『風、薫る』“公輔”井上祐貴が強烈なインパクト りんと直美は社会の不公平に向き合う

 NHK連続テレビ小説『風、薫る』第79話では、横沢公輔役の井上祐貴が初登場。りん(見上愛)が新潟に来てから、早くも半年。そんな彼女の前に現れたのは、間違っていることには「異議あり!」と声を上げずにはいられない新聞記者だった。

 ある日、店の列に大地主の羽田(西堀亮)が堂々と割り込んでくる。相手が土地の有力者であろうと、順番を守らないのはおかしい。りんが思わず注意すると、そこへ「異議あり!」と入ってきたのが横沢である。一番後ろに並ぶのは当たり前だと、畳みかけるような嫌味で羽田を責め立てる。その勢いに、りんは思わず吹き出してしまう。大地主の顔を立てるどころか、完全に逆なでしているのだから、羽田が腹を立てて去っていくのも無理はない。

 横沢は、なぜかりんのことを知っていた。なぜ知っているのか、気にならないのかと問いかけ、半ば強引に食事へ誘う。そこで横沢は、土地の大地主を敵に回すべきではないとりんに忠告する。ならば、自分はなぜ羽田に意見したのか。横沢の答えは、それが間違っているから、という実に単純なものだった。敵に回せば厄介だと分かっていても、黙って見過ごすことはできない。理屈っぽく、少々面倒ではあるが、その正義感はりんとも似ているような気がする。

 信州出身の横沢が問題視しているのは、国会開設を前に行われる選挙についてだった。選挙権が与えられるのは、15円以上を納税した者だけ。国の行く末を決める選挙でありながら、そこに意見を届けられる人は限られている。横沢が新聞記者として伝えようとしているのは、そんな社会の偏りなのだろう。

 りんは横沢に「正しい社会とは何ですか?」と尋ねる。「もちろん……」と勢いよく答えかけた横沢も、さすがに言葉に詰まる。間違っているものを指摘することはできても、正しい社会がどのようなものかをひと言で示すのは難しい。そんな問いを投げかけてくるりんを気に入ったのか、横沢は「また会いましょう」と握手を求める。欧米式だからと言いながら一気に距離を詰めるあたり、正義感は強いが、振る舞いはどこか雑である。

 一方、東京では直美(上坂樹里)が、お金がないため医者にかかろうとしない文(内田慈)と向き合っていた。体調を崩して倒れた文を看護し、医者を呼ぼうとする直美。だが、文は診察代を払えないからと拒む。

 直美は「お金がなくて治療を受けられない人を見るのは嫌です」と訴えるが、文から返ってきたのは「それはあなたの勝手でしょ」という言葉だった。直美が見たくないと思っても、医者にかかることで生じる負担を背負うのは文である。その言い分はもっともだ。それでも直美は、倒れた文をそのままにしておくことができず、無理にでも医者を呼ぼうとする。

 瑞穂屋で働いている文が、なぜ医者代にも困っているのか。直美が尋ねると、文は借金を返し続けていることを明かす。彼女の望みは、つつがなく暮らし、何も残さず、きれいさっぱり人生を終えること。何かを成し遂げたいわけでも、誰かに覚えていてほしいわけでもない。ただ借金を返し、迷惑をかけずに人生を終えたい。それが文にとってのささやかな願いだった。

 新潟でりんが投げかけた「正しい社会とは何ですか?」という問いは、東京の直美と文の関係にも重なってくる。納めた税金によって選挙権の有無が決まり、お金がなければ具合が悪くても医者を呼べない。りんと直美の前にあるのは、正しいと思うだけでは簡単に変えられない社会の仕組みである。

 井上が演じる横沢は、初登場にして実に面倒で、どこか憎めない。新潟で立ち止まっていたりんの物語に、新たな風を吹き込む人物となりそうだ。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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