格闘ゲーム専門フォトグラファー・大須晶が語る、ゲーマーの群像 「やつらのカッコよさを伝えたい」

いつかはEVOの会場で写真展を

ーーさて、今回の写真展『FIGHTING GAME COMMUNITY』は、もともと“バーチャ勢”から勧められてクラウドファンディングに踏み切った、ということですが、あらためて経緯を聞かせてください。

大須:僕はもともと、需要がないだろうと思っていたんですよ。ツイッターでもちょこちょこ写真を上げているんですけど、みんなウェブで見られればいいと思っているんじゃないかなって。3ヶ月くらいずっと「やろう」と言われたんですけど、どうせ誰も来ないし、ましてやクラウドファンディングなんかしたら叩かれると(笑)。ただ、eスポーツブームのいま、こういう酔狂な企画をやってみて、結果としてダメでも、支援してくれる人がどれだけいるのか、ということが可視化されること自体に意味があるのかなと思って。あとは会場の「Red Bull Gaming Sphere Tokyo」を貸していただけるんだったら、やってみたいと思いました。街のイベントスペースでいきなりやっても、カッコよくならないから。いい場所を貸していただけてよかったです。


ーー結果としては、目標金額90万円に対して、約340万円が集まりました。

大須:自分が思ったよりずっと需要があるというか、支持してくれる人がいるんだなと思いました。あとは、タイミングもよかったんですよね。「カプコンカップ2018」(年間の大会を通じてポイント上位のプレイヤーのみが参戦する、『ストリートファイター』シリーズの公式大会)がちょうど終わって、本当にいい試合が多くてみんなが幸せになっているところだったので。格闘ゲームシーンて素敵なんだな、お金を落としてもいいな、と思えるタイミングだったというか。

ーー確かに「お布施」ではありませんが、格闘ゲームシーンのために何かしたい、という気持ちがあるファンは多いと思います。以前であれば、ゲームセンターにお金を落とすくらいしか方法がありませんでしたが、いまは動画配信プラットフォームでの「投銭」もありますし、今回のようなクラウドファンディングでサポートすることもできる。

大須:それは絶対にありますね。そこは昨今のインターネット周りのサービスに感謝というか。ちょっと話は変わりますが、僕は「ガンプラ」が好きで、これまでは量販店でしか売っていなかったんですけど、いまはマニアックなものがインターネットで受注生産されているんですよ。割高にはなるんですが、本当に自分が好きなものに対してお金を払えるのがうれしすぎて、同じものを3つ注文してしまったり(笑)。格闘ゲームシーンにお金を落とせるようになったのは本当に最近だし、また新しいことが起こるかもしれないですね。


ーー動画配信などは長く行なわれていますが、マネタイズの手段にはなっていませんでしたからね。

大須:そうですね。配信でお金儲けをする、ということに嫌悪感を持つ人も多かったし、このクラウドファンディングも、お金が目的ではないとは言え、絶対に叩かれるだろうと思ったんですよ。ただ、叩かれたところで、これだけ配信番組にも出ているなかで、いまさら「アンチ」を気にすることもないだろうと。自分の生活には何の支障もないし、ダメだったら「まだ早かったな。“eスポーツ元年”シーズン5あたりに期待するか」で終わりますから(笑)。それより、ちょこちょこ出てき始めたeスポーツ専門のフォトグラファーにとって、参考になる実績ができればなと。

ーー大須さんの活動に感化された人も多いと思いますが、アドバイスがあるとしたら?

大須:僕も好きで格闘ゲーマーを撮っていただけで、基本もきちんと習ったわけではないので、自分からアドバイスできることはあまりないですね。ただ強いて言うならば、選手たちを好きになれば、自然といい写真が撮れるようになるんじゃないかなと。逆に言えば、コミュニティと選手たちを好きにならなければいい写真は撮れないと思います。あくまで僕から見てですが、eスポーツ周りの写真を見ると、カルチャーとして好きなのか、そのコミュニティが好きなのか、選手が好きなのか、それとも、少しネガティブな言い方になってしまいますが、最先端のムーブメントを撮っている自分が好きなのか、というのはすぐわかるんです。海外のフォトグラファーには、eスポーツというカルチャーが好きだ、というタイプが多いですね。ただ、自分でゲームをプレイすることはほとんどないから、選手のことは知らない。それは報道写真としてはとても正しくて、ついついプレイヤーに寄ってしまう僕の課題でもあります。勉強させてもらっていますね。

ーー確かに、プレイヤーとして数々の壇上に上がり、「撮られる側」に回ることが多かった大須さんの立ち位置は独自のものですね。

大須:その経験は大きいですね。また、必ずしも表彰台に上がるほど上手くならなくても、自分でゲームをプレイしてみれば、選手たちがどれだけすごいことをやっているのかがわかって、選手に興味が出ますよね。もしeスポーツシーンを撮りたいという若い人がいたら、そこから始めてみるのがいいんじゃないかなと思います。もちろん、興味がない人のほうがどこにも肩入れせず、客観的に、情報として正しい写真が撮れる、ということもあるので、やっぱり一概には言えないですが。

ーーさて、関西での写真展開催も検討されていますが、何か決まっていることはありますか?

大須:まだですね。あまり焦らず、じっくりと検討して、いいものにしたいと思っています。まずはRed Bullさんに感謝というか、今回は本当に「ゲーセンのなかに写真が飾ってある」みたいな、面白い空間で展示させてもらって幸せだったので、関西でも楽しんでもらえるようにしたいですね。

ーーこの先、eスポーツというシーンもどんどん変わっていくことが予想されるなかで、こんなことがしたい、という夢や目標はありますか?

大須:大きな野望のようなものはないのですが、『EVO』の会場で、海外のeスポーツ/ファイティングゲームのフォトグラファーとともに、写真を展示するスペースが作れたら面白いなと考えています。そうすればいろんなタイプの写真、世界各地のプレイヤーの写真が見られて楽しいだろうと。そこで写真を販売して、家に飾ってもらえたりしたら最高ですね。

異例の写真展を実現させた「バーチャ勢」


(取材・文=橋川良寛/撮影=三橋優美子)

■『FIGHTING GAME COMMUNITY』
会期:2019年2月1日(金)~3月3日(日)
場所:Red Bull Gaming Sphere Tokyo
東京都中野区中野3丁目33−18 フェルテ中野 B1F
営業時間:10:00 - 23:00

 

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