『豊臣兄弟!』の“本能寺の変”はなぜ成功したのか? 歴代大河との比較で見えた現代性
「多分もう疲れちゃったっていうことだと思っていて」と信長を演じる小栗は取材会で語っている。「燃え尽き症候群じゃないですが、これ以上逃げてまた走っていった先に何があるんだろうと、彼のなかに終着点が見えてしまったのかなと」
森乱に「お気を確かに」と励まされたときの信長はまさに疲れた顔をしている。小栗旬はしょんぼりした顔をさせたら日本で屈指の俳優だと筆者は思っているのだがそれが見事に発揮されていた。余談だが、小栗はマントやコートが似合う俳優でもある。今回の信長はマントを着なくてちょっと残念。でももうマントがなくても筋肉が育っていて、その身そのものの魅力で勝負できている。
燃える本能寺のなかで光秀、浅井長政(中島歩)、信澄……と自分が不幸にしてしまった者の幻が次々と信長の前に現れる。信澄に「父の仇、死ねー」と斬りかかられたとき、信長をかばったのは信勝――と思ったらそれは森乱だった。信長が信勝と森乱を混同することで森乱を弟のように思っていたと感じさせるのは、ホームドラマ大河らしい。
信長が切腹するとき、もう一度信勝が現れて「我らの人生はろくなものではありませんでしたな」と言う。信長はあとを託す秀吉がいると思っていると小栗は解釈したという。つまり兄弟で疑いあい殺し合うような時代は終わりだということだ。秀吉と秀長にも愛憎はある。でも憎を選ばず愛を選ぶ、そんな豊臣兄弟に信長はこの国を任せようとしたのだろう。
歴史では秀吉と秀長の運命もあまり明るくはないのだが、それをいったいこれからどう描いていくのだろうか。
戦国時代を終わらせて戦のない国を作るのは家康(松下洸平)である。『豊臣兄弟!』のなかでは食えない人物として虎視眈々と出番を待っているところ。ちなみに家康を主人公にした『どうする家康』(2023年)では信長(岡田准一)と家康(松本潤)が濃密な愛憎関係で結ばれている設定だった。本能寺の変が起きると信長は家康が討ちにくることを心待ちにしすぎて次々襲いかかってくる敵兵が家康に見えてしまう。やがて現れたのが明智(酒向芳)だったとき「お前か……」と落胆する。
『豊臣兄弟!』でも「お前じゃない」と信長は吐き捨てた。2作続けて不憫に描かれる光秀。だが、光秀が主人公だった『麒麟がくる』(2020年)では信長(染谷将太)と明智(長谷川博己)の関係は麗しい。ふたりは本能寺で顔を合わせることはないが、遠く離れても共鳴し合う。光秀は自分が理想の国づくりのために怪物に作りあげてしまった信長を自らの手で葬ろうとする。そして信長はここでは光秀を強く求めている。共に夢見てた同士の別れという青春の終焉のような非常にドラマティックな最終回に本能寺が据えられた。
大河ドラマの名作のひとつとされる『秀吉』(1996年)の本能寺の変では、母を信長(渡哲也)に殺された光秀(村上弘明)は母の祥月命日に信長を討つ。母との関係が濃い秀吉と、母を殺された光秀。『豊臣兄弟!』は兄弟が、『秀吉』では母子関係が二重映しになっている。
本当にいろいろなパターンを楽しめるのが戦国ものであり、本能寺の変だ。『豊臣兄弟!』では大河ドラマで初めて本能寺の変を描いた『太閤記』のように潔く死ぬことを誇りに思っているように受け取られる描写は一切なかった。後悔を抱え、死を受け入れることを勇ましさとせず、誰かに未来を託すことを選択するのは、戦後80年、新しい戦前とも言われる現代らしい戦国ドラマである。
■放送情報
大河ドラマ『豊臣兄弟!』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/毎週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、白石聖、坂井真紀、宮澤エマ、倉沢杏菜
大東駿介、松下洸平、中島歩、要潤、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗旬ほか
語り:安藤サクラ
脚本:八津弘幸
制作統括:松川博敬、堀内裕介
演出:渡邊良雄、渡辺哲也、田中正
音楽:木村秀彬
時代考証:黒田基樹、柴裕之
プロデューサー:高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友茜(広報)
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.web.nhk/tv/pl/series-tep-P52L88MYXY
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