大河ドラマは「超大河」へ進化すべきか? 『豊臣兄弟!』から考える“史実”を描く意味

 ここで、大河ドラマとは何かについて、定義を明らかにしておきたい。大河はあくまでフィクションだから何でもあり、という声もあるからだ。

 資料として2025年の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』のチーフディレクター大原択の父で、大河第1作から関わっている大原誠が書いた『NHK大河ドラマの歳月』を読んでみる。そこにはこうある。

「大河ドラマのスタート時は、歴史ドラマを制作するというよりも、あくまでスケールの大きい、健全娯楽作品をつくるというのが大目的だったようです」

 歴史ドラマよりも大型健全娯楽作を目指していた。とはいえ、できるだけ正しくその時代を描きたいとスタッフは考え、「時代考証」という仕事が生まれた。本にはそうも書かれている(大意)。

 当然、時の流れのなかで変化していくことはあるものだが、大河ドラマの生みの親たちはいまの大河をどう思うだろうか。

 おもしろいは正義。受け手に愛され、支持されたものは生き残る。たとえそれが真実ではなかったとしても。書き残されていない空白の部分をいかに創作するかが、歴史物語の醍醐味だ。さしずめ『絵本太閤記』などは江戸時代の大河ドラマのようなものであろう。史実をもとに空想で面白さを増した娯楽物語。秀吉が草履を温めたことで信長に重用されたことは創作ながら民衆に受けて、あたかも本当のことのように残っている。『豊臣兄弟!』では序盤、秀吉と秀長の紹介的なことで、『絵本太閤記』に記された人気エピソードである草履の逸話を描いた。そのまんまではなく、信長が草履をふたつに分けて、秀吉と秀長に片方ずつもたせることにした。こうして秀長の存在価値も生まれ、この創作は好意的に受け止められていた。

 秀長が主人公なので、彼の見せ場が必要だ。第16回では、これも人気創作のひとつと言われている市が信長に届けた小豆袋の逸話を使いつつ、秀長が市の空白の手紙にメッセージ性を見出した。例えば『どうする家康』では小豆の逸話が創作された理由を、実は阿月(伊東蒼)という名の人物が伝令として存在していて、それが小豆袋に置き換えられたのだという伝説のオリジンとして描いた。残された史実や伝承をどうアレンジするかが作家の腕の見せ所。それを視聴者が厳しい目で見て良いとかよくないとか自由に値踏みする。

 『豊臣兄弟!』はあくまで知られた人物のオリジナルエピソードで、それが漫画やアニメみたいで親しみやすいという評価がある。それはとてもいいことだと思う。ジャンプ漫画みたいという声もあるし、筆者はファーストガンダムこと『機動戦士ガンダム』を思い浮かべている。民間人(主に若者)が戦争のただ中に放り込まれ、「君は生き延びることができるか」というキャッチコピーのもとサヴァイブしていく話に近いように感じるのだ。

 早くに父を亡くした秀吉、秀長兄弟が自分たちなりに工夫し、生き延びながら出世していく。兄弟もその仲間たちも皆若い。頼れる大人がいなくて自力でなんとかしないといけない。弱いところも愚かなところもある彼らの人間ドラマは十二分に描かれている。信玄が餅を喉につまらせるのも青春映画『アメリカン・グラフィティ』(1973年)の主人公たちのその後の人生のような悲しみやおかしみを思わせる。

 ただ欲をいえば、これが漫画のようなシン大河とか超大河でなく、あくまで63年間の伝統をもつ大河ドラマであれば、『ガンダム』のような軍記もののような側面もあってほしい。

 例えば、三方ヶ原の戦いがどのように行われたか、有名な小説などを読んでみても戦術の面白さに興味を引かれる。戦場の地理を含め、どれだけ俯瞰して作戦を立て実行するか、先人の知恵にわくわくするのだが、それを描くには予算も時間も必要だろう。そこで三谷幸喜が得意とするような戦場から離れた人間ドラマにシフトしているのが昨今の大河ドラマである。

 もちろん、生活があっての戦であるし、生きることを大事にするために、生活の尊さや生きている者たちの魅力を生き生き描くことが重要だ。とくにいまの時代においては。ただ、大河をきっかけにせっかく生まれた「時代考証」という仕事がもっと生かされることを願う。

 もっとも、秀長、秀吉の活躍はこれから。知的な戦略をスケール大きく描く回もこれからが本番と信じている。

■放送情報
大河ドラマ『豊臣兄弟!』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/毎週土曜13:05〜再放送
NHK BSにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:仲野太賀、池松壮亮、吉岡里帆、浜辺美波、白石 聖、坂井真紀、宮澤エマ、倉沢杏菜
大東駿介、松下洸平、中島歩、要潤、山口馬木也、宮﨑あおい、小栗旬ほか
語り:安藤サクラ
脚本:八津弘幸
制作統括:松川博敬、堀内裕介
演出:渡邊良雄、渡辺哲也、田中正
音楽:木村秀彬
時代考証:黒田基樹、柴裕之
プロデューサー:高橋優香子、舟橋哲男、吉岡和彦(展開・プロモーション)、国友茜(広報)
写真提供=NHK

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