『さよならララ』の誕生秘話と知られざる演出意図 クリエイティブPが明かす作品への情熱
第1話から仕掛けられていた演出
——森山さんのお気に入りのシーンについても教えてください。
森山:他のスタッフが話さないであろう私のお気に入りシーンは、第10話で茉里とルカがララのことを探して奔走している場面です。特にルカが琵琶湖に湧いている泡にふと目を向けると、散っている花から瞳のようなものがパッと現れてルカが驚くくだりです。劇伴も印象的で、事態は深刻なんですが、音楽はそこまでシリアスにはなっていないんですね。一方ヘリコプターの音が重なっているのは緊迫感があり、現実に引き戻される感じがあります。
——絵コンテではヘリコプター音のニュアンスが視覚的に伝わってきます。第2話の序盤でララが周囲の音を怖がっていたのもヘリコプターでしたっけ?
森山:そうです。ヘリコプターは第1話の一番冒頭の部分から出していて、全編を通した仕掛けを作っているのは小出監督のさすがだなと思うところですね。第1話から登場していたものがここで視聴者にも印象に残るくらい前に出てきて、作ってきた側としては気持ちがいいんです。ここで起きていることはちょっとしたホラーでSFに踏み込んでいく場面ですが、やりすぎるとおそらく視聴者が求めているものから遠ざかってしまうので、いい塩梅で演出が効いているシーンだと思います。作中の人々は明らかに起きている異変を、なんとなくニュースで取り上げられる程度には知っている。明確に異常なものに対して、たとえば子供向けの作品だったら言葉で説明したり表情で伝えたりするのがいいかなと思いますが、『さよならララ』はそういうわかりやすさを描いている作品ではないので、ホラーチックな演出をすごくうまい具合の加減で入れているなと思ったんです。アニメと怖いシーンはすごく相性が悪くて、実写でもよく幽霊なんかが画面に出てきてしまった後はもう怖くなくなってしまったりすると思うんですが、実写でも難しいことをアニメでやろうとなると、本当にジャンプスケアのようにビックリさせるとかそういうやり方になってしまう。そうではなく静かに、日常に寄り添いながら作品の幅をはみ出さない範囲で描いています。
——第10話からすごくシリアスな展開になっていきますよね。
森山:あんなに重たいものを背負っているララの物語を、12話で完結させるなんてそもそも難しいことなんですが、かといってそれを毎週見せられたら「なんで私はわざわざこんな苦しいものを毎週観てるんだ」と思ってしまいますから、そういう作品にはしませんでした。
——それまでは基本的にはコメディ寄りな物語として進んできましたね。
森山:やっぱりララを描くにあたって、みんなにララのことを好きになってほしかったんです。そう考えるとララが頑張っている姿が、苦痛というよりは応援したくなるとか、自分も彼女に励まされて頑張ろうと思えたとか、そういう描き方にしたかった。彼女が背負っているものはすごく大きいんですが、それを苦痛として描くことはしたくなかったんです。そしてララと茉里、ルカが最後にどういう選択をするのか、一人の人間の選択として尊重してほしいなとも思います。人によってはおそらく「こっち行ったほうがよくない?」と感じることもあると思うんですが、「でもララがこれだけ悩んで選択したなら、それもまた一つの道か」というふうに思ってもらえたらうれしいなと。
——『さよならララ』は物語の目的がいい意味でハッキリしていないと思っていて、「本当の愛」が何を指しているのかわからないし、最後はどうなるのかまったく想像がつかないまま楽しんでいました。
森山:そう感じてくださるのであれば、成功していると思います。ララと茉里はもちろん、ルカやグレイス、リサ、コータ、両親や姉妹たちの関係性をひとことで言い表せるかたちでわかりやすく書いたら、それで完結してしまいますよね。小出監督もそこに満たない感情を描きたかったのではないかなと思うんです。
——キャラクターの関係が複雑ですよね。
森山:そうですね。でも現実世界でもよくあることなんだと思います。「親ともめて上京してきたんだ」とか、「学生の頃は親友だったけど結婚を機に疎遠になった」とか、物語として描くと悲劇的になりますが日常では意外とよくあることで、それを描いているだけともいえるんです。もちろん当たり前にあるのを当たり前のように描くと、多くの人がいつも見る景色になってしまうので、そこを飽きさせないようにいろいろな工夫を散りばめています。
——物語的に起伏が少ないところでもすごくディテールに凝っていて、画面を観ていて楽しいなと思っています。
森山:あとはちょこちょこ短い物語としては完結しています。ショートストーリー的な形で、ララがアルバイトを見つけてやり切りましたとか、茉里がボクシングの試合で決勝まで勝ち切りましたとか、小さな区切りを付けつつ、大筋の問題については視聴者を飽きさせないように挟み込んでいます。私としては、今となっては『さよならララ』の物語を自分の中で消化できてきたんですが、なかったことになったわけではない。みんなにララがかわいいといってもらえたら嬉しいというか、親のような立場になっているので、自分の娘の物語が終わってしまって、傷の痛みだけ残っているのが辛いというような感情です。
作品のためのチーム運営
——作品の表現面についてすごく詳細にお話しいただいたので、作品の外側の話もお聞きできればと思います。森山さんにクレジットされている「クリエイティブプロデューサー」とはどういう役職なのでしょうか?
森山:クリエイティブプロデューサーというのはあまり見かけない……というか、この作品のために作った肩書きなので、基本的には見ないクレジットかなと思います。当初は「設定制作」と呼ばれる、作品の設定周りのクリエイティブを発注する役職でした。実は『さよならララ』が始まる直前は、私は一時期アニメ業界を離れようかなと悩んでいた時期だったんですが、小出さんから「オリジナルをやるから参加してくれないか」と誘っていただけて。小出さんはキネマシトラスでずっと一緒に仕事をしてきた先輩で、彼が初めて副監督を務めた作品のときに入社したての私が設定制作・制作進行として参加し、その後も同じ作品に携わってきました。小出さんも私がどういう動きができるか読めているし、ありがたいことに『さよならララ』でも適任だと思ってくれていたので、私もそれはぜひやりたいと思って参加することにしました。もう1人、チームプロデューサーの石川くんが当初はプロデューサーを1人で務める予定だったんですけれど、『さよならララ』のスケジュールを小出さん、石川くん、私というコアメンバーで回すにはどうすればいいかと細かく役割分担をして行った結果、私も設定制作の領域を超えていって、石川くんとプロデューサー業務を分け合うかたちになりました。最初はプロデューサーを2人連名にすることも考えていたんですが、「プロデューサー」の頭につく言葉でどういう役職か判断できるようにしようと、小出さんの発案で「クリエイティブプロデューサー」という肩書きになりました。
——OP映像の原画のメンバーは石川さんが中心となって集めたとおっしゃっていましたね。
森川:石川くんはアニメーターのスタッフィングがすごく上手な子なんですね。優秀なアニメーターさんを、適切なシーンにアテンドしてくれます。石川くんにはそういったチーム運営に注力してもらい、私は現場全体やスケジュール管理を中心にいろいろなことをやっていました。この話数にとっては、小出さんをどう関わらせるのがいいかとか、いつ誰と誰を会わせるのがいいかとかを考えたり。KADOKAWAの宣伝チームとも密にやりとりを重ねていました。『さよならララ』はKADOKAWAの作品の中だと珍しい色をしていて、宣伝のやり方が通常とは異なる部分があったんですね。オリジナル作品でそれをやるのはすごくリスキーなことなので、宣伝としてはこういう方針があって、でもキネマシトラスとしてはキャラをこう見せたくて……と直接交渉を重ねてきました。あとは脚本会議を進めたり、基本的にはアニメーターさん集め以外のプロデューサー業務をやっていたかなと思います。もちろんスタッフィングは石川くんとともにスケジュールを考えないといけないので二人三脚でやってきたと思っています。ただ、『さよならララ』をよくするためにはこれが最善だと思ってそうしましたが、お互いの得意分野だけを担当してしまうと自分の成長にならないし、石川くんも私も初めてのプロデューサー業だから、自分のことを考えたらできたら全部やりたかっただろうし、私もそう思っていましたが、だいぶ最初の頃に「せっかくいい人たちが集まったけど、このままだとその人たちにいいものを回せないまま終わってしまう」と思い、思い切って2人で分担するかたちになりました。小出さんは私たちにそうさせるほどの人徳・魅力がある方です。
——スタッフさんのスペース配信を毎週聞いていましたが、小出さんの人望は厚そうだと感じています。
森山:結構オールラウンダーで、何でもできる方なんですよね。作画もできるし演出もできるし、実際にはやらないにしても編集も自分で少しいじる程度のことはできる。音楽にも詳しいし、できることがものすごく多い。話もうまくて、すごく真摯なんです。仕事にしっかり向き合うし、基本遅れることもない。担当した他の作品で高い評価を得ましたが、それが初めての副監督・演出だったというのがすごいことだし、これまで担当してきた作品でいろいろな人の信頼を得て今に至ると思います。個人的には、小出さんは絵コンテ自体のうまさと、カッティングといって尺を調整する作業が抜群にうまいと思っています。細かく「ここはお尻2コマ切ろう」とか「ちょっと頭から使うところをずらそう」といったことを重ねていくんですが、ちょっとしたテンポの気持ちよさがどんどん洗練されていって、結果的にすごくいいエピソードが出来上がるんです(※)。
アニメスタジオの未来
——近年は従来の製作委員会モデルの枠を超えた、独自の資金調達を実践しているスタジオが現れていますが、キネマシトラスとしては持続性のあるアニメスタジオを運営する上で課題に感じていることはありますか?
森山:キネマシトラスとして最近力を入れているのは、社員の増員と育成かなと。私が人事担当というわけではないのですが、採用人数は増えていますし、どういうステップで誰がどう指導していくか、師弟関係をどう作るのか、いつから実際に作品制作に参加してもらうか、一生懸命設計しているところです。以前からやっていたことではありますが、各工程を担える人がキネマシトラスから育ち、頭角を表す人が少しずつ現れてきたと思っています。
——スタジオ独自の色を継承していくことが重要ということでしょうか。
森山:そうですね。ただそれでいうとキネマシトラスは手がけた作品のジャンルが結構あっちこっちいっているので……。スタジオならではの作風が強く出ているところもありますが、うちは「キネマシトラスといえば」という方向がそこまで濃くはない。逆にそれはそれでいろいろなことに挑戦できる会社だとも思っているので、うまく活用していきたいと思っています。また、かつてはアニメの現場はものすごく労働環境が悪く、徹夜も当たり前、朝に帰って夕方にまた来ますとかいうことがありましたが、今はそんなこともなくなりました。一方で、仕事が「クリエイティブ」なのか、「機械的な作業」をしている感覚なのか結構スレスレなところもあるなとも思っていて。「作業」にはならないまま、労働環境も守って、みんなが健康な状態でアニメ作りが楽しいと思える現場はどんなことだろうと考えながら、いろいろと取り組んでいます。社員が育っていくことは、クリエイティブだけでなく資金面にも大きく関わってくる部分なので後輩たちもどんどん育ってほしいですね。
——『さよならララ』もそのきっかけの一つになればいいなと願っています。
森山:初めて育成した世代も『さよならララ』に参加していて、第2話と第11話で演出を担当してくれた佐藤陽将くんに付いている、「クリエイティブアシスタント」という肩書きも初めて作った役職ですが、小出さんのそばでいろいろな作業を支えてくれた人なのでこうした役職名が与えられました。第7話で作画監督をした川瀬蛍さんも、今作が初めての作画監督になったキネマシトラスの社員です。彼らのような存在が社内の中で生まれてきたおかげで『さよならララ』が成り立っているので、いい影響が出てきているかなと思います。
参照
※ 小出がOP映像の絵コンテを手がけたTVアニメ『メイドインアビス』についても、そのこだわりが語られている。(https://realsound.jp/movie/2022/08/post-1098636.html)
参考
『さよならララ』小出卓史インタビュー(『ニュータイプ 2026年8月号』KADOKAWA、所収)
『さよならララ』森山菜月(クリエイティブプロデューサー)インタビュー(『spoon.2Di vol.136』KADOKAWA、所収)
TVアニメ『さよならララ』スペース配信https://x.com/Goodbye_Lara/status/2075550556819694029
https://x.com/Goodbye_Lara/status/2078087353105871260
https://x.com/Goodbye_Lara/status/2080624177615376496
https://x.com/Goodbye_Lara/status/2083160828279414882
https://x.com/Goodbye_Lara/status/2085697560455614807
https://x.com/Goodbye_Lara/status/2088234230468002182
https://x.com/Goodbye_Lara/status/2090770939139268733
https://x.com/Goodbye_Lara/status/2093307704064491939
https://x.com/Goodbye_Lara/status/2096206823066104099
『さよならララ』小出監督&上田Pインタビュー——若手スタッフによるオリジナルストーリーの誕生秘話(https://x.com/DMMTV_ANIME_PR/status/2086482822005772376)
『さよならララ』小出監督&キャラデザ谷氏インタビュー——アニメ制作者としてのプライドを込めた画面(https://x.com/DMMTV_ANIME_PR/status/2086652997053133080)
小出卓史監督に聞く「さよならララ」の深い話①(https://febri.jp/topics/sayonara-lala-interview-1/)
さよならララ:クリエーティブプロデューサー 森山菜月インタビュー いろいろな「人生の要素」が詰まっている(https://mantan-web.jp/article/20260807dog00m200060000a.html)
■配信情報
オリジナルTVアニメ『さよならララ』
各配信サイトにて配信中
キャスト:菱川花菜(ララ役)、川石奈奈(大津茉莉役)、深見梨加(グレイス役)、村瀬 歩(ルカ役)、大野智敬(大津祥弥役)、真殿光昭(大津 誠役)、住友七絵(大津江万役)、てらそままさき(ローワン役)、津田美波(リサ役)、山本和彦(コータ役)
原作:キネマシトラス
監督:小出卓史
シリーズ構成:川原杏奈
キャラクターデザイン:谷 紫織
美術監督:藤野真里(スタジオPablo)
色彩設計:相澤里佳
撮影監督:出水田和人(T2studio)
編集:黒澤雅之
グラフィックデザイン:濱 祐斗、山口真生
深海イメージ:MON
ウォーターアーティスト:吉邉尚希
音響監督:山田 陽
音楽:yuma yamaguchi
音楽制作:KADOKAWA
アニメーション制作:キネマシトラス
OP主題歌:いきものがかり「さよならララ」(EPIC Records Japan)
ED主題歌:Hana Hope「Hearts Glow」(Sony Music Labels)
製作:「さよならララ」製作委員会
©キネマシトラス/「さよならララ」製作委員会
公式サイト:https://goodbyelara.com
公式X(旧Twitter):@Goodbye_Lara