猫背椿、『風、薫る』でも際立つ“デキる女”のオーラ 話題作で体現するパワフルな女性像
NHK連続テレビ小説『風、薫る』では、トレインドナースを目指すりん(見上愛)や直美(上坂樹里)に対して、もともと帝都医科附属病院で経験を積んできた看病婦たちの冷ややかな対応は一貫している。その代表格、猫背椿演じるベテラン看病婦の永田フユも見習い看護婦たちを歓迎していないどころか、棘のある言い方やそっけない態度で取りつく島もない。
フユはりんや直美たちのように専門的な看護を学んでいないが、りんが担当する公爵家の和泉千佳子(仲間由紀恵)の乳がんの手術の介助を完璧にこなしていた。外科教授・今井益男(古川雄大)との息もぴたりと合い、手際よく手術を進めていった。長く仕事をしているからといって、外科手術の介助ができるかといえば誰にでもできるものではないだろう。
りんはフユの無駄のない動きを目の当たりにして「手術中、フユさんの手際が良くて、私もあんなふうになりたいなぁと」「できるかわかんないけど、看護婦になりたいと思った」と話しており、フユの姿が改めて看護の仕事を目指す原動力となったようだ。
やるときはきっちり結果を出し、関心がないように見せておいてしっかり周囲の動きを把握する。フユのようなできる女は、些細な変化も見逃さないのだ。
たとえば、直美がおだてに弱く、調子に乗りやすい外科助教授の藤田邦夫(坂口涼太郎)にお世辞を言って患者の希望を叶えている様子を見ていた永田フユ。「あんた……ほかの見習いたちと違って、ずいぶんずるい女ね」と、冷静につぶやくと、直美は堂々と「ずる賢いって言ってくれます?」と言い返した。直美のしたたかさを指摘するだけでなく、ほかの見習いたちの様子もきちんと把握した上での直球コメントで、フユ自身がりんや直美を警戒しているようにも受け取れる。
第9週「看病婦とアメ」では、ベテラン看病婦・フユのこれまで語られていない背景や仕事との向き合い方などに期待できそうだ。猫背椿が朝ドラに初出演したのは、2001年の『ちゅらさん』で、本作は25年ぶりの朝ドラ出演というのも感慨深い。
猫背は、宮藤官九郎作品の常連俳優として活動の幅を広げ、話題作への出演が続いている。大河ドラマ『どうする家康』では、徳川家康(松本潤)の叔母であり、安城松平家77代当主・松平清康の娘、徳川家臣団・酒井忠次(大森南朋)の妻・登与を演じた。
忠次とはおしどり夫婦で、夫婦そろって盛り上げ上手。忠次が宴会芸の「えびすくい」を踊ると一緒に踊り、家臣団のために裏方仕事もこなす、戦国時代の理想的な主婦という役どころだった。
理想的な主婦といえば、今期のドラマでは『時すでにおスシ!?』(TBS系)にも主人公のみなと(永作博美)とみなとの親友・泉美(有働由美子)が通うスナック「べてらん子」のママ・小宮山蘭子役で出演している。ノリが良くて、盛り上げ上手、泉美がインストラクターをしているピラティス教室の生徒でもあり、蘭子はとにかくエネルギッシュな女性なのだ。
夜はスナックでママをしているが、蘭子は夫と2人の子どもがいる主婦で、家事をこなし、ママ友との適度な付き合いもしている。
「私、ゴールデンウィークって嫌い。傘、横に持って歩く人ぐらい嫌い」だと、みなとと泉美に話していて「そんなに連休が嫌いなのか!?」と驚いたが、家にずっと夫がいて「昼ごはん何?」「夜ごはん何?」って聞かれ続けて「もう〜あんたが作れば?」と思わず言いそうになった苦い経験について語っていた。
どこまでも忙しい主婦の味方であり、みなとと泉美の良き理解者である蘭子。真面目で堅物講師の大江戸海弥(松山ケンイチ)への鋭いツッコミも冴え渡る。蘭子一人で切り盛りしているがスナックは繁盛していて、ここでも無駄な動きはなく、プロフェッショナルなママとして堂々たる存在感を放っている。
NHKプレミアムドラマ『終活シェアハウス』では、シニア女性のシェアハウスで雑用係として雇われた翔太(城桧吏)の彼女、美果(畑芽育)の母・ゆり子を猫背椿が演じていた。昼は運送会社の事務、夜はパートで雑居ビルの清掃の仕事をしているシングルマザー役だ。
こうして猫背椿の近年の話題作出演を振り返ると、ただ仕事ができるというだけでなく、マルチタスク型? 掛け持ち型? 昼夜問わず一人で何役もこなす器用でパワフルな女性像が浮かび上がってきた。キャリアを積み、さまざまな作品で才能を開花させ、本作の永田フユ役でも熱い視線が注がれている。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK