仲間由紀恵とともに光る谷田歩の芝居 大河ドラマ俳優が生む『風、薫る』和泉元彦の説得力
NHK連続テレビ小説『風、薫る』で、谷田歩が和泉元彦役を演じている。元彦は、仲間由紀恵演じる和泉千佳子の夫として登場する人物だ。千佳子が中心となる場面が多いが、夫である元彦の存在によって、彼女がどんな家庭の中にいて、何を抱えてきたのかが少しずつ見えてくる。派手に前へ出る役ではないものの、千佳子の人物像を深めるうえで欠かせない役どころである。
谷田と聞いて、朝ドラや大河ドラマで見覚えがあるという視聴者も多いだろう。朝ドラでは、2020年度前期のNHK連続テレビ小説『エール』に濱名中佐役で出演。大河ドラマでは『江〜姫たちの戦国〜』で織田信忠、『花燃ゆ』で囚人、『真田丸』で森長可、『西郷どん』で木場伝内を演じている。作品ごとに出番の分量は異なるものの、いずれも歴史の流れの中で、短い登場でも印象を残す役が多い。大河ドラマは登場人物が多く、ひとりの人物に多くの説明が割かれるとは限らない。だからこそ、短い出番でも「この人はどういう人物なのか」をすぐに伝える芝居が求められる。谷田には、その人物がどんな場にいて、周囲とどう関わっているのかを、登場した瞬間に感じさせる説得力がある。
大河ドラマでの印象が強い谷田だが、現代劇でも確かな存在感を見せてきた。TBS日曜劇場『下町ロケット』では、佃製作所の技術開発部長・唐木田篤役を演じている。佃製作所は、技術への誇りや会社の未来をめぐって、登場人物たちの思いがぶつかり合う場所でもあった。その中で唐木田は、感情を大きく表に出すというより、現場の状況を冷静に見つめ、技術者たちを支える大人としての落ち着きを感じさせる人物だった。谷田の低く安定した声や、無駄のない立ち姿は、そうした職業人としての説得力にもつながっていた。
また、映画『SP 革命篇』では、テロリストグループのリーダー・東郷役を演じた。こちらは『下町ロケット』の唐木田とはまったく違う役柄だが、場面に緊張感をもたらすという意味では、谷田の持ち味がよく生きた役だったといえる。さらに『検察側の罪人』『燃えよ剣』などにも出演し、現代劇から時代劇まで幅広い作品でキャリアを重ねてきた。
その印象を支えているのは、舞台で培ってきた身体性でもある。谷田はシェイクスピアシアター附属演劇研究所を経て、吉田鋼太郎が主宰する劇団AUNに参加してきた俳優である。舞台経験のある俳優は、映像の中でも立ち姿に説得力が出やすい。谷田の場合も、台詞を言っていない瞬間に、その人物が何を考え、どんな関係性の中にいるのかを感じさせる。『風、薫る』の元彦にも、その強みがそのまま生きているといえるだろう。
今回の元彦は、千佳子の夫という立場でありながら、千佳子の心の奥にどこまで踏み込めているのかが見えにくい人物だ。千佳子は、凛とした雰囲気をまとい、簡単には弱さを見せない人物として描かれている。けれど、病を抱える中で、心の奥にある不安や寂しさも少しずつ表に出てくる。元彦は、その千佳子の夫でありながら、彼女のすべてを理解できているわけではないようにも見える。そんな夫婦の距離は、大げさな言葉ではなく、短い会話や視線の置き方ににじんでくるものだろう。谷田の落ち着いた芝居は、元彦が抱える思いや、千佳子との間にある言葉にならない距離を、無理なく感じさせてくれるに違いない。
5月22日放送回では、りん(見上愛)が元彦を呼び出したことをきっかけに、千佳子をめぐる意外な事実が明らかになっていくようだ。これまで多くを語られてこなかった元彦が、夫として千佳子とどう向き合ってきたのか。その部分が見えてくることで、千佳子の孤独や夫婦の関係性も見えてくる。谷田が、元彦の戸惑いや千佳子への思いをどのように見せてくれるのかにも注目したい。
谷田は物語の中で必要な場所に立ち、相手役の感情や場面の空気を受け止めながら、作品全体を支えることができる俳優だ。大河ドラマや日曜劇場で重ねてきたキャリアを見ても、そうした信頼感があるからこそ、多くの作品で必要とされてきたのだろう。元彦という人物の見え方を変えるとともに、谷田の持ち味が発揮されていくことになりそうだ。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK