空間演出ユニットhuez「3.5次元のライブ演出」第四回

でんぱ組.inc配信ライブで魅せた、空間演出ユニット・huezの力 「変わりゆく世界における、ライブ演出の行方」

見たお客さんの感想が「また生ライブに行きたい」になるのは嫌だった

ーーhuezの画面演出の中で特にこだわったものは?

としくに:これが今回の話の一番根っこになる部分だと思ってるんですが、まず僕ももふくちゃんも、生配信における「メンバーの顔がずっとセンターに映り続けている画角」に課題を感じていました。なので「メンバーの顔が隠れることを躊躇しない」というルールを定めて演出を組み立てました。「VJをぼんぼんかぶせて、顔にもエフェクトをかけてやるぞ」という感じで。もふくちゃんからも「延々顔が見えないことさえなければOK」と言われていました。

 もうひとつは「もしもし、インターネット」の演出です。「生配信でMVみたいなことを再現できたら衝撃だろう」と。

「もしもし、インターネット」における演出

としくに:あとはラストの「なんと!世界公認 引きこもり!」です。これは曲の背景として、楽曲もMVもテレワークで作成されているんです。MVはメンバーも自分の家を無理矢理グリーンバックにして、iPhoneとかで写した映像で作られている。しかも途中、みんなで合唱するシーンとかはファンの人たちが歌ってたりするんですよ。この期間中にみんなの力で作られた曲だったので、なんとか「この画面上にみんながいるんだよ!」っていうことを配信ライブでも表現できないかと思って、Twitterのハッシュタグを拾う演出を組みました。

「なんと!世界公認 ひきこもり!」後半における演出。MV風の画面を再現しつつ、Twitterの投稿をリアルタイムで反映させている。

としくに:昔、huezで「Twitterをリアルタイムで拾うエフェクト」を作ったことがあり、最後の間奏以降でそれをはめ込んで使ってみようと。生配信の映像とリアルな時間のズレって、だいたい10秒圏内なんです。演出から曲が終わるまで1分弱あったので、時間尺的にギリギリお客さんが「この画面、リアルタイムでツイート拾ってる!」と気づいて投稿したものが曲中に反映されるはずだ、と思って。結果、インタラクティブな「生配信ならでは」の演出ができて、今回の配信ライブのひとつの象徴みたいな形になったかなと。

YAMAGE:もちろんMC中にメンバーがファンのコメントを拾う場面もあって、生っぽさは全体的にあったんですけど、これがあるのとないのとでは生配信でやる意義みたいなものの大きさがだいぶ変わっていたと思うので、実現できて良かったです。

としくに:歌詞の最後に「Stay home!」ってあるんですけど、「みんなステイホームしながらでもバリバリライブに参加できるやん」っていうのを演出のこだわりとしてもやりたかったんです。

 結構力んで演出を入れまくったので、ぶっちゃけた話、生でやるにしては大変なオペレーションを組んだんです。たとえば生のライブでいうと、「後ろのスクリーンに別撮りで録った映像を流して、前で踊る演者と全く同じ動きをしている」っていう演出をしたときに、別撮りなのか生なのか、っていうのを説明してあげないとお客さんはその演出を認識できないんですよ。演者さんの動きが精密であればあるほど、そのすごさがわからなくなっちゃうので、「本当に生でやっているからすごいんだよ」っていうのを伝えなければいけない。完パケした収録ライブとは違う試みなんだと伝えたかったので。

 生であることを明示する、というのは、もふくちゃんにも、僕ら以外のスタッフさんにも共通認識としてありました。一番最後のエンドロールはでんぱ組に長年携わっているクリエイターの方が作られたんですが、当日その場でメイキングのような映像を作って、「ほら、マジで生でやってるんだぜ」っていうアプローチを取っていました。こういうことができるチームと仕事ができてありがたかったです。今、生でお客さんと繋がっているんだぞっていうのを意識的に統一できた。

ーーでんぱ組チームで組んでいた音響もホールっぽい鳴り方で、でんぱ組の規模感が伝わりました。

としくに:そうなんですよ。音響さんもそういうところの細かさがすごくて。生配信って見せなきゃいけないものが2種類あると思っていて。ひとつは「どれだけ臨場感を出せるのか」。例えば音響さんがライブハウスで音を聴いているような体験を再現してくれていましたが、それはMC中のマイクのリバーブ感とかひとつ取っても現れます。もうひとつは、「生ライブでは絶対に見れない画角を作ること」です。

 生ライブに比べたら、メンバーの汗とか熱は画面越しじゃ伝わりきらないんです。だから絶対に画面上でしかできない、DVDになってもできない、リアルのライブでは絶対に見られないような画角を作らなければやる意味がない。演出する側が「フェスやワンマンライブを大きなライブハウスでやった熱気」を思い出してノスタルジックになるのではなく、ああいうパワーを別の形でアウトプットして疑似体験させないといけない。見たお客さんの感想が、「また生ライブに行きたい」になるのは嫌だったんですよ。「これはこれでおもしろかったからまたやってくれ」に完パケさせないと、この勝負は負けだなと思っていました。

 今回このライブをやってみて、僕もこの形でやったライブを見たことがない、むしろ初めて見るものになりました。終わった後のお客さんの感想で「もうこれ、3ヶ月に1度やってもいいんじゃねえか」っていうのもあり、「私たち、全員最前列にいる」って言ってたお客さんもいたんですよ。これいいなあと思って。最前列だとメンバーの顔が表情まで見える。だから、来たお客さんが全員最前列に座って見れているという体験だったらしいんですよ。これは絶対に配信でしかやれないことで、それができて良かったなと。「オンラインならでは」をどれだけ詰め込めるかという勝負だったので、それはそれなりに上手くいったのかな、今後のひとつの指針になるようなものを見せられたのかな、と思っています。

当日急遽作られたというエンドロール

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