ヘドロに囲われた島でグラフィティ描くオープンワールド『SludgeLife』と、多才なコンポーザーdoseoneの魅力

『SludgeLife』とdoseoneの魅力

 汚染された島をブラブラ落書きして回るーーただそれだけなのに、なんて豊かなゲームなのだろうか。Devolver Digitalが2020年5月29日にリリースしたグラフィティオープンワールドゲーム『Sludge Life』は、ローファイで目的も不明瞭であるのに関わらず、1か月弱で全世界400万ダウンロードを突破という偉業を成し遂げた。制作者は『high hell』で知られるTerri Vellmannとdoseoneのコンビ。本稿では、本作の魅力とdoseoneの活動、ゲームを選択するうえで“音楽”が果たす役割について触れていく。

 まずは『Sludge Life』の舞台やあらすじについて解説する。プレイヤーは新進気鋭のタガー、つまりグラフィティーアーティストであるGHOSTになり、グラフィティーのエリートたちの中で地位を高めていく。地位を高めるためには、とりあえず歩き回ってコミュニケーションをとらなければならない。舞台となるのは、ヘドロで覆われた、ある島だ。空気が悪く、治安がよさそうには思えない。汚染はどうやら工場の影響によるものらしく、島にそびえ立つ巨大なビルの周りでは、多くの労働者によるデモが行われている。

 そこら中に音響機器が置かれており、それぞれから音楽が流れてくる。ゲーム中にずっとBGMが流れているのではなく、その音響機器に近づいていくことによって音楽が聴こえてくる。それらは、これから紹介するdoseoneが作ったもので、重いサブベースが鳴るヒップホップから、サイケなアンビエントまでと多彩だ。島の住人がどれほど音楽を大切にして生きているかが伺える。

 島の住人はもちろん、タガーや労働者だけだという訳ではない。巨大な赤ちゃんやドラキュラ、しゃべるネコという人ではない何かから、トラックメイカーやクソゲーを作るゲームクリエイターまで、多様な“住人”たちが共存している。全員が個性的で、話しかければ様々なことを語ってくれるため、島での生活が立体的に浮かび上がってくる。時には攻略のために重要なことを教えてくれる住人もいるので、コミュニケーションが取れる場合は積極的に話しかけていこう。突然殴られることもあるが。

 ちなみに、このゲームにはいわゆる敵はいないのだが、ダメージの概念があり、大ダメージを受けると病院送りになってしまう。医者に皮肉を言われたくなければ、高いところから飛び降りたり、フラミンゴのような青い鳥の卵を盗もうとするなど、調子に乗った行動は控えよう。

 本作の主な目的は「壁を落書きで埋めつくす」ことなのだが、その落書きまでのプロセスは決して単純ではない。パルクールで島を飛び回り、グラインダーを利用して高いところから滑空する。島で開発しているワープ装置を使わなければいけない場所もあるので、多少のパズル要素もある。道具を存分に利用して企業や広告の看板にもバンバンと落書きしていこう。一見立ち入ることができなさそう場所にもスポットは存在しており、現実のグラフィティが「どうやって描いたんだ?」と思える場所に描かれている時の疑問を体験することができる。

 GHOSTは、とにかく使ったものをすぐに捨てる。カメラやタバコ、グラインダー、メニュー画面はパソコンを模しているため、開いたらパソコンもすぐに捨てる。捨てたところでゲームには全く影響がないのだが、なんともそのシーンが唐突で荒唐無稽だ。物をすぐ捨ててしまう性格が故に、GHOSTがゲーム内に残せる痕跡は落書きだけだ。

 このゲームでは、このような荒唐無稽な要素がそこら中にちりばめられており、それ自体が非常に重要なのかもしれない。ゲームの設定だけでもそのこだわりは異常なほどだ。様々な(不必要な)要素を細かくーー例えばトイレの前に立ったら勝手におしっこをしてしまうのだが、それを止める設定がある。ゲーム内でゲームのデータを拾ってプレイすることができるのだが、なぜかウェブカムを繋げることができるし、ポップアップ広告がめちゃくちゃでてくるので、ゲーム内ゲームのプレイに大きな支障をきたす。さすがにパソコンがウイルスに感染しているのではないかと心配になってくる。

 一見ローファイで、はじめはゲームとして楽しむことができるのか心配になってくるのだが、細かな作り込みや充実したアートワーク、常に落書きをする場所を探すという目的意識のおかげで、他のオープンワールドに劣らない程の楽しみを与えてくれる。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる