水溜りボンド・カンタ×室井雅也が語り合う“越境する創作”「場所を選ばないポップな人でありたい」

 言わずと知れた、人気YouTuber・水溜りボンドのカンタ。彼にはYouTuberだけでなく、映像作家・佐藤寛太としての側面もあることをご存知だろうか。

 これまでも、自身が歌唱した「猿でもわかる」やGorilla AttackのMVなどで監督を務めてきたカンタだが、その第一歩はシンガーソングライター・室井雅也の「ヒロインは君で」のMVだった。今回、カンタが新たに室井の楽曲「季節のグルーヴ」のMVを手がけたのを機に、カンタと室井による対談を実施。ジャンルは違えど、クリエイターとして互いを尊敬する二人が語り合う、“ものづくり”に対するスタンスは必読だ。(編集部)

「『なんのためにYouTubeをやってるんだ』と自問した」(カンタ)

水溜りボンド・カンタ(左)と室井雅也(右)。

ーーお二人は昨年、室井雅也「ヒロインは君で」のミュージックビデオでタッグを組みました。カンタさんにとってはこの曲が初のMV監督作品だったわけですが、制作以降、作り手として意識の変化はありましたか?

カンタ:「ヒロインは君で」のMVを作り終えたことで、「自分にもミュージックビデオが撮れるんだ!」って感覚になったんです。いろんな人の協力があってのことなんですけど、自分なりに想像してたものが形にできたので。その後、「じゃあもっとカッコよくて、しっかりした作品を作ろう」と思って試行錯誤したんですが、途中で一回絶望してしまって。「ヒロインは君で」のときは、何も知らないからこそ勢いで作れた部分もあったんですけど、いざ一通り作り終えて振り返ってみると、考えなければいけないことが無限にあることに気づきました。

室井:果てしなさが見えてしまった。

カンタ:走り始めた時は「うわ、楽しい」って思うんですけど、色々なことを考えているうちに、目指しているゴールがめちゃくちゃ遠くなって。「MVは迂闊に撮ることはできない、撮っちゃいけない」って、しばらく悩みましたね。音楽も、色んな人を唸らせる「いい曲」を作ろうと思った時に、急に果てしなく感じたりする?

室井:間違いないですね。

ーーファンの方や周りのクリエイターさんからの反響は?

カンタ:これまで動画をたくさん作ってきた“YouTuber・カンタ”がMVを作ったわけで、「4分ぐらいの動画」というところでは同じように感じられるかもしれないですが、作り方は全然違うものなんですよ。知人や、普段見てくれている人には「いつもと違うな」って思ってくれた人も、「面白いこと始めたね」って言ってくれる人もたくさんいました。

室井雅也 - ヒロインは君で Music Video

ーーそんななかで今回、「季節のグルーヴ」のMV制作を手がけた経緯は?

室井:昨年の9月に僕がリリースした1stアルバム『hen』を、カンタさんがちゃんと聴いてくださっていて。

カンタ:アルバムの中でいいなと思った曲が「季節のグルーヴ」で、2018年の秋か冬に「この曲でまたMVを撮ってみたい」って室井くんに提案しました。

室井:なんで「季節のグルーヴ」を選んでくれたんですか?

カンタ:どこか「ヒロインは君で」の真逆という印象を受けたんですよ。僕の中では、「室井くん=ヒロインは君で」のイメージが強かったんですけど、今回「こういう曲調も書くんだ! うわ、おもしろ!」って驚きました。

室井:そう、真逆なんですよ。トーンが真逆の曲のMVを同じ方が撮るとどうなるんだろう、というワクワクがありました。

カンタ:僕からすると、「ヒロインは君で」は「水溜りボンドのカンタ」が撮った感があると思ってるんです。僕って結構ファンタジーに生きている部分があって。企画とかも「こうなったら面白いな」っていうポジティブ思考で、動画内でもネガティブな言葉は基本使わない。みんなの心が軽くなるような動画を作るのが好きだから「あり得ないことが起きたら面白いな」みたいなところから企画を考えるんですよ。でも、その動画を編集していたり、考えごとをしている時の自分はやっぱり違って。現実的なことや動画とはまた違う「深い作品」と対面してたりするわけで。「季節のグルーヴ」には、そんな水溜りボンド・カンタの「陰」のパワーをぶつけなきゃいけない気がしたので、映像の色も最初から「暗め」で行こうと。でも、人生でそんな作品作ったことないから。

室井:水溜りボンドの動画があの色味で作られることはないですもんね(笑)。

カンタ:ないない、あの感じを誰も求めてないでしょ(笑)。そうして自分の「陰」の部分を出そうってなった時に、過去のことを含めて色々考えてみたんです。

室井雅也 - 季節のグルーヴ Music Video

ーーその「色々」とは。

カンタ:自分はYouTubeを4年やってきて、基本は楽しくやってるけど、当然それだけではありませんでした。これまで何をやってきたか考えたときに、たくさんの人に再生されて、少しずつ人気になっていくなかで、この4年間の人生が全部「YouTubeになってる」ってことに気がついて。もしかしたら、すべてが「再生数」とか「撮ったという事実」になってしまっているかもと思ったんですよ。

ーー良くも悪くも自分のすべてが動画になっていたと。

カンタ:みんなだったら、普段の生活の中で人には見せていない「裏の一面」みたいなものがあると思うんですけど、僕にはないんですよね。日々色々なことを考えて、面白いと思ったことがあっても、その日のうちに形になってみんなに見られちゃうから「インプットした瞬間にアウトプットされちゃう」みたいな感覚なんです。

ーー気付いた時にはコンテンツになっている。

カンタ:例えば「何か心に残っている出来事はありますか?」とか「あの頃に表現したかったことはありますか?」って聞かれても、全部出て行っちゃってるから、なにも答えられなかったりするんですよ。そういう意味で、だんだん「深い経験」が自分の中になくなってきているかもしれないな、「練る」っていう作業をそんなにしていていないんじゃないか、と思ってしまったんです。最終的には「なんのためにYouTubeをやってるんだろう」みたいなところにまで行き着いてしまって(笑)。

ーーずいぶんと深いところまで潜りましたね。

カンタ:そして、ミュージックビデオとかを撮る時に「なぜ今からこの(MV制作という)道を走ろうとしてるんですか」って自問するわけです。「YouTube」とか「毎日投稿」とかに関しても、「なんでやってるんだっけ?」ってところに立ち返ったんですけど、やっぱり「自分が楽しいから」でしかないんです。「自分が楽しんでいるから、みんなも楽しんでくれてる」ということに気づいて。これまでとスタンスは変わってないんですけど、自分が一番楽しんで一番やりたいことをやって、それがたくさんの人のためになっているということを改めて理解できた気がします。

ーー自分の「陰」の部分をMVに表現しようと思った時に、自分への様々な問いを繰り返したと。

カンタ:トミーと二人でYouTubeを毎日一生懸命やってて「俺らはこれから先も面白いことをやり続けるんだ」って簡単に言えちゃうけど、本当に考えた上でそれを言えてたんだろうか、と。改めて考えなおした時に、「自分がどれだけYouTubeが好きなのか」とか「映像がどれだけ好きなのか」とか、「いいものを伝えたい気持ちがどれだけあるのか」ということを実感できて、情熱にあらためて火がつきました。

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