『VIVANT』は堺雅人のためのドラマだった? 乃木、F、リュウの“3つの顔”を成立させた手腕

 その一方で、第2シーズンは堺に新たな役割を与えた。第16話から登場した劉銘軒(リュウ・ミンシュエン)である。第1シーズン第7話、野崎はかつて亡くした部下について、乃木に「お前によく似てる」と話していた。その人物が実は生きており、堺自身が演じるという仕掛けには驚かされた。乃木とFの二役だけでも十分に複雑な役どころだが、今度はまったく別の人生を歩んできた人物まで、同じ俳優が演じることになった。

 野崎に強い愛情を抱き、やがて執着心を募らせていったリュウ。穏やかに言葉をかけていたかと思えば、突然声を荒らげ、野崎に迫る。動きには妙な軽やかさがあり、どこか芝居がかった身ぶりも目立つ。感情を抑えがちな乃木や、冷徹な態度で相手を追い詰めるFとは異なり、リュウは愛情や怒りをむき出しにすることで周囲を翻弄する。拷問で負った傷や衣装の違いだけではなく、話し方や歩き方、相手との距離の取り方からして別人なのである。

 11月1日放送の第23話では、その乃木とリュウがついに対面した。情報ブローカー・タイランの屋敷を訪れた乃木が「ようやくお会いできましたね」と声をかけるのに対して、リュウは黙って睨み返す。同じ顔をした2人が画面に並んでも、互いを探る視線や間合いはまるで違う。ここで面白いのは、乃木の内側にいるFとは異なり、リュウが乃木にとって外側に存在する脅威だということだ。第1シーズンでは堺が自分自身と対話し、第2シーズンでは堺が演じる別の人物と対立する。2人の関係を見ていると、作品の構造そのものが堺の演技を見せるために広げられてきたようにも感じる。

 『半沢直樹』で見せた怒りを前面に出す芝居、『リーガル・ハイ』(フジテレビ系)の古美門研介における畳みかけるようなせりふ回し、大河ドラマ『真田丸』(NHK総合)で真田信繁が見せた葛藤。堺はこれまでも、作品によって異なる人物像を作り上げてきた。『VIVANT』は、そうした堺の演技の幅を1つの作品に凝縮したようなドラマでもある。ただし、過去の役柄の要素を組み合わせただけでは、乃木、F、リュウという3つの顔は成り立たない。それぞれの性格や感情の表し方はもちろん、相手との関係性によっても芝居を変える必要がある。そうした複雑な演じ分けを成立させているところに、堺の俳優としての巧みさが表れている。

 堺は第2シーズンの放送前、『VIVANT』を通して福澤克雄監督から「大きなラブレターと、大きな宿題」を受け取ったと語っていた(※)。乃木、F、そしてリュウという3つの顔を託されたことは、堺の俳優としての力量に対する信頼の表れであると同時に、それぞれをどう演じ分けるかという難題でもあったはずだ。堺は同じインタビューで、芝居が型にはまってしまえば作品の持つ生命は失われてしまうとも話している。

 『VIVANT』が堺雅人のためのドラマだったと言えるのは、単に一人三役を演じたからというわけではない。堺がどのような芝居を見せるのか、その一つひとつが視聴者を驚かせ、物語を追う楽しさにつながっているからだ。幾重もの謎や伏線が張り巡らされてきた本作だが、最も大胆な仕掛けは、堺雅人という俳優に3つの顔を与え、その演じ分けをドラマの核に据えたことだったのかもしれない。

参照
※ https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2826675

■放送情報
日曜劇場『VIVANT』第2シーズン
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:堺雅人、阿部寛、二階堂ふみ、竜星涼、山中崇、富栄ドラム、林原めぐみ(声の出演)、花岡すみれ、本間さえ、二宮和也、宮下今日子、オーム・タナパック、濱田岳、坂東彌十郎、小日向文世、キムラ緑子、松坂桃李
原作・演出・プロデュース:福澤克雄
プロデューサー:飯田和孝
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/VIVANT_tbs/
公式X(旧Twitter):@TBS_VIVANT
公式Instagram:tbs_vivant
公式TikTok:vivant_tbs 

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