『風、薫る』仲間由紀恵がこぼした“生きたい”という本音 りんの看護が千佳子の心を救う
NHK連続テレビ小説『風、薫る』第39話では、千佳子(仲間由紀恵)の胸の内にりん(見上愛)が触れていく一方で、直美(上坂樹里)が寛太(藤原季節)と再会する。
まず印象的だったのは、りんが千佳子の診察をめぐって医局を訪ねる場面だ。千佳子の主治医である今井(古川雄大)に対し、りんは「もう少しご配慮いただきたい」と伝える。男性の家族がいる前で診察されることに、千佳子が抵抗を感じているのではないか。千佳子本人がそう言ったわけではない。だが、りんは日々接する中で、彼女の表情や態度から何かを感じ取っていたのだろう。
今井からすれば、新米の看護婦が診察のやり方に意見してきたようにも見えたのだろう。空気が少し張りつめる中で、黒川(平埜生成)が「何か方法を変えてみるのも一つの手」と口を挟む。りんをかばうというより、患者にとって必要なら変えるべきだと判断したのだ。りんが礼を言っても、黒川は「君に礼を言われる筋合いはない」とあくまで冷静。そのそっけなさも含めて、必要なことだけを淡々と通す黒川らしさが出ていた。
りんが感じ取っていたことは、間違っていなかった。診察室で診察を受けることになった千佳子は、部屋を出る時には鼻歌を歌うほど機嫌がよくなっている。やはり、元彦(谷田歩)の前で診察を受けることに、どこか引っかかりがあったのだろう。千佳子がはっきり言葉にしたわけではない。それでも、日々そばにいるりんは、その小さな違和感に気づいた。患者の表情や態度から、言葉にならない気持ちを受け取る。りんは、“患者をよく見る”という看護の本質を、少しずつ自分のものにしていた。
一方、直美はりんに頼まれた買い物の帰り、思わぬところで寛太と再会する。直美は、ある男性が口にした“夕凪”という名前が、自分の母親に関係しているのではないかと気にしていた。寛太は相変わらず詐欺師で嫌なヤツであることに変わりはない。だが、今回の直美との会話では、ただ軽薄に人をだます男というだけではない顔も見せていた。直美に対して、どこか負い目を抱えているようにも見える。
そして、りんと千佳子の距離も少しずつ近づいていく。気づけば2人は、双六をして一緒に笑えるほどの関係になっていた。りんに娘がいることを知ると、千佳子は自分の結婚式の日のことを話し始める。「人って思ってるより変わらないものよ」。年齢を重ね、見た目が変わっても、心の中にある感情まで簡単に変わるわけではない。胸を失った自分が夫の隣にいることが恥ずかしく、悲しい。千佳子の言葉からは、病の痛みだけではなく、女性として、妻としての苦しさも伝わってきた。
千佳子の本音を前にして、りんは「そんなことありません」とすぐに否定することはしなかった。胸を失った悲しみも、夫の隣にいることを恥ずかしいと思ってしまう気持ちも、千佳子にとっては消しようのない現実だ。りんはその痛みを受け止めたうえで、「死にたくない、生きたいと思うことは恥ずかしいことではありません」と伝え、そっと背中に手を添える。千佳子の弱さを正そうとするのではなく、そのままそばにいる。そこに、りんが少しずつ身につけてきた看護の形が表れていた。
りんが千佳子の背中に添えた手は、まだ未熟な看護婦の手かもしれない。それでも、千佳子が誰にも言えずに抱えていた悲しさや恥ずかしさを、りんは確かに受け止めていた。患者の体だけではなく、心の揺れにも気づき、そばにいること。その一つひとつが、りんの看護になっていくのだろう。千佳子がこぼした「生きたい」という思いは、りんにとっても、看護婦として誰かの命と向き合う意味を改めて考えさせるものになった。
■放送情報
2026年度前期 NHK連続テレビ小説『風、薫る』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00~8:15放送/毎週月曜~金曜12:45~13:00再放送
NHK BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜8:15~9:30再放送
NHK BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30~7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:見上愛、上坂樹里
脚本:吉澤智子
原案:田中ひかる『明治のナイチンゲール 大関和物語』
制作統括:松園武大
プロデューサー:川口俊介
演出:佐々木善春、橋本万葉ほか
写真提供=NHK