『まどマギ ワルプルギスの廻天』は“魔女”に何をもたらした? 虚淵玄から劇団イヌカレーへ

魔女を命名する
虚淵玄と劇団イヌカレー。何もかも異なる両者であるが、ここでもうひとつ相違を指摘したい。それは魔女への愛着の度合いである。虚淵は人間の業に傾注する作家であるが、その業を「魔女」と呼ぶことについては、それほど拘りがあるとは思えない。そもそも、彼は「魔女」と「魔法少女」という言葉遊びが『魔法少女まどか☆マギカ』の出発点であるとも述べている(※3)。
しかし、イヌカレーはそうではない。魔女はその創造の中核にある。
魔女の世界をイヌカレーは趣向の限りを尽くして、作り上げてきた。魔女の棲む異空間は、つぎはぎからなる奇妙な空間である。それは、一見、蒼樹うめが作り出した愛らしい少女たちが生きる日常とはかけ離れている。ただその一方で、魔女がかつて無邪気な少女であったことが偲ばれる意匠で満たされている。その一つに「魔女文字」がある。丸味を帯びた素朴な形のこれらも文字は、イヌカレーが「当初は本当に自分達以外で使うつもりがなく『読めない字の模様』という扱いだったため、スタッフでも解読方法を知っている人がほとんどいませんでした」(※4)と証言している。魔女文字が綴る魔女の名は、彼らが密かに創出した魔女の側面である。

視聴者参加が『まどマギ』を作ってきた
しかし、放送当初から、魔女文字は視聴者の関心を惹きつけた。国の内外の視聴者が解読作業に没頭した結果、魔女文字は解明され、謎の文字列が魔女の名前を記していることが、ネットで拡散され、共有された。集合知が達成した魔女文字解読をきっかけに、視聴者は魔女の境遇に思いを馳せ、魔女たちへの感情移入を深めていくことになった。とりわけ、マミの頭を食べて視聴者を震撼させたお菓子の魔女・シャルロッテの過去はさかんに議論された。彼女は小児がんを患い、そのつらさに耐えかねて、キュゥべえと契約したという説も生み出されたほどである。シャルロッテに対する高い関心が、ベベことなぎさの登場に繋がったのではないか。筆者はそう踏んでいる。
ここで白状すると、シリーズ開始時、筆者は、魔女が魔法少女の成れの果てであるという設定を手放しで楽しめなかった。それは言外に、若くも愛らしくもない女性は社会の害悪だと伝えているようなものであるし、魔法少女と魔女の戦いも「所詮、女の敵は女だよ」と高みの見物を決め込む態度に通じているようにみえたからだ。しかし、魔女文字解読の議論が白熱するなかで、そうした懐疑はどこかに行ってしまった。

視聴者からの魔女へのコミットは、イヌカレー自身は想像もしていなかったらしい(※5)。しかし、それがテレビ版に与えた効果は計り知れない。イヌカレーの意匠がそれぞれの魔女に名前を与えたことで、筆者のような懐疑的な視聴者を物語世界に引き込まれた。魔女の造形は、まどかによる魔法少女と魔女の救済を着々と準備する虚淵のシナリオと噛み合い、新房昭之の演出を強力に支えた。スペクタクルと脚本が奇跡的に合致したテレビ版と、その緊張感を維持した『叛逆の物語』はアニメ史に残る作品となった。
魔女の物語のこれから
圧倒的な完成度を誇る作品の続編、それも13年ぶりの新作『ワルプルギスの廻天』は、それ自体で大きな賭けである。もちろん、関わり方が変わったとはいえ、虚淵も手を貸している。彼は「大オチ」(※6)によって、まどかに「ワルプルギスの夜」を再度救わせている。
だがそれでも、無視できないのは、魔女へのこだわりから生まれるスペクタクルである。なかでも全ての魔女の名前が記されている「名塚底根」は、かつて魔女文字で魔女の名前を与えたイヌカレーにとっては集大成とも言える仕掛けであり、実際スクリーンにおけるその存在感は圧倒的である。さらに『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(2018年)の監督を務めた古川知宏が絵コンテとビジュアル・コンセプトデザインで加わったことでケレン味も増し、「語る」よりも「見せる」ことが選好されている。

映像に身を任せて、魔女の世界を心ゆくまで楽しめば良いのかもしれない。ただ、それと同時に考えざるを得ないのは、スペクタクルと脚本との均衡がなければ、視聴者の把握は追いつかず、視聴者、とりわけこのシリーズを初めて視聴する者が物語世界にコミットするのは難しくなる、ということである。
本作の結末は、魔女たちの物語がまだ終わっていないことを仄めかしている。だから、もう一度、魔女と魔法少女に会えると期待しているが、その時に魔女と魔法少女の行く末が語られることを願っている。
参照
※1. 虚淵玄インタビュー、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉 パンフレット』2026年、22頁。
※2. 前掲、23-24頁。
※3. 前掲、24頁。
※4. 劇団イヌカレーインタビュー、『【復刻】劇団イヌカレーインタビュー/TVシリーズ公式ガイドブック』、https://note.com/madoka_magica/n/na9738d2c8ac5(最終アクセス:2026年9月24日)
※5. 飯田一史「劇団イヌカレー」、『TV版『魔法少女まどか☆マギカ』事典、https://note.com/ichiiida/n/n0e2ac5d2ab78 (最終アクセス:2026年9月24日)
※6. 虚淵、前掲、22頁。
■公開情報
『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ〈ワルプルギスの廻天〉』
全国公開中
キャスト:悠木碧、斎藤千和、喜多村英梨、野中藍、水橋かおり、阿澄佳奈、若山詩音、黒沢ともよ、加藤英美里
原作:Magica Quartet
総監督:新房昭之
脚本:虚淵玄(ニトロプラス)
キャラクター原案:蒼樹うめ
監督:宮本幸裕
キャラクターデザイン/総作画監督:谷口淳一郎
総作画監督:山村洋貴
異空間設計:劇団イヌカレー(泥犬)
絵コンテ/ビジュアル・コンセプトデザイン:古川知宏
ビジュアル・コンセプトデザイン:川田和樹
色彩設計:日比野仁
美術:内藤健/草森秀一
美術設定:大原盛仁
撮影監督:会津孝幸
編集:松原理恵
音楽:梶浦由記
音響監督:鶴岡陽太
アニメーション制作:シャフト
配給:ANIMEC
主題歌:FictionJunction「彼方」
©Magica Quartet/Aniplex,Madoka Project
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