渋谷再開発で「ビットバレー」はどう復興するか? 東急電鉄担当者に聞く

 100年に1度の再開発で、「エンタメ×テック」の街へと進化を続ける渋谷。その現在地と未来像を見つめる本特集の第一弾として、再開発を推進する東京急行電鉄株式会社・都市創造本部の亀田麻衣氏にその理念と具体的なプランについて聞いた。渋谷はなぜ、人を惹きつける「エンタテイメントシティ」としてのポテンシャルを持つのか。また、IT企業が集う「ビットバレー」としての渋谷はなぜ後退し、どのように再建されていくのかーー。変わりゆく渋谷の街を眺めてきた、ライターの麦倉正樹が迫る。(編集部)
トップ画像提供:渋谷駅街区共同ビル事業者 

渋谷という街が抱える課題と展望

――渋谷の大規模な再開発を推進している東急電鉄社ですが、まずは「渋谷」という街をどう認識していて、どう変えていこうと考えているか、聞かせてください。

亀田麻衣氏(以下、亀田):現在の再開発は、渋谷が抱えている課題の解決と、もともと持っている強みを伸ばすという両軸で考えています。駅の立地上、浸水のリスクがあったり、246によりエリアが分断され、「渋谷」と言えばハチ公前やセンター街側しか認識されていなかったりと、特に駅前のインフラに課題がありました。

 また、以前は「ビットバレー」と呼ばれ、IT企業、クリエイティブ企業の街だったところが、オフィススペースの不足により、成長すると渋谷の外に出ていかなければいけない、という状況を抱えていました。4社9路線が乗り入れる国内第2位のターミナル駅という好立地も当然、オフィスを構える上で強みになりますが、ホテルの客室数は新宿の5分の1ほどしかなく、ビジネスにおいても観光においても、外から来る方が滞在しづらい、という問題もある。オフィススペース、宿泊施設の拡充を進めています。

 カルチャー的な意味でも、渋谷は代官山、恵比寿、原宿など、アイデンティティが確立された街に囲まれており、その中心地として世界的に見てもブランド力がある街なので、再開発においては近郊への回遊性を高めるのも大きなテーマになっています。

亀田麻衣氏

――全体のテーマとして、「エンタテイメントシティ」という言葉が打ち出されています。

亀田:この言葉は渋谷区さんの基本構想にも謳われており、行政と一体になって、渋谷がもともと持っている強みをより強め世界に発信していこう、ということから生まれたコンセプトです。日本一訪れたい街をつくる、ということですね。ブロードウェイのような広告に満ち溢れた情報発信力のある街であり、シリコンバレーのようなクリエイティビティがあり、パリやミラノのようにファッションの街でもある――世界中のすばらしい都市のいいとこ取りにも思える壮大なイメージですが、渋谷にはそのポテンシャルがあると考えています。

 弊社はビルを建てて終わりの会社ではなく、二子玉川やたまプラーザの再開発でそうしてきたように、「まちづくり」全体を視野に入れながら、各事業を進めています。渋谷がエンタテイメントシティになるためには、コアバリューとして、若い感性を応援し、遊びと仕事がボーダーレスにできるという強みを活かし、また仲間が集まりやすく、外国人にも優しい、という部分を重視しながら、渋谷ヒカリエや渋谷キャストのイベントスペースを活かして、さまざまなイベントを誘致していきたいと考えています。例えば、スタートアップ企業に光を当てる「TechCrunch Tokyo」もヒカリエホールで開催していただいていますね。

渋谷が目指す、多様性に溢れたエンタメシティ

――再開発前の渋谷を考えると、ユースカルチャーの拠点が秋葉原に移ったように見えたり、エンタテイメントの街として下降ぎみだったように思います。しかし、おそらく当初は誰が仕掛けたわけでもなく、サッカーW杯やハロウィンに際して大きく盛り上がったり、自然と人が集まろうとする街ではあり続けています。

亀田:2017-2018年の年末カウントダウンは、約10万人が集まりました。スクランブル交差点に人が集まりすぎるという課題を、街ぐるみで解決するために、あえて開放する、という取り組みを始めたのが2年前で、その様子はSNSなどで世界中に発信されました。やはり渋谷は人が集まりたい、というブランド力を持っているのだと思います。

 また、この再開発は、90年代に盛り上がっていた渋谷への回帰を目指すというよりは、「今の時代にあった渋谷」というものを希求していきたい、と考えています。今はインターネットやSNSも発達して経済条件も大きく違いますし、100年に一度、という規模の再開発で、20年、30年後を見据えて進めていかなければならないと考えています。

――エンタテイメントシティ、というコンセプトについてですが、いわゆるテーマパークのような発想ではなく、ビジネスパーソンがいて、観光の拠点として渋谷を利用する人がいて、というなかで、「エンタメ」というのはどんなバランスで考えていますか。

亀田:渋谷区観光協会も「PLAY! DIVERSITY SHIBUYA」というコンセプトを掲げており、どんな人が来ても自分らしく楽しめる街、ということで、さまざまな側面から「エンタメ」というものを考えていかなければいけないと考えています。また、先ほども申し上げましたように、渋谷のように遊びと仕事がボーダーレスにつながる街というのは、なかなかありません。渋谷はクリエイティブコンテンツ産業の企業の数が日本一で、NHKの周りにはエンタテイメント系企業が多く、原宿方面にはアパレル企業が多数ありますし、桜丘町や道玄坂にはベンチャー企業が多い。それなのにビジネス街というイメージがないのは、丸の内や西新宿、品川などと違い、スーツをかっちり着ずに働く方が多く、終業後、そのまま遊びや習いごとに繰り出せる環境があるからなんです。また、渋谷には意外と住宅も多いので、自転車通勤の方も少なくありません。つまり、生活も仕事も、遊びも学びも、すべてがストレスなくつながる街のなかで、個々人が自分のスタイルでエンタメを楽しめる、というものを目指しています。

――なるほど。従来の都市開発のように、大きな劇場を作りました、市民ホールを作りました、という話ではなく、働き方も含めてエンタテイメント化する、ということですね。

亀田:そうですね。Bunkamuraや東急シアターオーブなどのエンタメ施設はもともとありますし、また円山町の方にはライブハウスや映画館などもありますし、もともと渋谷にあるものを活かしながら、街全体を盛り上げていきたいと考えています。

――今後オープンする施設で、エンタメという切り口で目玉になりそうなものはありますか。

渋谷ストリーム外観 提供:東京急行電鉄株式会社

亀田:今秋に開業する、渋谷駅直結の「渋谷ストリーム」には、スタンディングで約700人動員できるホールができます。

 合わせて、行政とともに渋谷川を再生するプロジェクトも進んでおり、代官山方面につながる約600mの遊歩道も整備され、同じく弊社が進めている「渋谷代官山Rプロジェクト」まで回遊できるようになっています。渋谷ストリームは下層が商業施設、中層がホテル、上層にはGoogleさんが入るオフィスがあり、渋谷代官山Rプロジェクトにもオフィス、ホテル、保育園ができますので、やはりエンタメから仕事、生活を結ぶものになると考えています。

――エンタメ施設を軸として、これまで分断されていたところが、よりシームレスになる。

亀田:そうですね。例えば、渋谷ヒカリエができて、2階の貫通通路を通ることで宮益坂上までの道がバリアフリーになりましたし、マークシティを通れば道玄坂上にも行ける。駅が谷底にある、という渋谷の課題もそうして解決されていく過程にあり、さらに動線が整理されていくことで、渋谷本来のストリート文化、ユースカルチャーのようなところにも街全体が接続されていくと思います。

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