『田鎖ブラザーズ』は新井順子P史上最も“重くて歪”な作品に? 兄弟が迎える結末とは
画面に映し出された田鎖真(岡田将生)の挑戦的な笑み。社会福祉課の職員・秦野小夜子(渡辺真起子)を前に、一度は心を崩されたように見えた真だったが、実は最後まで飲み込まれてはいなかった。
金曜ドラマ『田鎖ブラザーズ』(TBS系)の第6話で「本当は父ちゃんみたいに作る仕事がしたかった」と涙を流した真。秦野のカウンセリングで見せたその姿は、これまで誰にも見せてこなかった本心をさらけ出したようにも映った。しかし続く第7話では、それが単純な「陥落」ではなかったことが明らかになった。真は、彼女の懐へ飛び込みながらも最後の一線は越えていなかったのである。
秦野の逮捕へ向かう直前に交わされた兄弟の会話が印象的だ。弟の稔(染谷将太)が「おとりにでもなるつもりだったのか。また秦野にそそのかされるぞ」と釘を刺すと、真は「うるせえよ、そんなわけねえだろ」と返す。そして稔は静かにこう続ける。
「なら絶対落としてくれ」
こう言われて真が見せた笑みに、ゾクゾクした視聴者も少なくないはずだ。この短い会話には、お互いの強さも弱さも知り尽くした者同士だからこそ成立する信頼が滲んでいた。相手がどれだけ危うく、どれだけ無茶をする人間なのかを理解している。それでも最後には託す。その関係性は、単なる「信頼」という言葉だけでは表現しきれない。バディものとして胸が熱くなった瞬間であると同時に、兄弟だからこそ成立する、2人だけの「聖域」を見た瞬間だった。
本作を担当した新井順子プロデューサーが描いたバディものと言えば、真っ先に思い出すのは『MIU404』(TBS系)だろう。同作は、抜群の運動神経を持ちながらも刑事の常識に欠ける伊吹藍(綾野剛)と、理性的だが過去のトラウマから他人も自分も信用していない志摩一未(星野源)が「第4機動捜査隊」でバディを組み、事件解決に奔走するサスペンスドラマだ。劇中の伊吹と志摩は、異なる個性が衝突し合いながらも、事件を通じて互いの傷を理解し、成長していく。それは視聴者をどこまでもワクワクさせる、王道にして理想的なバディの姿であった。
対して『田鎖ブラザーズ』の真と稔が織り成すバディ像は、その疾走感とは対照的だ。「まるごとメロンパン号」で軽快に街を駆け抜けた伊吹と志摩に対し、真と稔は31年前の事件という「共有せざるを得なかった闇」を背負い、地獄の底で互いの手を握りしめ合っている。画面にべっとりと張り付く、世界中で2人だけしか共有できない絶望は、『MIU404』で魅せた熱量とは異なる「どろっとした質感」を伴っている。
兄としての責任感からすべてを一人で背負い込もうとする真と、その兄の重圧を誰よりも近くで見つめてきた稔。秦野が稔に対して投げかけた「真さんはあの日から稔さんを優先に考えていたんじゃないですか。そして、あなたはそれを息苦しく感じるようになった」という言葉は、確かにこの兄弟が抱える核心的な歪みを突いている。真の「稔を最優先にする」という絶対的な正義は、裏を返せば、稔にとって「兄の人生を奪い、縛り付けている」という目に見えない罪悪感であり、逃れられない息苦しさそのものだったからだ。