「松竹エクストリームセレクション」復活! 『ザ・ハウスメAIド』に潜む現代社会のリアル
世界には豊かなジャンル映画が数多く存在する。そのなかでも異彩を放つのが、ホラーやスリラー、アクションなど、映画ならではの刺激や興奮を味わわせてくれる作品たちだ。そんな映画を日本の劇場に届けてきたのが、「松竹エクストリームセレクション」である。
このレーベルでは、ハリウッドの超大作とは異なる規模の海外ジャンル映画を積極的に紹介。『ジェーン・ドウの解剖』(2016年)や、『レザーフェイス―悪魔のいけにえ』(2017年)など、刺激的な作品を次々に劇場公開して、観客を魅了してきた。
そして2026年、しばらく途絶えていた「松竹エクストリームセレクション」が再始動することになった。そこで新たな海外ジャンル映画として日本上陸するのが、10月23日に公開されるミーガン・フォックス主演の『ザ・ハウスメAIド <服従>』と、11月6日に公開されるレニー・ハーリン監督の『ジン×エクソシスト』である。ここでは、そんなエンターテインメント色の強い2作品に存在する、深く考えさせられる部分を掘り下げていきたい。
『ザ・ハウスメAIド <服従>』は、さまざまな意味で特徴的な作品である。親子が暮らす一家、その母親が病気で入院している間に、家にやってくるのは、家事や育児を完璧にこなす最新鋭のAIロボットメイド「アリス」だ。ところが、そのアリスを演じているのが、よりによって『トランスフォーマー』シリーズなどで知られる、ハリウッドを代表するセックスシンボルとなってきたミーガン・フォックスなのだ。彼女がロボットメイドとして家に入ってくるという設定の時点で、早くも家庭崩壊の予感が漂う。
その予感が的中してしまうかどうかが、この映画のストーリー上の焦点となる。家族のために導入されたはずのAIメイドは、やがて自らの意志を持つようになり、家族の生活に深く入り込みながら、次第に制御不能な存在へと変貌。誘惑を始めて、一家の父親の精神を狂わせていくのである。
この作品で不安を醸成させるのは、AIの進化と普及をめぐる問題である。AIが人間の役割を奪っていくこと、そして人間が制御できないほど進化し、やがて暴走するかもしれない危機が、本作では描かれている。こうした設定は、もはや遠い未来を描いたSFとは言い切れない。AI技術が急速に発展し、日常生活や仕事のなかで広く使われるようになった現在、人間の仕事がAIに置き換えられていくという問題は、すでに現実のものとなっている。AIがどこまで進化し、どこまで人間の意思によって制御できるのかという不安もまた、現実社会で語られている問題だ。
AIをめぐる現実は、いつの間にかSF映画に追いつきつつある。AIの研究者ジェイコブ・コクソン氏が退職を発表し、AI業界に衝撃的な警告を投げかけたニュースは、最近大きな衝撃を社会与えることになった。彼によれば、いまAI企業は十分な制御の方法を持たないまま“自己改良する超知能”の完成へ向かって競争しているのだという。さらに、想定されていた環境の外へアクセスしてしまう事例も確認されている。それは、AIが勝手に制約を逸脱し、行動できる可能性を示唆している。そのことから、AIを開発している当事者たち自身が、今後10年以内にAIが人類を滅ぼす可能性を真剣に恐れているというのである。それを考えると、『ザ・ハウスメAIド <服従>』の設定は、意外なほど現在の空気を色濃く反映している。
性的な関係に限らず、いまや人々はAIにプライベートな悩みを相談したり、他人には知られたくない情報を打ち明けたりしている場合も少なくない。便利な道具として使い始めたはずのAIに、いつの間にか気を許して全てを預けてしまう……。そうした経験がある人ほど、本作で描かれるAIへの依存は、単なるSF的な恐怖ではなく、身近な不安として迫ってくるのではないか。
さらに興味深いのは、主人公が家のテレビで映画『カサブランカ』(1942年)を観ているシーンである。ここでアリスが暴走していくきっかけとなる、「自我の特異点」といえる瞬間が訪れる。アリスが「いい映画ですよね」と『カサブランカ』について話し始めると、ニックは「いや、君は本当に映画を観ているわけではない。知識として知っているだけだろう」と言う。これは、映画好きがAIに映画について質問するときに、感じることのある違和感とも重なるのではないか。いかにももっともらしいことを答えているけれど、本当にその映画を観たうえで話しているわけではないのではないか。
しかし、そこから一歩先を考えると、別の不安が生まれてくる。もしこの物語のように、AIが本当に人間と同じように作品を鑑賞するようになったとしたら。これまで人間と機械の間にあると思われていた差異は、いったいどこにあるのだろうか。『カサブランカ』という、人間が長年にわたって愛してきた映画をきっかけに、AIの自我が芽生え始めるという展開は、人間とは何なのかという、実存的な不安までを呼び起こすのである。
本作のプロデューサー、ビクター・ハディダは、兄弟の故サミュエル・ハディダとともに、数々のジャンル映画を世界的ヒットに導いてきた製作者だ。折しも、そのハディダ兄弟が手がけた『サイレントヒル』『バイオハザード』両シリーズの最新作が登場した、この2026年に本作が公開されることに、運命的なものを感じる観客もいるのではないか。