Amazon従業員はAlexaからユーザの音声を聞いていた ライバルのSiriやGoogle Homeはどうなっている?

 近年普及しつつある音声認識AIとそのAIを実装したスマートスピーカーは、その登場当初よりユーザの音声のプライバシーに関して懸念が抱かれていた。そうした懸念が、ついに現実のものとなってしまった。スマートスピーカー市場で先陣を切ったあの企業が、ユーザの声を聞いていたのだ。

犯罪を匂わせる音声も

 ブルームバーグは、15日、スマートスピーカー「Amazon Echo」シリーズに実装されている音声認識AIであるAlexaに話しかけたユーザの声がAmazonの従業員によって聞かれていたことを報じた。同社は、Alexaに録音された音声の一部を品質向上のために活用している。具体的には、録音された音声を書き起こし注釈を付けているのだ。こうした作業を通じて、Alexaの音声に対するレスポンスを向上させている。

 以上の業務に実際に従事している関係者によると、音声書き起こし業務を担当する拠点は世界各地にある。ルーマニアの首都ブカレストの拠点に勤務する関係者は、1日9時間勤務で最大1,000本の録音データを解析していると言う。国内テック系メディア『IT Media News』によると、日本でも件の業務に関する求人が公表されており、1日8時間の在宅勤務で時給1,300円となっている。

 ブカレスト勤務の従業員の話をまとめると、音声の解析といっても比較的簡単な作業で例えば「テイラー・スウィフト」という発話を集めて、「テイラー・スウィフト」という注釈を付けるだけである。しかし、音声のなかにはシャワー中の調子はずれの歌のようなおそらく聞かれたくないようなものも含まれ、性的暴行を推測させる音声を聞いたこともあった、とのこと。こうした犯罪を連想させる音声に遭遇したとしても干渉しないという方針がとられており、通報するようなことはしない。

 ブルームバーグはAmazonにコメントを求めたところ、録音されたデータのごく一部しか解析の対象としておらず、ユーザの個人情報には配慮している、という旨の回答が得られた。

ポストプライバシーの時代

 以上の「Alexaスキャンダル」に関して、政治系ニュースメディア『Townhall』は「Alexaは邪悪なビック・ブラザー」というタイトルの記事を公開した。この記事は、国民のプライバシーが軽視されている独裁国家がAlexaを悪用すれば 、国民の言論を監視できるとコメントしている。ちなみに、「ビック・ブラザー」とはジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984年』に登場する独裁者の呼称である。

 ドイツに拠点をおく政治系メディア『Deutsche Welle』が公開した記事では、Alexaの品質改善業務がドイツの法律に違反しているにも関わらず、ユーザが無関心であることを指摘している。そして、こうしたプライバシーの保護に鈍感になりつつある時代の雰囲気を「ポストプライバシーの時代」と名づけている。ユーザが時には喜んで個人情報を差し出すポストプライバシーの時代においては、監視国家樹立の可能性が否定できないものも、現実的には少なくともヨーロッパ諸国で監視国家が誕生することはないだろうとも評している。しかしながら、ユーザはもっと個人情報の保護に注意を払うべき、と述べた。

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