生田絵梨花×原嶋凛が支えていた『風、薫る』看護婦養成所編 “同期”の成長の今後は?

 看護婦養成所での日々が大きな節目を迎えたNHK連続テレビ小説『風、薫る』。りん(見上愛)と直美(上坂樹里)が、身分や育ち、背負ってきた過去の違いを抱えながらも、トレインドナースを目指して歩んできた過程がここまで描かれてきた。第5週からは、2人に加えて多江(生田絵梨花)、喜代(菊池亜希子)、ゆき(中井友望)、しのぶ(木越明)、トメ(原嶋凛)らが梅岡看護婦養成所に集まり、個性の異なる一期生たちの共同生活が始まった。もちろん、物語の中心にいるのはりんと直美だが、その周囲で大きな役割を担ってきたのが、多江とトメの存在である。

 第13週からりんたち見習い生はいよいよ看護婦となる。もちろん、ここまでの中心にいたのはりんと直美だが、養成所編を振り返るうえで欠かせないのが多江とトメの2人だ。看護婦を目指す理由も、学び方も、仲間との距離の取り方も違う2人は、りんと直美の横でそれぞれの変化を見せてきた。だからこそ、看護婦となった彼女たちが今後どう動いていくのかにも期待が高まる。

 まず多江は、登場した時点からかなり強い印象を残していた。江戸時代には奥医師をしていた家に生まれ、兄や弟も医師という環境で育った彼女は、看護婦養成所の中でもどこか特別な意識を持っている。知識もあり、英語もできる。だからこそ、バーンズ(エマ・ハワード)の授業が始まってからも、髪型を洋髪に変えることや、エプロンを作ることに対して納得できず、不満をぶつける。シーツを替えること、掃除をすること、換気をすること。それらがなぜ看護なのか、彼女にはすぐには理解できなかった。

 この時の多江は、一見すると少し扱いづらい優等生にも見える。正しいことを言っているはずなのに、どこか周囲と噛み合わない。だが、生田絵梨花の芝居から伝わってくるのは、単なる自信ではなく焦りだ。医療のそばで育ちながら、自分は医師にはなれない。看護婦になることが自分にとって本当に進むべき道なのか、どこかで迷っている。背筋を伸ばした佇まいや、相手をまっすぐ見据える視線には強さがある一方で、ふとした表情の揺れには、まだ自分の居場所を探しているような不安も滲んでいた。強い台詞をきっぱりと言い切れる生田だからこそ、多江の厳しさには説得力があるし、そのぶん一瞬見せる迷いも印象に残った。舞台『レ・ミゼラブル』や『リア王』、ドラマ『素晴らしき哉、先生!』(ABCテレビ・テレビ朝日系)、『アンメット ある脳外科医の日記』(カンテレ・フジテレビ系)などで、芯の強い人物から揺れを抱えた人物まで演じてきた生田だが、本作の多江ではその経験が、凛とした佇まいと内面の揺れを同時に見せる芝居につながっていると言えるだろう。

 そんな多江にとって転機となったのが、実家で縁談が進み、自身も高熱で倒れてしまう一連の出来事だ。声も出せず、看護される側になった多江のもとに、りんや直美たちが次々とやってくる。最初はどこか空回りしていた同期たちの看護が、バーンズの教えを思い出すことで少しずつ形になっていく。医師が病を治すだけではなく、患者が少しでも楽に過ごせるように環境を整え、気持ちに寄り添うことも看護なのだと、多江は自分の身体を通して知ることになる。強くあろうとしていた彼女が弱ることで、初めて看護の意味に触れる。この場面で生田は、声を失った多江の戸惑いや悔しさ、そして少しずつ変わっていく心の動きを、表情だけで伝えていた。言葉を封じられた場面でも感情の流れが見えるのは、目線や呼吸の細かな変化で多江の内面を作っているからだろう。

 一方のトメは青森・津軽出身で、裕福な農家の末っ子。初登場時からどこかあっけらかんとしていて、直美を先生と間違える場面にも、彼女らしい素直さが出ていた。周囲の空気を読みすぎず、感じたことをそのまま口にすることも多く、普通なら角が立ちそうな言葉でも、トメが言うと不思議と場がやわらぐ。原嶋は、これまで主演映画『空は穏やかに暮らしたい』や東宝短編映画『フレイル』、NHK大河ドラマ『いだてん』などに出演してきたが、本作ではその人なつっこさを過剰に作り込まず、自然な間合いと表情で見せている。台詞の前後に少しだけ間を置くことで、トメの素朴さやおおらかさが伝わってくるのもいい。

 印象的だったのは第25話で実家から届いたりんごをみんなに振る舞う場面だろう。入学したばかりの一期生たちは、出自も年齢も考え方もばらばらで、まだどこかぎこちなかった。そんな中で、トメは特別なことをするわけではなく、ただ「おいしいものを分けたい」という気持ちでりんごを差し出す。その何気ないやり取りによって、張りつめていた空気が少しほぐれていくのがよかった。原嶋は、その一連のやり取りをことさらに明るく演じるのではなく、トメにとってはあくまでも当たり前の行動として見せていたからこそ、彼女の優しさが押しつけがましくならないし、同期たちの距離が少し縮まっていく流れにも説得力があった。

 病院での実習が始まってからは、トメの頼もしさも見えてきた。ゆきが担当する患者・小野田(宮地雅子)の容体が悪化した場面で、呆然とするゆきの横でトメはてきぱきと動いていた。普段は少しのんびりしているからこそ、いざという時に迷わず動ける姿は頼もしかった。

 養成所で学んだことは、実際の現場に立ってからこそ試されていくはずだ。りんと直美に多江とトメが加われば、患者への向き合い方にもそれぞれの違いが出てくるだろう。厳しいことも言える多江と、場をやわらげながら周囲を見て動けるトメ。養成所で見えてきた2人の個性が、看護婦となった彼女たちの姿にどうつながっていくのか。第13週以降の『風、薫る』では、生田と原嶋の芝居にも引き続き注目したい。

■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK

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