『ブラッサム』“珠”石橋静河に向けられる偏見がもどかしい “保”金子大地が心の安らぎに
「うち、人を好きになっただけじゃ」
島村(工藤阿須加)との関係を理由に教師の職を追われた珠(石橋静河)が、継母のリョウ(国仲涼子)に漏らした言葉。化粧を始めたのは、自分を奮い立たせ、新たな気持ちで仕事に向かうため。島村に近づいたのも、彼に心を惹かれ、一緒にいたいと願ったからだった。それだけのことが、当時の女性教師には許されない。しかも、同じ時間を過ごした島村は教壇に残り、珠だけが仕事も恋も失う結末となった。
NHK連続テレビ小説『ブラッサム』第16回では、その出来事が珠の次の働き口にまで影響していく。家庭教師や接客の仕事など、あちこちを当たっても採用には至らない。耳に入ってくるのは、「派手な化粧で男をたぶらかした」という理不尽な評判だった。珠がどんな気持ちで化粧をし、どれだけ子どもたちに心を砕いてきたか。その姿を知る私たちには、周囲の決めつけがもどかしい。教師を辞めさせるだけでは足りず、次の仕事に就く機会まで奪うほど、珠は責められなければならないのだろうか。
家では、清治(渡部篤郎)の着物や不要なものを売り、少しでもお金をつくろうとしていた。リョウが工場で働く一方、珠も職探しの合間に裁縫の内職を続ける。懸命に動いているのに暮らしは楽にならず、珠はきょうだいたちにひもじい思いをさせていることを気に病んでいた。自分の収入が途絶えたことで、家族に負担をかけている。その思いが、傷ついたばかりの珠をさらに追い詰めているようで、見ていて苦しくなる。
だからこそ、「誰がどう言おうとわしらは珠の味方じゃけえ」という幸三(八嶋智人)の言葉が胸に沁みた。人々がうわさを信じ、珠から距離を置くなか、変わらず味方でいてくれる人の存在。「人を好きになっただけ」の珠が、これ以上自分を責めずにいられるよう、こちらも願わずにはいられない。
リョウの支え方にも、娘への深い愛情がにじんでいた。仕事で帰りが遅くなっても、働き口が決まらなかったと報告する珠には、焦らなくていいと声をかける。リョウ自身にも疲れや生活への不安はあるはずだ。それでも、珠にその焦りを背負わせようとはしなかった。
翌日、リョウは自ら清治の実家である葉野酒造へ出向き、珠を働かせてもらえないかと頼み込む。しかし、清治の弟・清重(三浦誠己)が気にするのも、やはり世間の評判だった。親族を頼ってもなお、うわさが珠の行く手を阻む。その状況でリョウが訴えたのは、珠が前を向けるようにしてあげたいという願いだ。
家計を支える収入が必要なのはもちろんのこと。それでも、リョウが土下座までして求めたのは、娘がもう一度、自分の力で働ける場所だったのではないか。職を探しては断られ、家族への申し訳なさを募らせる珠をそばで見てきたからこそ、母は娘に「焦らなくていい」と伝えながら、裏では自ら頭を下げに行く。その行動に、珠を思う気持ちの強さが表れていた。
ようやく葉野酒造で働き始めた珠だが、そこでも冷たい視線にさらされる。「さすが清治の娘じゃ」と口にする客は、珠に父親の評判まで重ねていた。懸命に働く目の前の人より、耳にしたうわさを信じてしまう周囲の人々。仕事さえ見つかれば過去のことにできるわけではなく、珠は偏見のなかで日々を送らなければならなかった。
そんな彼女が、夏のある日、木村保(金子大地)と再会する。保は、かつて珠が嫁いだ享一(小堀正博)の弟であり、祝言の席でも気まずそうな珠を気にかけていた人物だ。実家に逃げ帰り、迷惑をかけたと謝る珠に、彼が返したのは「迷惑を被ったんは、あんたじゃろ」という言葉だった。
大人の都合で振り回され、かわいそうだと思っていたという保。結婚当時の珠の立場を理解してくれる人がいたことに、ほっと胸をなでおろす。珠が周囲への迷惑を気にして謝るのに対し、保は彼女自身が受けた仕打ちに目を向けてくれた。誰からも責められて当然のように扱われてきた今だからこそ、その言葉は珠にとっても救いになったのではないか。
父親の体調が悪く、京都から帰省していた保は、話し相手がいなくてつまらないのだという。一週間後に戻るまで、また付き合ってもらえないかという誘い。珠にとっても、自分の境遇を話し、相手の近況に耳を傾ける時間は、久しぶりの安らぎになったはずだ。
ただ、二人の再会は喜ばしい一方で、また誰かに見られたらという不安もよぎる。人を好きになっただけで職を失い、その後も偏見にさらされてきた珠。ようやく訪れた穏やかな時間まで、周囲の目に奪われてしまうのだろうか。
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK