『豊臣兄弟!』松下洸平が見せた“最終系”の家康 豊臣・徳川の運命と交わる“信じる心”

『豊臣兄弟!』松下洸平による最終系の家康

 NHK大河ドラマ『豊臣兄弟!』第41回「家康の野望」は、勝家(山口馬木也)と市(宮﨑あおい)が北ノ庄城の天守でその生涯を閉じた第33回「北庄城の別れ」以来の、タイトルバックなしの重要回。第17回「小谷落城」、第27回「本能寺の変」、第33回に続く、4度目となり、それらに並ぶ大きな山場と言える。

 その内容は家康(松下洸平)の上洛。秀吉(池松壮亮)にとって最大の宿敵だった家康を臣従させ、天下一統への道――あの日、無我夢中で手を伸ばしていた“お天道様”へとさらに歩みを進める、豊臣にとって大きな転換点となる。

 特筆すべきは、家康が秀長(仲野太賀)の命を狙い上洛するという驚きの展開だ。豊臣にとって大切なもの、それは関白秀吉を支える補佐・秀長の命。家康を狙う北条の刺客と偽り、酒を酌み交わす宴の中で秀長を討つ謀を企んでいた。合図は家康が杯を落とすこと。謁見前夜、緊迫した宴の席が幕を開ける。

 今夜は胸の内を曝け出し、豊臣と徳川が手を取り合うのに相応しいかを判断してほしいと家康に酒を注ぐ秀長。「大坂城を攻めるとしたらどこを攻めればよい?」「そなたが最もつらく、苦しかったことはなんじゃ?」という家康からの“戯言”を、秀長は問いかけとして誠実に答え始める。村の諍いに巻き込まれあっけなく命を落とした許嫁の直(白石聖)に、戦でこの世を去った嫡男の与一郎(大西利空)。家康の脳内に自身が死に追いやってしまった妻と子の最期の姿が去来する。家康の持つ杯の揺れは、そのまま心の揺れを表していた。

 秀長と家康はどこか似ている。大事な人を奪われ、戦のない安寧の世を目指す秀長と同じく、家康の根底にあるのももう何も奪われたくない、守りたいという思いだった。自身が手配した刺客の矢から身を呈して秀長を守る家康は、北条の仕業に見せかけ秀長を殺すつもりであり、上洛も偽りだと明かしてしまう。なぜ、家康は秀長を助けたのか。

 人を信じること。これは『豊臣兄弟!』が初期から描いてきた大切なテーマだ。人に裏切られながらも、人を信じることでしか前には進めない。ひねくれ者で本心を明かさず、自ら動くこともなかった家康を突き動かしたのは、秀長が本音で話してくれた誠の心がある。秀長と家康との共鳴が、心の壁を壊し、豊臣・徳川を一つにした大きな要因にある。

 秀長だけでなく、秀吉も家康にまっすぐ本音で接する。かつて、百姓上がりの何者でもなかった秀吉の「どうすればお偉くなれますでしょうか?」という問いかけに、家康は自身の胸を叩きながら「大事なのはここじゃ。熱意が人を動かし、勝敗を決する」と答えた。それはある種のもう一人のペルソナが放った戯言であるが、結果的に秀吉のなかで息づき、嘘から出た実となっている。

 大坂城の広間に姿を見せた家康の頭は月代に綺麗に剃られている。臣従に伴い、家康が秀吉にお願いしたのは、陣羽織の継承。それは心を一つにするため。そして、「本能寺の変」の直前、第26回「信長を笑わせろ!」で信長(小栗旬)が秀吉へと陣羽織を着させたシーンを思い起こさせる。信長から秀吉、そして家康へと“三英傑”の間で、“兄弟”と心が受け継がれていく。その象徴が陣羽織だ。

 家康は豊臣の元へと出奔した数正(迫田孝也)と再会する。裏切りと信じる心。そのことを体現しているのが家康と数正の関係性でもある。約束通り、酒を酌み交わす2人はすぐに元の和気藹々としたなんでも話せる仲に。以前、数正が話していた秀吉、秀長兄弟が死ぬのを待つという案を受け止め、2人よりも長生きをし最後には自分が笑って見せると誓う。それは「徳川殿が作りたき世はどんな世でございまするか?」のアンサーでもあり、秀長、秀吉の亡き後、つまりは『豊臣兄弟!』では描かれることのない、「関ヶ原の戦い」「大坂の陣」といった、家康が天下を握り、戦国時代の乱世を終わらせるまでの未来を想像させる。秀吉に臣従したとしても頂に立つ野望は捨てず。これまで飄々としながら、底知れない悲しみや怒りを覗かせてきた家康。そこから小牧・長久手の戦いで感情を爆発させ、今回の上洛で誠の心を見せる。第41回で松下洸平が演じたのは『豊臣兄弟!』における最終形の家康と言えよう。その機微、芝居のグラデーションが見事であった。

 第42回「北野大茶湯」では、出家した足利義昭こと昌山(尾上右近)が再登場。一方で、秀長と秀次(山田涼介)の対立が表面化することとなる。

■放送情報
大河ドラマ『豊臣兄弟!』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/毎週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、白石聖、坂井真紀、宮澤エマ、倉沢杏菜
大東駿介、松下洸平、中島歩、要潤、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗旬ほか
語り:安藤サクラ
脚本:八津弘幸
制作統括:松川博敬、堀内裕介
演出:渡邊良雄、渡辺哲也、田中正
音楽:木村秀彬
時代考証:黒田基樹、柴裕之
プロデューサー:高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友茜(広報)
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.web.nhk/tv/pl/series-tep-P52L88MYXY
公式X(旧Twitter):@nhk_toyotomi
公式Instagram:@nhk_toyotomi

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「国内ドラマ」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる