DCシリーズにおける“ヴィラン”のヒーローと共通する価値観とは? 『レゴ®DCスーパーヴィランズ』から考察

 「アメコミ人気を広げている」という意味で、映画やドラマの存在は欠かせませんが、それと同じぐらい重要なのがゲームとグッズです。

 最近ではPlaystation®4のスパイダーマンのゲーム(『Marvel’s Spider-Man』)が大人気ですよね。ふりかえってみれば、日本でマーベルを浸透させる下地をつくったのはCAPCOMさんのゲームだったし、バットマンのアーカム・シリーズはギネス記録をとるほどの名ゲーム(※2009年、『バットマン アーカム・アサイラム』が当時“これまでで最も高い評価を得たスーパーヒーローゲーム”に認定)で、グローバルでも受け入れられています。

 一方、グッズはアパレルやアクション・フィギュア、おもちゃという形で日常生活の中にアメコミ・ヒーローとの出会いを沢山つくってくれます。

 特にレゴ(あのブロックのレゴです)はマーベルとDCの、両方の商品化権を持っていて、子供はもちろん、大人のコレクターまで魅了しています。今回ご紹介する『レゴ®DC スーパーヴィランズ』は、”ゲームでありレゴである”という形で、DCの世界を楽しむデジタル・エンタテインメントです。

 レゴ化されたDCのスーパーヒーローたちは、おもちゃの枠を超え、それ自体が独自の世界観をもって”本家”とは別にキャラクターコンテンツとして機能しています。バットマンの実写映画があり、アニメ作品があるように、レゴ・バットマンを主役にした『レゴ®バットマン ザ・ムービー』(2017年)なる映画がありました。今回の『レゴ®DC スーパーヴィランズ』は、レゴになったDCキャラを操って遊ぶアクション・ゲームです。ストーリーは、バットマンたち正義の味方”ジャスティス・リーグ”がなぜかいなくなり、パラレル・ワールドから”ジャスティス・シンジケート”なる謎のヒーロー集団が現れます。こいつらに危険な匂いを感じたヴィランたちは力を併せて”ジャスティス・シンジケート”に挑む、というものです。

 そう、操るのはヒーローではなくヴィラン(=悪役)。ジョーカーや映画『スーサイド・スクワッド』(2016年)でブレイクしたハーレイ・クインらになりきっての大冒険。また自分独自のオリジナル・ヴィランを作ることもできます。実際プレイしたのですが、とにかく楽しい。基本的に、操作するのはヴィランなので、いちいち悪いことをしないと次に進めないのです。これがヒーロー視点のゲームなら、ささっとヒーローたちがスマートにかっこよく集結するんでしょうが、ヴィランなのでまず刑務所から脱走しなきゃならない、仲間は街のどこかに隠れているから見つけ出さなきゃいけない、街を進むにも警官たちと戦わなきゃならない。目的のために街とか建物を壊しちゃったりするわけですね。しかし、そこがレゴのすごいところ。破壊のオンパレードですが、レゴの世界はすべてブロックだから、なにかが壊れるにしてもブロックがバラバラになるという風に表現されるし、壊したパーツで新たなものを組み立てて次に進むこともできるのです。

 考えてみればこういうヒーロー物に出てくる悪党って、「新たな世界を作るにはまず破壊が必要だ」みたいな危険な哲学を持っていて、破壊活動をしますよね。そもそもレゴ®ブロックの遊び方って”壊して、組み立てる”の繰り返しだから、ある意味ヴィランたちに合っているかもしれません。プレイしているこちらも、どんなに荒っぽいことしても要はレゴなので罪悪感なくアクションを楽しめますし。なんといってもレゴ化された(レゴのミニフィグにデザインされた)キャラたちはかわいく十分ポップアート化しています。

 一方でこのゲームは、改めてDCコミックにおけるヴィランの立ち位置を教えてくれます。本作ではヴィランは、この世界を守るために戦うわけです。意外かも知れませんが、ヴィランたちにとっても、この世界が無くなってしまう、誰かに奪われることが一番許せないわけです。DCのヒーロー物は、例えばバットマンがゴッサム・シティ、スーパーマンがメトロポリス、フラッシュがセントラルシティのヒーローと、箱庭的な世界観=街の中でヒーローとヴィランが戦うという図式が多い。だから、自分たちが生きることを許されている、この箱庭自体がとても大事なのです。

 ヴィランというのは決して世界を滅ぼそうとしているわけではなく、彼らは自分流に生きているだけであって(それが世の中から見れば”悪いこと”だったりするわけですが)、そもそも活躍できるベースとなる世界がなきゃ困るのはヒーローもヴィランも同じなわけです。”なにが正義でなにが悪か”以前に、”自分たちの世界を渡してたまるか”という理由から、ヴィランたちは立ち上がるわけです。

 同じようなシリーズで『レゴ  マーベル スーパー・ヒーローズ ザ・ゲーム』(2013年〜)という作品がありますが、マーベルはスーパー・ヒーローズなのに、DCはスーパーヴィランズというのも面白いですね。

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