『風、薫る』“平蔵”太田光の変化が示す“直美”上坂樹里の成長 “看護の正体”が描かれていく

「What is nursing?」(看護とはなにか?)

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』128話は、何度も問われてきたこの問いについての“具体的な答え”が示されていくような回となった。

 りん(見上愛)と直美(上坂樹里)の恩師であるバーンズ(エマ・ハワード)がこの言葉のあとに「The one being questioned is myself」(問われているのは私自身である)と残したように答えはナース一人ひとりの中にある。しかし、それが一人ひとりの患者さんにぴったりと当てはまるわけではない。だからりんも直美もずっと観察を続け、考え、悩み続けているのだ。そして、ある時ふと“正解”にたどり着くことがある。

 たとえば、直美と平蔵(太田光)。直美が平蔵の派出看護へ向かうと、子どもたちと囲碁を打っていた。毎回恒例となっている“酒の量チェック”を行うと、いつもより減っていない。平蔵は真面目な顔をして「しかたねえよ、飲むと頭が回らなくなっちまうから」と囲碁に夢中だ。直美もこんな形で平蔵の生活習慣が改善するとは思っていなかっただろう。

 出会ったばかりの頃、平蔵は直美に自分は「弱い人間ではない」と言ったことがある。恵風看護婦会を立ち上げ、「多くの人に看護を届ける」という使命に燃えていた直美は、患者を“弱い立場の人”と見ていたことに気がつかなかったのだ。そこから語気が強く、その言葉で本質をついてくる平蔵のことを直美は少し苦手としていたようだが、次第にお互いに心を開き、平蔵は自分が戊辰戦争の生き残りであることや妻を亡くしたこと、直美は軍人の吾郎(甲斐翔真)と結婚することや子どもが生まれることなど、さまざまなことを話してきた。そしていつの間にか、平蔵はナースになりたいというツヤ(東野絢香)の実習相手になってやり、“囲碁の弱いお役人”こと柳生(中村倫也)に意見するなど人と関わるように。最初は青白かった平蔵の部屋に、最近は太陽の光が差し込んでいることが多いのは、直美がくるようになって清潔になったからだけではなく、平蔵の気持ちも変化したからだろう。

 そしてりんは、シマケン(佐野晶哉)のもとへ。一時は危ない状況だったものの、彼は回復し、「今回ばかりはもうダメだと何度かよぎりました」と振り返る元気と余裕が出てきていた。その「もうダメかも」という思いが、「りんの手を離したくなかった」という本音を吐露させたのだろう。だが、今、こうしてシマケンがりんと会話できているのは、その言葉を「ずるい」と跳ね除け、「生きて」と言ったりんがいたからだ。かつて帝都医科大学病院に勤めていた頃のりんは患者に寄り添いすぎてしまうところがあった。「患者に回復して欲しい」という思いは抱いていただろうが、強い言葉でそれを言い表したのは初めてだったのではないだろうか。

 患者の命を救うために医療も看護も日々進化している。しかし、最終的に大切なのは患者自身の“生きたい”という気持ちだ。りんの「生きて」という言葉はシマケンの奥底に追いやられていた“生きたい”気持ちに火をつけたのだ。コレラで弱っていく父に何もできなかったことを悔やんでナースを志したりんは、専門知識を身につけ、行動でついに大切な人を救うことができたのだ。

 そして、患者を救うだけが看護の仕事ではない。後進を育てていかなくてはその道が途絶えてしまう。りんは、恵風看護婦会の看護婦養成所で生徒たちに教えながら、帝都医科大学病院で自身が担当した患者・山本辰治(本田大輔)から言われた「自分が努力するより、下の者を育てるほうがよっぽど難しい。答えが出るのはずっと先だ」という言葉を噛み締めていた。恵風看護婦会からは4人が看護婦試験に挑戦し、2人の新しいナースが誕生した。りんがやってきたことへのひとつの“答え”が出た瞬間だ。

 振り返れば、長い“看護の道”ができている。支えてくれた家族や道なき道を一緒に切り開いてきた梅岡看護婦養成所の仲間、厳しくも温かく見守ってくれていた看病婦や医者の先生たち、そしてその姿をもって生きることの素晴らしさを教えてくれた患者たち。そして、バディとなってともに歩んできた直美。これまで出会ってきたすべての人が、今のりんを支え、次なる世代への確かな力となっている。

 最後にシマケンから本を書くことを勧められたりん。受け継いできた看護の“タネ”を何百人、何千人へとまくことができるこの仕事が、りんの最後の仕事となるのだろうか。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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