海外ではドキュメンタリーが公開間近 ゲーム実写化で酷評を浴び続けたウーヴェ・ボル監督とは?

 唐突だが、『Fuck You All: The Uwe Boll Story』(18年)というドキュメンタリー映画が出来た。「Fuck You All」である。中学レベルの英語しか分からない私だが、凄まじいタイトルだ。しかし、これこそが相応しい。あの男、ウーヴェ・ボルのドキュメンタリーを作るなら、このタイトルがベストだろう。彼は非常に複雑な人物だが、「Fuck You All」という言葉が相応しいのは間違いないのだから。ウーヴェ・ボル。それはゲームと映画を語る上で避けて通れない映画監督であり、今だ評価が定まらない怪人である。今回はドキュメンタリーの完成を機に、ウーヴェ・ボルという男について振り返っていきたい。

Fuck You All: The Uwe Boll Story (Official Trailer)

 特定の世代において、ボルの名は悪い意味で有名だ。“マスター・オブ・エラー”つまり“失敗の達人”。かつて彼はそう呼ばれた。幾多のゲームの映画化を手掛けたが、その殆どが失敗作だったからだ。彼は世界中のゲーム/映画ファンから非難の声を浴びた。しかし何故かゲーム映画を作り続けた。普通、評判が悪ければ仕事が無くなるものだし、あるいは自らその世界から遠ざかるものだ。しかし彼は挫けることなく、驚くべきハイペースで映画を撮り続けた。あまりの仕事の途切れなさに「ウーヴェ・ボルは恐るべき権力を持った大富豪の息子」など、信じがたいが微妙にありそうな噂が流れたほどだ(ちなみにウソだった)。

 確かにボルが手掛けたゲーム映画は厳しいものがある。ゲームと映画は根本的に「面白さ」の質が異なるものだ。恋愛ゲームで考えると分かり易い。主人公(プレイヤー自身)がキャラクターと触れ合うのがゲームだが、映画では主人公(プレイヤーとは他人)がキャラクターと触れ合うのを観客として眺めるだけである。物語に介入するのがゲームの醍醐味であり、映画には真似できない点だ。だから映画に沿った形に設定や物語を変更するのは仕方がない。しかし、それにしてもボルは手を入れすぎた。元々の設定を平気で無視するし、何なら原型すら残っていない場合もあった。また、妙に実験的な演出が多いことも特徴的だ。『ハウス・オブ・ザ・デッド』(05年)は、原作のゲーム画面が入るという演出で観客を困惑させた。彼がゲームの映画化において「やらかした」点は擁護できない。

 ゲームファンを積極的に敵に回した点も問題だ。自ら観客や映画人を挑発する言動を繰り返し、遂には映画評論家やファンとボクシング対決を敢行。こうした数々の蛮行で世間を騒がせ続けたが、2016年、彼は映画監督を引退すると発表。現在はレストランを経営している(なお経営は順調らしい)。悪名は無名に勝ると言うが、彼はその実例だと言えるだろう。マスター・オブ・エラーにして、映画業界にケンカを売りまくった怪人。ここまでの事実だけでも「Fuck You All」を冠するに相応しいが……。しかし、皆さんはご存知だろうか? ボルがゲーム映画以外で、どういう映画を作ったかを。この点を踏まえると「Fuck You All」というタイトルに、また異なった意味が付与される。

関連記事