが、実際にシーズン4と5では非常に大胆な試みが取り入れられている。前述したファンアートの多くはその結果とも言えるのだ。ローンチ当時からプレイを続けてきた筆者から見ても、明らかにシーズン4以降の『Apex Legends』は他のオンライン対戦タイトルとは一線を画す程に魅力的な世界観を持つ作品になっている。これもまた、本作の人気を高める要因の一つになっているのだ。
ファンアート文化というのは優れた「供給」があってこそ盛り上がるものだ。シーズン5の成功を経て、今後もさらに『Apex Legends』の世界観は奥深さを増していく事であろう。来るシーズン6を前に、本作がどのように世界観を構築してきたのか、「バトルロイヤル」という一見殺伐とした、物語を不要としてもおかしくないジャンルのゲームにおいて、どのように優れたストーリーテリングを実現したのかを、このタイミングでまとめておきたいと思う。
「断片的な情報」を集める事で浮かび上がる『Apex Legends』の世界観
『Apex Legends』の公式サイト(https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends)には登場するレジェンドを紹介するページが存在するのだが、ここにはローンチ時点からレジェンド一人ひとりの詳細なバイオグラフィーが掲載されている(一部の翻訳に誤りがあるので注意)。それぞれ、短い文章でありながら、生い立ちや素性、そして何故「Apexゲーム」に参加する事になったのかといったストーリーを知る事が出来るようになっている。このような試み自体は『オーバーウォッチ』といったタイトルでも取り入られており、決して珍しいものではないのだが、『Apex Legends』の特徴として、「断片的な情報のみが提示される」という点が挙げられる。読んでもどこか不明瞭な箇所があるのだ。
例えば、人気レジェンドのレイスは現時点で記憶喪失状態にあり、かつて記憶を失った場所である旧IMC基地が開催地に含まれるがゆえにゲームに参加しているということが記載されている。一方でバンガロールの場合、IMCという企業が持つ軍隊に所属し、兄と共に活躍していたところを正体不明の暗殺者に襲撃を受け、行方不明となった兄を探しながら、揃って故郷へ帰還するための旅費とパイロットを探すことを目的にゲームに参加していることが分かる。
それぞれのレジェンドが個別の物語を抱えている。しかし、その全貌は現時点で分かっていない情報の方が多く、レジェンド本人もまたゲームを進めていく中で真相に迫っていくという構造になっているのである。そして、ここで得た情報を補完するための仕掛けが、様々な方法で「Apex Legends」の随所に施されているのだ。例えば公式サイトのコンテンツとして時折、やはり断片的な何かが掲載されることがある。前述のバンガロールの場合、「アウトランズジャーナル」という雑誌の記事として、襲撃された当時についてのインタビューが掲載されている(https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends/about/characters/bangalore/story)。コースティックに至っては、何と死亡診断書が掲載されており、診断書からは既に火葬されているという旨の記載まで存在する(https://www.ea.com/ja-jp/games/apex-legends/about/characters/caustic/story)。
また、ゲームを進めていく上で、ゲームのロード画面が手に入るのだが、この画面一つひとつにも実はストーリーが掲載されている。あるいは『Apex Legends』の公式SNS上で謎の音声ログが投稿されることもある。さらにはイベントなどの告知動画やトレーラーにもヒントが仕掛けられており、最近では実際のゲームフィールド上の隠された場所で謎のメッセージが聞けるという大掛かりなものも存在する。特にシーズン5ではやはり謎の多いレジェンドであるクリプトに関する情報が多く仕掛けられており、SNSを中心に盛んに考察が行われることとなった。