noiz 豊田啓介インタビュー:情報の集積としての都市と新しい建築

東京は死なないーー消し得ない都市のにおい

――当サイトはエンタメのサイトです。とりわけ21世紀、世界中の人々にとってエンタメは欠かせない生活の一要素になっていると思うのですが、それが建築にどうかかわっていくか、ということも聞かせてください。

豊田:都市開発において、noizがライゾマやチームラボと競合や協働することは普通に起きつつあって、エンターテインメントと建築のオーバーラップが始まっていることは感じています。ただ、これはいい悪いではなく、彼らは建築や建設の実務や法規を知っているわけではないし、僕は僕らでエンタメのノウハウ蓄積を持っていない。ですから、オーバーラップしながら、むしろ境界が見えてきた、という部分は大切にしたいなと思っています。ただひとつ言えるのは、「入り口」として、エンタメであることの効果は非常に大きい。つまり、都市を情報化します、としたときに、僕らが正論を持って、すべてデータ化して10年後の世界を提案しても、なかなかお金がつきません。しかし、エンタメをベースに、半年後に「こんなスペシャルイベントができる」「これだけ集客できる」と提案すれば、圧倒的にお金がつきやすいんです。ですから、入り口のトリガーとしてエンタメの要素をしっかり押さえながら、背後では都市構造の実証実験に一歩一歩切り込んでいく、という形で、共同してできることは多いかもしれませんね。

――さて、今回は渋谷再開発という流れからお話を伺いましたが、あらためて、豊田さんにとって「渋谷」という素材はいかがですか。

豊田:宮下公園付近やいろいろな裏通りはそれぞれに性格も違ってダイナミックに面白いし、ほかの街では実現できなさそうな尖り方を認めてもらえる可能性を感じています。そういうエネルギーを形にしたい、という思いは、僕らにもすごくありますね。

 そもそも、僕は東京が好きです。戦前の木造住宅などはあまり残っていなくても、道路割や区画を見ていると、こっちに川があって、ここが旧道で、だとするとあのあたりに階段があって曲がれば神社があるな、というように、即物的ではない形で、構造的に歴史のにおいが読み解ける形で残っていたりしますよね。かつて色街だったところには、猥雑な飲み屋街があったり、きちんとにおいが残っている。戦争で一度は焼け野原になったのに、構造物を越えて残っている熱容量の強さと言うか、それが今のアクティブな動きにしっかり生きているというか、それは世界でも本当に有数の大都市しか持ちえないパワーだと思います。しかも、東京のなかにも恵比寿だ、池尻だ、五反田だと、それぞれにキャラクターを持った多様な街がある。それらが常にバランスしながら変化していく、というのが面白いなと。

――5年後、10年後を考えたときに、東京はどう変わっているでしょうか。

豊田:5年10年で見た目がそう大きく変わるとは思いませんが、いいか悪いかは別として、Uberがタクシー業界を作り変え、Airbnbがホテル業界をひっくり返し、WeWorkはオフィスのあり方を変化させて――と、これまで固定化された枠のなかで安定していたものを流動化させていくなかで、東京という都市のハードのあり方、あるいはシステムのあり方がどうなるのかは、僕らも見てみたいし、できれば自分たちでシミュレートして、デザインしたいと考えています。そのなかで、どうやっても消し得ない都市のにおい、地形や歴史の蓄積をどう引き継いでいくのか、ということに単純に興味があります。

――新たな情報やテクノロジーにより、そうした“におい”が消えてしまう可能性はあると思いますか。

豊田:いえ。人間ごときのカビのような寄生の仕方で、東京のような巨大な蓄積の分厚さは簡単にかき消されないでしょう。最近、ジェフリー・ウェストという物理学者の『Scales』という本を読みました。人間の集団、企業や都市というものをすべてスケール問題として物理的に解析する、というアプローチで見ていくと、実は細胞と都市は同じじゃないか、という話にもなる。こういうアプローチで都市を考えるということが、学問として、あるいはデザインの手法としてうまく使えるようになればいいのかなと思います。

(取材=神谷弘一/構成=編集部/撮影=稲垣謙一)

関連記事