『豊臣兄弟!』の史実改変はなぜ賛否を呼ぶ? 『半沢直樹』に通じる八津弘幸の“攻めた”脚本

 大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合)が佳境に入っている。豊臣秀吉(池松壮亮)と秀長(仲野太賀)の兄弟が天下取りの夢をかなえる“下剋上ドラマ”は、秀吉が天下人となり、秀長が病死するまでの最晩年にあたる期間を描いている。

 農民に生まれ、織田信長(小栗旬)に仕えて頭角をあらわし、信長の死後、並み居る大名を制して史上最大の下剋上をなしとげた秀吉の陰には、兄を支えた弟・秀長の存在があった。兄弟が人たらしの魅力と才覚によって次々と困難を乗り越えるサクセスストーリーは、上昇気流に乗るような痛快な高揚感を覚えるものだ。

 令和の『太閤記』にあたる今作だが、ストーリー展開は賛否両論を巻き起こしている。史実を改変した今作独自の脚色に対して「行きすぎ」という声も少なくない。代表的なものを挙げれば、信長に敗れ、切腹した浅井長政(中島歩)を妻の市(宮﨑あおい)が介錯する第17話がある。同放送回では、武田信玄(高嶋政伸)が餅をのどに詰まらせて急死している。

 また、第33話では、賤ケ岳の合戦で敗れた柴田勝家(山口馬木也)が市と手を取り合って北庄城から飛び降りるシーンが歴史学者から批判されたほか、中川清秀(すがおゆうじ)が羽柴方を裏切る描写に対して、ゆかりの地である茨木市や竹田市がNHKに抗議する事態へと発展した。

 今作の脚本を手がけるのは八津弘幸。八津は、フジテレビのアシスタントプロデューサーを経て1999年に脚本家デビュー。八津の名前を広く知らしめたのは2013年に放送されたTBS日曜劇場『半沢直樹』だ。池井戸潤の原作をドラマ化した同作は、平成以降に放送された民放テレビドラマ史上第1位の視聴率を記録するメガヒットとなった。

 八津は2020年度後期の連続テレビ小説『おちょやん』(NHK総合)の脚本を担当したほか、日曜劇場の諸作品や『家政婦のミタゾノ』(テレビ朝日)シリーズをはじめヒット作に携わり、2025年には映画『爆弾』で第49回日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞している。

 朝ドラを書ききる筆力があり、『VIVANT』(TBS系)などで知られる福澤克雄監督をはじめ、ベテラン演出家のオーダーに柔軟に対応できる八津は、職人的な構成力に加えて、エンタメのキレと人間ドラマの深さを兼ね備えており、脚本家としての個性になっている。その八津にとって、『豊臣兄弟!』がこれまでにないチャレンジだったことは容易に推察できる。

 兄・秀吉と比較して、残された資料が少ない豊臣秀長を主役に据えた今作で、1年にわたって物語を紡ぐことは容易ではない。考えられる方法は2つだ。ひとつは、主人公である秀長に想像上のエピソードを付与すること。これは、キャラクターを創造することに近い。天下人となった秀吉を支える「賢い弟」というイメージを膨らませて、「歴史上の出来事に秀長が関与していたら、おそらくこうだっただろう」というストーリーを作り上げている。

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