tofubeats、水カンら手がける空間演出ユニット huezが語る、日本のライブ演出に必要なもの

「演出におけるディレクションはより重要になっていく」

ーー日本におけるライブ演出について、課題があるとすればはなんだと思いますか。

としくに:繰り返しになりますが、全体として、前例がないものを演出に取り入れたがらない、という傾向がありますね。だから、「これまでにあった、こういうものに近いので大丈夫ですよ」と説明すると安心する。そもそも、新しいテクノロジーをインプットをするという教育が意外とないんです。

 もちろん、今まであった技術にLEDの照明を取り入れるだけでもライブ自体は成立しますが、それでは広がりがなくなってしまう。他のジャンルで活躍する人たちとの共有言語を増やして、チームプレイでやっていった方が面白いかなと。知識がない人にも技術をわかりやすく説明する。良い演出をするためには、そういうコミュニケーション能力が重要なんだと思います。

YAMAGE:理想的には「コンセプトレベルからコミュニケーションをとる」ということができれば最高ですね。最近はミュージシャンやクライアントの方から直接のご指名をいただくことも増えていて、かなり初期の段階からのコミットをさせてもらえる現場が増えてきました。そうすると世界観を表現するナラティブをコンセプトに紐づく形で作っていけるので、当然シンクロもする。それに、そもそもの噛み合う部分が濃くなっていくので、ひと味もふた味も違った工夫を提案することもできて、アーティストやクライアントが「こんな雰囲気にしたかった」ということを、より強力な形でサポートできるようになります。

 ただストーリーやコンセプトは与えられることも多いので、その場合はやはりナラティブの問題を深めていく作業になります。一方で、そもそもストーリーやコンセプトごと受託する場合は、アートワークに近いものになりますので、huezの内外からそういったコンセプトやストーリーのスペシャリストを募って意見を出し合い、それを技術的な部分と擦り合わせて組み立てていきます。僕たちとしては、今後は渋家株式会社も含め、そういったコンセプトやストーリーから演出を構成する仕事をしていきつつ、まだまだナラティブを深めることでも実験したいことがある、という感じです。

YAVAO:個人的には去年あたりから、演出論を勉強していて。セットリストが脚本だとして、そこに対してどういう物語を作っていくかを考えています。日常から非日常にへの転換と、そこから日常に戻すタイミングを意識したり。セットリストからアーティストと一緒に作ることも増えています。

 すごくベタな話で言えば、異化効果と呼ばれるものがありますが、クラブのDJやVJというのは、この日常と非日常の間で冷静な状態を保つことで空間をコントロールしています。でも観客の中にも、同じように冷静な状態で鑑賞している人というのはいるはずで、その人たちの感覚と共振するためにセットリストの間に演出が挟み込まれたら、より強い刺激が与えられると思うんです。

 だから「全ての観客が同一の転換ではない」ということに気を配る必要がある。ストーリーというのは普通は単線ですが、ナラティブの面白さはそこです。僕やYAMAGEが極端にコンセプチュアルな技法やマッシブな手法を使うのは「たまたま気づいてしまう少数の観客」が「他の大多数」に与える影響を軽視できないと思うからです。

ーー演出におけるディレクションの重要性が今後日本で認識されていく可能性についてはどうお考えですか。

としくに:ディレクションは、より重要になっていくと思いますね。ディレクターも優秀な人が必要になると思います。ここでいう優秀というのは、単に一つの技術に秀でた人というよりも、より多くの技術、あるいは技法を「フラットに扱える」という意味です。それは観客もフラットで、今のユースの多くはメディアアートも、バンドサウンドも、アイドルも、どれかが権威でどれかがオタクかなどという区別なく接しているから。

 だからこそ、それぞれに「合う技法」があるのではなく「今、求める技法」を提供していかなければならない。これは音楽ライブだけでなく展示場や商業施設の演出などでも同じです。その時に、huezはもちろん、技術クルーでもあるんだけど、技術だけでない共同性やナラティブを、ある種ゲーム的に効率よくコントロールしていくことを目指しているんです。

YAVAO:そういう意味では元々、僕がゲームが好きなことも大きいと思います。複数人でゲームをプレイしている時、僕らはみんな夢中に面白さを探す。その力を演出というアウトプットに使えないかと考えています。僕は時々、人を集めてTRPG(テーブルトークRPG)をプレイしてるんですが、それも一つのストーリーにしたがって、それぞれのナラティブがどういう風に出てくるかということを観察しながらやっているところがあります。要は別の文脈から入ってきたものであっても受け入れてしまう懐の深さ。それは一方でコンセプトやストーリーの弱さでもあるんですが、その弱さに惹かれているのかもしれません。

 僕は強力なエンジニアではないし、あるいは完全なディレクターでもない。その中間を行き来しながら、もっとも効果が高い空間をゲーム的に作り上げたいと思っている。夢中になれる仕組みを複数用意しておいて、そのどこかから入ってこれるということは、一つの入り口だけが大きく口を開けているよりも、最終的に多くの観客を熱狂させうると思うんです。僕たちとしては、いずれにせよ世界観やコンセプトがあれば、そのナラティブをよりリッチにすることが勝負だと捉えています。

ーーこんな技術が生まれたら、ライブに取り入れてみたい、というものはありますか?

としくに:僕らは素材の作り込みに重点をおいているので「技術自体を開発する」ということは、それほど多くないですが、今後、エンジニアが増えたりする予定があるので、そのあたりの増員により、独自のものも増えていくと思います。

 僕は元々、演劇の活動をしていたバックボーンがあるので、これまで「情報化以後、あらゆるエンターテインメントはライブに回帰する」というスタンスで活動してきました。だからライブの魅力というのは、そのまま「代替できないこと」だというのが前提にあり「ではそれを、どのように拡張していくか」ということを考え続けていきたいと思っていますね。

(取材=編集部/メイン写真=Jun Yokoyama)

■huez (ヒューズ)
2011年結成。アート、演劇、工学、映像、身体表現、デザインなど、様々なバックグラウンドをもつメンバーからなるアーティストユニット。「フレームの変更」をコンセプトに、レーザーやLEDなどの特殊照明によるライブ演出から、МVやガジェットの制作まで、アーティストやオーガナイザーと同じ目線に立ち、その世界観や物語を重視する領域横断的な演出を強みとする。

■としくに / 山口季邦
ステージディレクター・演出家。渋家株式会社代表取締役。演劇領域での舞台監督や、メディアパフォーマンスの「インターネットおじさん」などの活動を経て、2016年に渋家株式会社を設立し、代表取締役に就任。「笑い」をテーマとして、既存の枠組みを越えた映像・空間演出のディレクションを手掛ける。

■YAVAO / 小池将樹
VJ・LJ・ステージエンジニア。「身体的感覚の混乱」をキーワードに、デジタルデバイスやゲームシステムの企画・制作をおこなう。2011年にhuezを立ち上げた人物でもあり、現在は、huezのライブ演出の中心人物として、レーザーやLEDなど特殊照明のプランニングを担当している。

■YAMAGE / 山下永祥
テクニカルディレクター・オペレーター。2015年よりアーティストユニット・huezおよび渋家株式会社に所属し、レーザーデザインおよびオペレーションを主軸に活動。「目に見える音」を表現し楽曲の世界観を拡張したレーザープログラミングと精密なオペレーションを得意とする。

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