『ブラッサム』石橋静河の鋭敏な身体感覚 話題のオープニングダンスと“書く姿”から考える

まだ石橋が登場してから2話しか経過しておらず、石橋による執筆場面はわずか1回に限られているため、全体を貫くそうした工夫を考えるにはやや早計かもしれない。だが、ここではひとまず、これまでのエピソードをもとに珠がどのようなキャラクターとして造形され、石橋の身体と今後どう接続されうるかを考えてみたい。
第1話は原稿用紙の上に鉛筆を走らせる摩擦音で幕を開ける(この摩擦音は珠が執筆する際に毎回強調されている)。思いついたように「花咲婆さんになりたい」と呟く85歳の珠(加賀まりこ)が原稿を執筆する姿、そして秘書(松たか子)との軽快なやりとりが短く描かれたのち、オープニングクレジットへと切り替わる。「花咲婆さんになりたい」という言葉に導かれるように、YOASOBIの主題歌「咲き誇れ」が流れ出し、満開の桜のなかで石橋静河が踊りはじめる。
辻本知彦の振り付けによるダンスでは、石橋の手の動きが強調されていることに注目しよう。直前まで画面に映っていたのは、原稿用紙の上で鉛筆を握る加賀の手だった。字を書く老いた手から、宙に軌跡を描く若い手へ。第1話のオープニングは、85歳の珠と若き日の珠を、何よりもまず「手」によってつないでみせる。

ダンサー出身の石橋が踊るとなれば、つい「本編では見られない彼女のダンスを見せる場」として受け取りたくなる。けれど、このオープニングは単なる見せ場として物語から切り離されているわけではない。原稿用紙に向かう手の動きが、そのまま宙を舞う手へと受け渡されたかのように見える。石橋のダンスは、本編で描かれる書くというアクションの延長線上に置かれているのだ。
もっとも、こうした手の強調は、単に石橋の身体性を輝かせるためだけに用意されているのではない。むしろ、それは石橋の身体を物語のテーマへと結びつけるためのアンカーとして機能している。
珠のモデルとなった宇野千代は、必ずしもフェミニズム運動に積極的に関わったわけではないが、彼女が女学校時代を過ごしたのは、平塚らいてうらによる『青鞜』の創刊に象徴されるように、女性たちが自らの言葉で語りはじめた時代だった。第6~7話でも女学校の友人・忍(木竜麻生)が『青鞜』を手にし、ともに同人誌を作る様子が描かれている。
女性たちの手は、劇中ではしばしば旧来の女性的価値観と結びつけられて映し出される。台所で家事をこなす母の手、女学校の授業で針を運ぶ女学生らの手。珠が同人誌に寄稿する小説を執筆するために筆を取る直前には、清治のひげを剃る継母・リョウ(国仲涼子)の手が映されていたのも印象深い。ドラマは手が女性の役割から解放されていく様子を追っていくことになるのだろう。

ただし、このドラマがステレオタイプなジェンダー観に寄りかかっているわけではないことも付け加えておきたい。それは、父・清治の描かれ方からも明らかだ。威圧的ではあるものの、単なる亭主関白ではなく、家父長制から脱落した「放蕩無頼の徒」として、清治は造形されている。旧来の家族の枠組みに縛られているのは、女性たちだけではないのだ。
珠自身の態度も、現時点では曖昧だ。友人の忍が『青鞜』に共鳴し、はっきりとフェミニズムへ傾倒していくのに対し、珠は明確な立場をとっているわけではない。物語もまた、旧来的な女性の役割を担う継母リョウの手を、乗り越えられるべきものとして否定する方向へは進んでいない。第1週では、血のつながらないリョウと幼い珠の絆が、まさしく手のドラマとして描かれていたのだった。
だから、単に家事をする手が旧来的なものとして断罪されるわけではないだろう。珠の手には、リョウから受け取ったものも確かに残っている。そのうえで珠の手は、筆を取り、自らの言葉を書きつける手へと少しずつ変わっていく。石橋の手はこれから、古い価値観を捨てるか守るかというだけでは語りきれない、複雑なドラマを演じていくことになるはずだ。
参照
※1. https://bunshun.jp/articles/-/9519?page=2
※2. https://news.j-wave.co.jp/2026/09/content-5571.html
■放送情報
2026年度後期 連続テレビ小説『ブラッサム』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜から金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:石橋静河、加賀まりこ、松たか子、国仲涼子、渡部篤郎ほか
作:櫻井剛、小松與志子
主題歌:YOASOBI
制作統括:村山峻平、櫻井壮一
プロデューサー:大野陽平
演出:盆子原誠、中泉慧、佐藤玲衣、田中陽児、小林直毅、野田雄介
写真提供=NHK






















