『男ともだち』でなぜ『晩春』を使用? 三島有紀子監督が劇中で映画を登場させる狙い語る
第39回東京国際映画祭コンペティション部門に出品されている松岡茉優主演映画『男ともだち』が11月1日に丸の内ピカデリーで上映され、上映後のQ&Aに監督の三島有紀子が登壇した。
千早茜の同名小説を映画化した本作は、男女の友情と寄り添うことの意味、そして自己を見失った女性が世界と向き合い直す姿を描いた人間ドラマ。満席の客席から温かな拍手で迎えられた三島監督は、「注意深く映画を観てくださっている皆さんと一緒に映画の話ができることを幸せに思います」と挨拶。
今作が長編劇映画11本目となる三島監督は、「今回はスタッフ、キャスト全員で、できる限り物語を捨て、事象の説明をやめ、言葉にできない感情や関係を繊細にたどっていく映画を目指しました。撮り方も含め、感情をどこまで視覚化できるかという挑戦です。シネスコサイズという横長画面で2人の物理的・心理的距離感を捉え、音響面でも“水のロードムービー”として2人の心の機微を能動的に感じ取ってもらえるよう設計しました」と、従来の作劇とは一線を画す表現へのこだわりを明かした。
客席にいた撮影監督の大塚亮を紹介しながら、「撮影中、私にとって“男ともだち”のようにずっと寄り添ってくれたカメラマンです」と信頼を寄せた三島監督。「少しいびつなラブストーリーとも言えますが、幼少期に大きな傷を抱えた女性が自分の目で世界を見つけていく物語でもあります。最後に描かれる絵の意味を含め、皆さんの心の深くに届いていれば嬉しいです」と作品の核を共有した。
司会者から『Two Cigarettes, Three Nights』という英題をつけた経緯について尋ねられると、三島監督自身が発案したものであることを明かし、映画における「タバコ」というモチーフの意味を解き明かした。
「映画は時間を共有するものですが、流れていく時間そのものを認識するのは難しいところがあります。しかし、タバコを吸っているとき、火が進んでいく様子は確実に時間の経過を感じさせてくれる。吸っていなくても灰が溜まっていくのを見た瞬間に、時間が過ぎていくことを実感します。時間が経ち、やがて灰になってしまう2つのもの――2本のタバコに、2人のバックストーリーや過ぎ去る時間を重ねて想像してもらえたらと思っています」
観客からは、手持ちカメラによる長回しや足元のクローズアップが印象的だったという指摘が寄せられた。これに対し、三島監督は映画作家としての視点を丁寧に語った。
「手持ちやドローンを駆使して2人を追うロングショットは、途切れることのない感情の流れとそのプロセスを丸ごと捉えるための選択でした。左右、前後、上下の動きを作りながら、感情の変化をカメラの動きとともに掬い取っています」
さらに、足元や手のインサートカットについて「デビュー当時から手と足を好んで撮っています」と告白。ロベール・ブレッソン監督の言葉にも触れつつ、「手は何を掴んでいるのかを示し、足は“誰がどこへ向かっていくのか”という強い“意思”を表す部位です。感情や決意が如実に宿るポイントとして意図的に捉えています」と演出の狙いを説明した。
最後に、劇中で主人公たちが見つめる小津安二郎監督の映画『晩春』の引用意図について問われた三島監督は、劇中に映画を登場させるふたつの狙いを語った。
「劇中に映画を登場させることにはふたつの目的があると考えています。ひとつは時代背景を示すこと。もうひとつは、映画というフィクションの存在を観客に提示することで、それを観ている主人公たちが“現実をリアルに生きている人間である”という実感を際立たせる効果です」
その上で『晩春』を選んだ理由については、ヴィム・ヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』へのオマージュも匂わせつつ、「年末年始に2人が寄り添いながら観る作品として選びました。ただ、小津監督の『晩春』も父と娘が寄り添いながら、最後には別れが訪れる作品です。そこにも、本作の2人の関係性と響き合う意味が込められているのかもしれません」と示唆に富んだ解釈を添えた。
熱心な質問が相次いだQ&Aの締めくくりに、三島監督は「映画を注意深く観てくださり本当に幸せです。もし何か受け取るものがありましたら、ぜひ言葉にしてどこかに書き残してください。私も必ず見ます」と笑顔で呼びかけ、熱気あふれる夜を締めくくった。
■公開情報
『男ともだち』
11月6日(金)新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
出演:松岡茉優、成田凌、井上祐貴、中島歩、咲妃みゆ、三浦貴大、辻󠄀凪子、中山求一郎、比喩根(chilldspot)、余貴美子、池畑慎之介
原作:千早茜『男ともだち』(文春文庫)
監督:三島有紀子
脚本:澤井香織
音楽:安川午朗
劇中歌:chilldspot「lost child」(RECA Records)
製作幹事・配給:ハピネットファントム・スタジオ
制作プロダクション:カズモ
©2026『男ともだち』製作委員会
公式サイト:https://happinet-phantom.com/otokotomodachi/
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