『ブラッサム』上京を決意した“珠”石橋静河と家族のドラマ 「春が来た」が旅立ちを告げる

『ブラッサム』上京決意の珠と家族のドラマ

「生きちょったら、なんぼでも取り返せるんじゃけぇ」

 NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第19話では、リョウ(国仲涼子)のこの言葉に背中を押された珠(石橋静河)が、ついに故郷の岩国を離れる決意をする。しかし、珠にとって新しい人生への一歩であっても、残される家族にとっては大切な人との別れを意味する。珠の決断を誰よりも受け入れられなかったのが、弟の守(中須翔真)だった。

 東京の大学へ進学する保のもとへ行ってはどうかと、リョウから提案された珠。一晩中考え続けた末に、岩国を出ることを決心する。教師として働き始めたものの、思うようにはいかず、閉鎖的な故郷での暮らしにも行き詰まりを感じていた珠にとって、東京行きはもう一度自分の人生を立て直すための選択でもあったのだろう。

 翌朝、珠は弟妹たちにも東京へ行くことを打ち明ける。しかし、守は納得できず、「東京へでもどこへでも好きに行ったらええ!」と怒って家を飛び出してしまう。その後、珠が岩田屋の幸三(八嶋智人)とカツ(楠見薫)のところに上京の報告に行くと、幸三から思いがけない話を聞かされる。少し前、守は悪い噂のせいでなかなか仕事が見つからない珠を支えるために、岩田屋で働かせてほしいと申し出ていたというのだ。

 守もまた、姉のことを考え、自分にできることを探していた。珠が東京へ行こうと決めるまでの間に、守は守なりの覚悟を固めていたのだろう。だからこそ、突然の別れを簡単には受け入れられなかった。

 その日の夜、帰宅した守に珠は「ごめんね、勝手に決めて」と謝る。自分もずっと岩国にいるものだと思っていたこと、そして自分のことで家族につらい思いをさせてきたのに胸を痛めていたことを打ち明ける。すると守は、涙を浮かべながら胸の内を明かす。

「ワシも、役子も英男も、どがあな目に遭うても耐えてきたんは、姉さまと一緒におりたかったからじゃ」

 守自身もいじめに遭いながら、苦しい日々を送ってきた。それでも耐えてこられたのは、珠がそばにいたからだった。続けて「東京なんぞ、行かんでくれ!」と懇願する守。姉のことを思っているからこそ、その姉がいなくなることが何より辛い。守が涙ながらに吐き出す言葉にはこれまで珠の知らなかった弟の苦悩と姉を慕う思いが詰まっていた。

 珠も家族を置いていくことに迷いがないわけではない。それでも「どうかウチのわがままを許してほしい」と、東京へ行く決意を曲げなかった。家族と一緒にいたいという守の思いも、自分の人生をもう一度やり直したいという珠の思いも、どちらも間違ってはいない。それが分かっているから、姉弟のやり取りには胸が痛くなる。

 守が姉を引き止めようとするのも愛情なら、リョウが東京へ送り出そうとするのもまた愛情だ。リョウは珠が岩国で経験してきた苦労も、思うように生きられなかった悔しさも知っている。だからこそ、もう一度やり直せると伝えたのだろう。家族と離れる寂しさよりも、珠が自分の人生を歩めることを優先した。その覚悟も決して簡単なものではなかったはずだ。

 そして、岩国で過ごす最後の夜。まだ珠との別れを受け入れられない弟妹たちを前に、守が「春が来た」を歌い始める。すると、その歌声は少しずつ家族みんなへと広がっていった。あれほど珠の東京行きを嫌がっていた守が、今度は自ら歌い出す。姉と離れる寂しさが消えたわけではないが、守は歌うことで、自分自身の気持ちに踏ん切りをつけようとしていたようにも感じた。新しい季節の訪れを告げる「春が来た」が、珠の旅立ちと重なる場面でもあった。

 出発の日、リョウは珠に一つの袋を手渡す。それは初めて会った日に珠が着ていた着物を作り直したものだった。幼かった珠と出会ってから、長い年月をともに過ごしてきたリョウ。血のつながりはなくとも、珠の成長を見守り、時には厳しく、時には優しく支えてきた。

 「しんどいときもあったけど……幸せじゃった」と振り返る珠に、リョウも「ウチもじゃ……幸せじゃった」と返す。決して平穏なばかりの日々ではなかった。清治(渡部篤郎)との関係に悩み、家族のことで苦労を重ね、珠自身も何度となく挫折を経験してきた。それでも、2人が最後に口にしたのは「幸せ」という言葉だった。

 リョウの言葉にうなずきながら、涙をとめどなく流す珠。これまでの母娘の時間を思えば、これ以上の言葉は必要ない。初めて出会った日の着物が、今度は珠の新しい人生をともに歩む袋となった。「生きちょったら、なんぼでも取り返せるんじゃけぇ」――その言葉を胸に、珠は故郷の外へと踏み出した。

■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK

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