『我々は宇宙人』の“写実性”がアニメーションである意義 懐かしさと苦々しさの追憶の仕掛け
『我々は宇宙人』の特徴は、その少年期の精緻な懐かしさに加えて、サスペンスなどの技法も駆使し観客を飽きさせることなく共感と没入を誘う点だ。
サスペンス的な作風は要所要所で挿入され、観客の注意を引きつける。翼が母の目を盗み、没収されて米びつに隠されたDSを持ち出そうとした際の、一粒落としてしまった白米をめぐる演出は圧巻であり、小学生の主観的な恐怖がありありと共有される。
懐かしい小物や生々しいロトスコープなどとあわせてこれらのサスペンス要素なども盛り込むことで、本作は没入を前提とした脚本を成立させる。
本作の脚本は、様々な小物を印象的に登場させ、前半後半での視点の移動や時系列の進行に伴う事後的な気づきを用いて非常に多くの伏線回収を行う。重要なアイテムはもちろんのこと、ちょっとしたエピソードに登場する要素が本筋を構成する脚本は人生が総体として物語を構成しているかと思わせる。
そのように様々な表現を駆使し、伏線回収を操って描かれる物語は重苦しく、不誠実さを多分に残存させ、キービジュアルの明るい少年期の絵面から連想されるような爽やかな青春物語とは違ったものである。
それは、2人のすれ違いと、忘れられてしまった過去、あるいは時を超えて追いかけてくる過去として描かれる。
まず前半は翼の視点の物語である。小学生の翼と暁太郎は仲の良い友人だったが、暁太郎が翼の持っていた親の傘を壊したことで疎遠になる。もともとの素行から保護者の評判も悪かった暁太郎を、翼の厳しい親は遠ざけた。翼はその件でゲームを没収されてしまったために友人から浮き、暁太郎への恨みと彼の奇異さに対する不信感を募らせて悪質な嫌がらせをする。その後、翼はこの過去を忘れ、時に暁太郎以外の人物も踏み躙りながら順調に人生を歩んでいく。
後半は暁太郎の視点で描かれる。彼は傘を壊した後、仲直りしようと翼のランドセルに謝罪の手紙を忍ばせていた。しかし翼はそれに気づくどころか距離を置き続け嫌がらせをし、暁太郎は翼に人生を台無しにされたと感じていた。成長した暁太郎は、アルバイトもうまくいかず苦しい生活の中で、唯一初恋の小夏からもらったラブレターを拠り所にし過去にとらわれ続けている。
やがて暁太郎は復讐のため翼のもとを訪れ、2人は再会する。そこで暁太郎は、翼が自分に対しての加害をすでに忘れていること、そして自分が心の支えにしていたラブレターが翼の書いた偽物だったことを知り、呆然とし、復讐はなされることなく終わってしまう。
その後、別の小学校時代の友人の手も借りてなんとか過去に折り合いをつけ生活を軌道に乗せることができた暁太郎は再び翼に出会う。暁太郎は声高に少年時代のように翼に対して訣別の言葉として「じゃーね」と投げかけ、翼はそれに応えるように「じゃーね」と返す。
このような加害と忘却と苦々しい形での訣別をめぐる物語を、精緻な描写と表現をもって展開することで、『我々は宇宙人』は観客に対して単なるノスタルジーではない、被害者としての自分・加害者としての自分を強く思い起こさせる。
この作品ではかつての友人が再会し真実を知ることまでは実現するものの、明確な贖罪も明確な復讐も実現しない。
その不可逆な過去に対して訣別するしかないという結論を提示するかのようなラストは掘り返された観客の記憶に救いを与えない。
加害者としての記憶に対してはどこまでも居心地悪くその都合の良さを告発するのであり、被害者としての記憶に対してはどこまでもやりきれない不合理を突きつけるのだ。
過去に向き合うことを要求するはずのそれまでの脚本から、加害者である翼が罰せられることなく幸せな家庭を築いたまま追いかけてくる過去と清々しく訣別することができてしまうという煮え切らなさも合わさることで生じる、やるせない感覚は本作独自のものだろう。
まず本作は記憶の隅をつつくような観察眼とロトスコープを駆使した生々しい作画スタイルによりアニメーションでできる最大限のノスタルジーを味方につける。そしてサスペンスと伏線回収を配置することで、常に観客の関心を引きつける。共感を獲得し、関心を引きつけた状況で展開されることで初めて、過去をめぐる非対称で恣意的だが必然的に思える物語を実現している。様々な表現のバランスの上に成り立つ本作は、他の作品では感じることのできない感情を想起させてくれる。
参照
※「ロトスコープと新しいアニメ制作への挑戦 ー メイキングオブ:ひゃくえむ。 開催レポート(第12回 新千歳空港国際アニメーション映画祭)より。
■公開情報
『我々は宇宙人』
全国公開中
キャスト:坂東龍汰、岡山天音、山﨑天(櫻坂46)、松井ケムリ(令和ロマン)、槙木悠人、中込佑玖、鈴木咲、末永陽
企画・脚本・監督:門脇康平
音楽:Yaffle
主題歌: adieu 「ささくれ」 作詞・作曲:Yaffle (Sony Music Labels)
企画・製作・制作:NOTHING NEW
協力:MIYU PRODUCTIONS
配給:TOHO NEXT、NOTHING NEW
©NOTHING NEW, MIYU PRODUCTIONS
公式サイト:https://nothingnew.film/wearealiens/